1章9話 黄金律
「マシン子はどこに車を停めたんだ?」
「いってなかった? 私、都内に住んでるから普段は電車なのよ」
ふーんと聞き流した風に見せかけたが、頭の中では都内という文字がグルグル回り始めていた。俺は産まれてから一度も東京に行ったことがない。
林間学校は群馬県だったし修学旅行は沖縄県だった。拳法部の練習試合で千葉県に行ったのが俺史上、最も東京に近づいた瞬間だ。東京の街なんて、もっといえば東京の女性なんて生涯縁がないと思っていたので、目覚ましドッキリを受けたような気分がする。
「それなら車で移動しても良いか? この辺り、駐車料金が高いんだ」
「オッケー。義経の横に乗るなんて、まるでデートみたいね」
「そ、そんなことないぞ。こんなの田舎じゃ普通だからな」
「アハハ、柄にもなく照れちゃって。お姉さん、そういうの大好物だゾ」
何が「だゾ」だよ、全く。
お姉さんといっても一歳しか変わらないじゃないか。
駐車場から車を出し、国道沿いを適当に流す。
助手席のマシン子はフフフーンとハミングしながらニコニコしている。
この上機嫌さは何だ?
もしかして俺に好意を?
いやいや、その逆かもしれない。
恋愛の対象に入っていないからこその無防備さ。
そうとも考えられる。
「昼飯の食える店が良いよな? 今日はおごるぜ」
「ホント? 何にしようかな~。フレンチのフルコースが良いかも」
「よし、任せとけ」
「アハハ、冗談。ファーストフード店で充分よ」
それにしてもマシン子は、ホントに気さくというか人懐っこいな。
しかも今日はいつもの五割増しで可愛い。
彼女の場合、素体が良いので化粧すると化けかたが尋常じゃない。
完全装備のマシン子に俺は狩られるのか。
サクッと狩られちゃうのか。
この距離で長時間いると俺の色々が崩壊しそうなので、適当に目星をつけた店に車を滑り込ませた。
「こういう店、日曜は混むから駐車スペースが足りなくなるんだよな。十二時前で良かった」
「そっかー、田舎は大変だねえ~」
「田舎バカにすんなよ。熊が怒って襲いかかってくるぞ」
「うわ、それリアルに怖い……」
昼食には早いのに店はかなり混んでいて、俺達は何とか一つだけ空いていた席を確保することができた。俺はドリンクバー付きハンバーグセット、マシン子はドリンクバー付き山盛りケーキセットなるものを注文。
昼食だぞ?
ケーキで良いのか?
「じゃあ、詳しく聞かせてもらおうかしら」
「食べてからじゃダメか?」
「食べてからだと脳が甘味に支配されてしまうわ」
お前だけな。
「じゃ、ドリンクバーだけ入れてくる。マシン子もドリンクバー付いてるだろ?」
「そうね、そうしようかな」
ドリンクバーにはちょっとした
高校の頃、広島達とファミレスでブレンド開発合戦をした事があったのだが俺の黄金律ブレンド、名付けて『ダーピスソーダ』より洗練されたブレンドは誰も開発できなかった。なので当然、ここでもそれをチョイス。
「ちょっと義経、その奇妙な飲物は何?」
「何といわれても、ダーピスソーダだが」
「ダーピスって……。意外とお子ちゃまなのね」
「タコ天だって見た目以上の美味さがあるだろ? 飲まず嫌いは損だぜ。ほら、お前のも作ってやるよ」
「それは本当に遠慮するわ」
そういいながらマシン子はコーラにカルピスをブレンドしていた。
フッ、初心者め。いつか高みに登ってこいよ。
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