1章8話 タウンモード
日曜の駅前は歩道もロータリーも大混雑で、仕方なく有料駐車場に車を預けた。
「一時間五百円って……」
駐車料金の安いところは既に満車状態だったので空いている所に入れたのだが、五百円といえば俺の一食分を越える料金だ。完全に足元を見られているとしか思えない。
待ち合わせは駅前広場で十一時。
マシン子にラインを送ったら、会って話したいといわれたのでここにいるわけだが。
河原で石を採取していた時は状況的なマジックで何も思わなかったが、休日の駅前で待ち合わせるとなるとさすがに色々考えてしまう。
彼女は俺に何を話したいのか。
もしかして告白されたりするのか。
マシン子に彼氏はいるのだろうか。
それに二人でいるところを知り合いに見られたら少し恥ずかしい。
フリーターのくせに綺麗な彼女がいるじゃねーかと思われるかもしれない。
俺達は恋人でも何でもないが、他人からすればそんな事情なんて解らないからな。
「あれっ、櫻井か?」
フラグを立てた途端にこれだ。
「広島か。久しぶりだな」
「卒業式以来だな、元気だったか?」
「それだけが取り柄だからな」
「ハハ、違いない!」
彼は
高校時代のクラスメイトで結構仲の良かった奴だ。
所属していた部活も同じで拳法部。
よく広島をサモハンに見立て、じゃれ合っていたものだ。
卒業してから彼は進学、俺は就職だったので接点もなくなり連絡も取らなくなったが、それでも親友であるといい切れる程には楽しい思い出が幾つもある。
「広島はデートか?」
「解る? 解っちゃう? サークルで知り合った女の子と付き合ってるんだけどね、ソイツが俺にベタ惚れで参っちゃうぜ~」
広島はサモハンに見立てていただけあって、ぽっちゃりさんだ。
いい方が優しすぎた。
がっつりぽっちゃりさんだ。
高校時代はことあるごとに『彼女ほすぃ~』とブヒブヒ喚いていたが、念願が叶ったようで本当に良かった。
「そうか、良かったじゃないか」
「おう! で、お前の方は彼女できたのか?」
何だこの上から目線は。
持たざる者に対する配慮が欠けてるぞ。
何だか、ちょっと悔しい。
「まあ、ボチボチな」
「ボチボチって何だよ~、ウリウリ」
面倒臭い奴だな、察しろよ。
「ヒロくぅ~ん、待ったぁ~」
「ううん、俺も今来たとこだよメグたん」
「そっちの人わぁ~?」
「高校時代の友達で櫻井っていうんだ」
「ども」
「はじめまして~メグミでぇ~す。気軽にメグたんって呼んでね」
「お、おう」
広島もここで待ち合わせしていたのか。
このおバカっぽい喋り方をする女性が彼女らしい。
別に
広島は幸せそうだし女性は顔じゃないとは思うが、価値観は本当に人それぞれだな。
「あ、いたいた。義経、お待たせ!」
面倒なところにマシン子がきちゃったよ。
もう少し遅ければ、広島達に見られることもなかったのに。
恥ずかしぃ~。
おっと、メグたんの口調が
何気に影響力あるな、メグたん。
「義経のお友達? こんにちは、菊川です。あ、私タイミング悪かったかしら?」
「大丈夫だ。じゃ、広島またな!」
「お、おう、またな」
広島の奴はマシン子を見て勘違いしてるかもしれないが、こんな綺麗な女性と俺が付き合えるはずがない。いつもはノーメイクで独特のエスニック・ファッションの彼女は、今日に限ってカジュアルで可愛い洋服を着ていてメイクもバッチリ決まっている。
「義経、どうしたの?」
「何でもねえよっ」
お前が綺麗すぎるんだよ。
すれ違う男が全員振り返ってるじゃないか。
いつものラフな感じはどこに行ったんだ。
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