1章7話 違法

 マシン子と出会って俺の収入は底上げされた。


 彼女の採取ペースは週一度だったので、その度に待ち合わせをして山奥へ踏み入った。マシン子の鉱石知識は豊富で、どのような種類があり、どのような場所で採取できるかなど多岐に渡って詳しかった。


 俺は彼女から鉱石の事を聞くたび、自分の知識が磨かれて行くのを感じた。

 そして今までは自分の感覚で綺麗だと思う石を採取していただけだったが、その中からより価格的に価値のある鉱石を選別できるようになったのだ。


 とはいえ、価値はないが俺の感性にピッタリ合致する石もある。

 そんな石も採取してしまうので、庭の一角はスベスベ石のパーティ会場みたいになっている。


 得た知識を元に高く売れそうな鉱石だけを選別してオークションに出品した結果、平均二十万円程だった月の収入が二倍近くまで膨れ上がった。


 知識って本当に凄い。

 同じ事をやっているだけなのに知識の有無で、これ程までに差がついてしまう。

 俺は知識の必要性に大きな価値を見いだした。


「母さん、何か欲しい物ない?」

「よっちゃんが買ってくれるの? そうねぇ、お母さんブランドバックが欲しいわぁ~」


 晩御飯の席で何気なく聞くと、母さんはそう返してきた。

 面白くなった俺は後日、三十五万もする高級ブランドバックを本当にプレゼントしてあげた。


 母さんは『どうしたのこれ! 悪いことしてるんじゃないでしょうね?』と疑っていたが、オークションの取引に使っている銀行通帳を見せて今俺が何をやっているのかを説明すると一応納得し『ありがとう、大事に使うわね』といってくれた。


 でもその際に『川の石って勝手に持ってきたら違法になるんじゃないかしら?』ともいわれた。


 今までそんな事は考えもしなかったが、その類の知識は確かに持っておくに越したことはない。知識に価値を見いだしていた俺は、ためらいなく川を管轄している役所へ電話で問い合わせてみた。


 担当者の話では、河原は公共使用物なので大量に持って帰るのは違法。

 個人利用の範囲で少量持って帰るくらいなら大丈夫、とのこと。

 俺は担当者に礼を告げ電話を切ったが、内心ドキドキしていた。


 一回の採取で持って帰る数は十個程度だが、それを二日に一回続けている俺は担当者の話していた『大量に持って帰るのは違法』に当てはまるのではなかろうか。


 犯罪を犯してまで金を儲けたいと考えているわけではないので、これはまずい。

 このまま続けていつか警察に捕まったら両親に悪いし、友達にも合わす顔がない。


 時間の融通が利いて誰にも縛られない稼ぎ方だったが、何もこれにこだわる必要もないからな。河原に行くのはもうやめるべきだろう。


 ――マシン子はどうするのだろうか。

 彼女は俺が行かなくなっても一人で鉱石を探すのだろうか?


 彼女は職人で、それを職業としている。

 それに彼女が持って帰る鉱石は一回の採取で二個か三個。

 時にはゼロの時もある。

 役所の見解的にも違法ではない。


 俺と出会うまではずっと一人で鉱石を探していたのだし、多少心細くはなっても今更探すのをやめたりしないだろう。


 マシン子にやめる事を伝えておこうか……。

 彼女と会えなくなるのは残念だが、この事情では仕方ない。

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