1章4話 出会い

 価値を見いだした物のことは詳しくしりたい。 


 俺は山奥の河原で初めて石を採取した日から、採取した石のことをネットで調べ続けている。とはいえ、難しい内容は嫌いなのでかなりの記事を読み飛ばしてはいるが。


 ある記事によると川の上流では宝石の原石が普通に採取できるらしい。

 水晶、瑪瑙、翡翠、サファイア、ルビー。

 名前は知っていても今まで身近に感じたことのなかった鉱石の名前。


 俺が採取した石達の中にも、そんな鉱石があるかもしれない。

 そう思うと何だか急にワクワクしてきて、さらに色々と調べて回った。

 宝石なんて何百万も出して買うものだと思っていたが、まさか河原にあるなんて瓢箪から駒。


 どの記事にも見つけるのは難しいと書かれてあったが、果たして本当にそうなのだろうか。今まで手付かずの場所なら相当な量が溜まっているはずだ。俺の見つけたスベスベアイランドにならきっとたくさんあるに違いない。


 鉱石の違いも調べてみた。

 例えば水晶とトパーズは似ているが含まれている成分が違うらしい。

 何だか難しそうな化学記号が書かれていたので半分も理解できなかったが、種類によって価値も変わることだけは解った。


 そして本気で鉱石と向き合っているマニアにとっては種類が大事で、種類によって価格が大きく違ってくるらしい。


 金額的に価値のある鉱石にみんなが惹かれるのは解る。

 でも俺にしてみれば採取してきた石は、それが鉱石でなくとも自分の価値観に照らし合わせて採取した物なのだから全て価値のある石だ。


 それに種類といわれても、さっぱり判別がつかない。


 だから俺は採取してきた石を自分が綺麗だと思う順に出品し、オークションの反応をうかがった。結果的に出品した石には全て入札が入り、一ヶ月で二十万以上もの金を稼ぎ出すことができた。


 自分の石に対する価値観は間違っていない。

 そう思えて何だか誇らしい気分になった。


 自分に自信が持て、尚且つ金もあれば欲しい物をつい買ってしまう。

 俺は最初の一月で稼いだ金の半分以上を放出し、等身大ジャッキーフィギュアをオークションで競り落とした。


 人懐っこい顔でありながら鋭い眼光。鍛え上げられた芸術的な無駄のない肉体。そんなスーパーヒーローがファイティングポーズを取ってこちらを挑発していたのだ。しかも関節はほぼ全てが稼働するという優れモノ。彼の前に立ち、同じくファイティングポーズで迎え撃つ姿を想像すると買わずにはいられなかった。


 到着した商品を見た母さんは、『夜中に拳法の稽古始めないでよ』とだけいうと興味無さ気に台所へ消えて行った。でも後日、関節が少し動かされていたので気にはなっているのだと思う。もしかしたら母さんではなく父さんが動かした可能性もあるが。


 石を採取し始めてから三ヶ月が経過したある日。

 いつもの河原で初めて人と遭遇した。


 しかもこんな場所には似つかわしくないほど綺麗な女性だ。


 以前流行したエスニック風の外衣を身に纏い、濡れるのも構わず中腰で川底を探っている。見た感じ俺と変わらない年頃の女性が山奥に一人で来るなんて驚きだ。


 彼女は俺と目が合うと軽く会釈をして川底あさりを再開した。俺も会釈を返し、河原の石を物色して価値のありそうな物を探して行く。


 今まで孤独な作業だったので、その日は傍に誰かがいるというだけで少し嬉しかった。例えそれが面識もなく知り合いになれる可能性がない人でも、誰かと一緒にいられるのはそれだけで心が休まるものだ。


 俺はいつもより上機嫌でスベスベした石を採取していた。


 昔から夢中になると周囲が見えなくなり雑音も聞こえなくなる。

 だから彼女が声をかけてきた時は、本当にビックリしたものだ。

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