1章3話 大人で子供

 ここは人気スポットではないらしく、空き缶や何かの燃えカスなどのゴミと呼べる物が一つもない。


 普段多くのゴミを街中で目にしている俺にとっては新鮮な環境だ。

 山奥の清浄で神秘的な場所。


「癒されるな」


 無意識に声が出てしまう。


 俺は目についた綺麗な石を次々とリュックに詰め込み、適当な重さになったところで採取を切り上げた。まだまだ石は無数にあるし、売れるかどうかも解らないので欲をかく必要はどこにもない。


 リュックの中に詰まった石を見て、俺は自然と口元がニヤけた。

 とても艷やかで綺麗な石達。

 自分の中で石達の価値がどんどん上がって行く。


 ただの石なのに何故こうも綺麗なのか。

 何故こんな山奥で誰にもしられず転がっているのか。

 見ていると吸い込まれそうになるのは何故なのか。


 終始ニヤニヤしっぱなしだったので、もし誰かが見ていたら気味悪がられたと思う。


 翌日、俺は早速オークションサイトに登録した。

 そして綺麗な石を一個だけ一円スタートで出品してみた。

 鶏の卵くらいの大きさで曇りガラスのように半透明のスベスベした石だ。


 商品を出品する際には画像が必要だったのでスマホで何枚か撮り、一番ピントが合っている物を載せた。もっと綺麗に撮りたかったが、カメラのことなんてさっぱり解らないのでこれで良しとする。


 出品期間は二十四時間から一週間までの選択が可能で、出品者の操作によっていつでも期間変更ができる仕様になっている。俺は取り敢えず一週間に設定してみた。最初だし、売れるかどうかも解らないので少し弱腰の設定だ。


 出品してから数十分後には最初の入札があった。

 ネットの事はよくしらないが、こんなに早い反応が普通なのだろうか。それからゆっくりと入札価格は伸びて行き、二時間後には一円から二百二十円にまで上がっていた。


 入札者は八人。少なくとも日本中で八人はこの石に価値を見いだしている、ということだ。俺は自分の価値観を認められたような気がして嬉しかった。


「よっちゃん、晩御飯できたよ」


 階下で母さんの声が聞こえた。

 うちの家は木造二階建てで築四十年。

 鉄筋と違い階下の声がよく響く。


「明日大雨らしいね。よっちゃん、川で何かするっていってたでしょ? 雨の日は休んだら?」

「そのつもり。雨の日はさすがに流されると怖いしね」


「それなら良いけど。何をしてるのかしらないけど危ないことはしないでよ」

「解ってるって。俺はもう子供じゃないんだぜ」


「何いってるの。大人だったらフラフラ遊んでないでしょ。まあ、自分の事は自分で決められるだろうからうるさくはいわないけど」

「うん、ありがたいと思ってる。そのうちたっぷり儲けて母さんの欲しい物を買ってあげるからな。それまで暖かい目で見てやって」


 ちょっと小狡い感じで媚びを売ると、母さんはヤレヤレといった風に肩をすくめてみせた。俺の家は両親と俺の三人家族で、家族仲は比較的良好だと思う。


 父さんは飼料製造の自営業をしていてる。

 母が煩くいわないのもいざとなれば父さんの仕事を手伝えば良いと思っているからだろう。


 夕飯の後、オークション状況を確認すると綺麗な石の価格が四百円まで上がっていた。


 それからも徐々に上がり続け、深夜零時には八百円を越えてしまった。

 怖くなった俺は出品期間を二十四時間へと変更してから眠りについたのだった。

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