1章2話 綺麗な石

 俺の住んでいる町は山間で、車で数十分も走れば有名な川の源流近くへ辿りつく。入れるギリギリの山道に車を停め、ひたすら源流を目指して獣道を歩く。長袖シャツにゴム長靴とゴム手袋。細かな採取道具はリュックに入れ、両手は常に空けておく。


 川沿いを進むと最初は釣り人や家族連れも目に付いたが、奥に行けば行くほど人気ひとけがなくなり、やがて体に感じる空気の温度が変わる頃になると現世とは隔絶された別世界の様相をかもし出す。


 自然の中で自分独りしかいない恐怖感。それでいてどこからともなく湧き上がる高揚感。とても相反する感覚を味わいながら降りれそうな河原を探す。


 お目当てのスベスベした石は川をさかのぼっている間も無数にあったが、流れが速かったり水位が高かったりで採取できなかった。やろうと思えばできなくもないが、水流に押し流されたらどうしようと思うとできなかった。


 俺は他人とは物の考え方が違うと自覚しているが、だからといって現世に絶望しているわけではない。


 寧ろ生きることに価値を見いだしている。

 生きていれば何だってできるし挑戦もできる。

 死んでしまえば挑戦しようにもスタートできないのだから。


 暫く川沿に道なき道を歩き、ようやく降りれそうな河原を見つけた。


 早速河原へと降りた俺は、足元に敷き詰められた無数の小石を物色して回った。その河原にあった石は全てオークションで見たスベスベの形をしている。全てが売れるわけではないだろうが、それでも一個四百円の宝物が無数にある。


 いうなればここは宝の宝庫、スベスベアイランドだ。


 曇りガラスの様な半透明の石、緑がかったキラキラした石、赤っぽい水晶のような石。色々な石を見ていくうち、いつの間にか俺は石の魅力に憑りつかれてしまった。

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