1章 現代編

1章1話 俺の分岐

 俺の価値観はズレていると、昔からよくいわれていた。


 例をあげれば小学生の頃。

 好きだった女の子に誕生日プレゼントを渡した事がある。


 表面にジャッキーチェンの笑顔が描かれたコンパクト。

 『これを使えば見るたびにパワーが漲るぜ』といって渡したら、『パワーを漲らせる必要なんてどこにもないわ』とドン引きされた。


 当時の俺はジャッキーチェンの映画に価値を見いだしていたので、きっと喜んでもらえると信じて疑わなかったのだが、どうも感覚がズレていたようだ。


 それから中学・高校と進むにつれそのズレは大きくなって行き、高校を卒業してフリーターになった頃には独自の価値観ができあがっていた。


 最初に就職した勤務先は残業だらけで自分の時間が取れなかった。

 俺は自由時間こそ人間にとって価値があるのだと考え、その仕事を一ヶ月で辞めて深夜バイトを始めた。


 時給千五百円で拘束時間は八時間。

 週四日勤務で月平均十九万円の稼ぎになり、自由時間もたっぷり取れる。


 天職だと思った。


 しかし二年程勤め上げた時に会社が不況に見舞われ、真っ先に深夜勤務が廃止となってしまった。職を失った俺は、あれこれバイトを探したが価値を見いだせる仕事がなかなか見つからずに暫く無職を続けていた。


 いくら実家で暮らしているとはいえ、欲しい物を買うのに親を当てにする歳でもない。数十万あった貯金はいつの間にか溶けて行き、そろそろ本格的に働かなければマズイな、と思っていたのだが。


 インターネットのオークションサイトをたまたま見た時、そこで売られていたある商品から目が離せなくなった。


 ただの石、とでもいえば良いのか。


 道端に落ちているような石ではなく、角が取れてスベスベした赤っぽい石。商品説明を読むと川の上流で拾った天然石かもしれない石らしく、出品者もそれが何なのか解っていない様子だった。


 珍しいといえば珍しいのだろうが、それでもただの石だ。


 そんな物が一円スタートから十人以上の入札を経て四百円まで値を上げていたのだ。何に使うのか、何の役に立つのかさっぱり解らない石であっても、その石に価値を見いだした人間が少なくとも十人以上いる計算になる。


 俺はオークションという販売方法に可能性と価値を見いだした。

 自分にとって価値ある物を出品すれば、価値観を共有できる人が見つかるかもしれない。そう思ったからだ。


 石に興味はなかったが、翌日から近所の河原でスベスベした石を探し始めた。


 しかしその河原にはオークションで見たような石はなく、仕方ないのでどんどん川を上って最終的には山奥にある上流の河原まで到達してしまった。


 思えばこの行動がターニングポイントになったのだと思う。

 いや、この場所である女性と出会った事がターニングポイントか。


 彼女は俺に、価値を超えた先にある物を気付かせてくれたのだから。

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