第22話

僕はこう見えてとても偉い。

そんな僕と結婚するということは、人間でいう王族と平民が結婚するようなものだ、周りの反響も凄く強いものになるだろうしゴタゴタした仕事も回ってくるだろう。僕は絶対しないけれど。


本当に悩んだんだ。僕が生まれてここまで悩んだ事は無かったよ。毎日寝てたし。

そして決めたんだ、うん、結婚した。


簡単に言うね。子供も出来たよ、今どこにいるのか知らないけれどね。僕が人間に生まれ変わる時も、彼女は自分の故郷をずっと見守っていたはずだった。そう、はずだった。目の前の彼女が現れるまでは。


「終わったよ。」


「さっすがだねー!ラーク君。じゃあ遅いからそろそろもう帰ろっか、お家まで帰...」


「一緒にご飯食べに行こうよ。夫婦なんだし。」


逃がすわけないじゃないか、スノウの足跡が掴めるかもしれないんだ、僕の勝手な判断で人間になってきたけれど、僕の元妻なんだ。

気にならない訳がない。


「いや、僕もちょっと仕事が...」


昔を振り返っている間に彼女の”中”を調べたけれどやっぱりスノウの記憶は無かった。

正真正銘『黒霧涙』なのだ。


「そんな事言わないで3人でいこーよ。美味しいご飯作ってくれる所知ってるんだ。ね?レイカもそう思うでしょ?」


「レイカ...?うわっ!なんでここにいるのさ!僕とラークの二人だけだったんじゃ...」


「違います!私だって家に帰ろうとギルドから出たら急にここに出たんですよ!何度帰ろうとしても二人の側から離れられないんです、意味分からないですし!」


「わー、すごく奇遇だー。じゃあ行こう!ギルドから近いからさ」


二人を無理やり連れて行く場所、それは僕の今の唯一の帰る場所。

そう、ギルド本部から5分ほど歩いて、路地に入った所。外装は汚いが質はいい宿屋。


「おかえりラーク、飯は出来てるよ。それに彼女を二人も連れ込むなんてやるじゃないか。」


「え...なにここ、僕でも知らなかったんだけど...。」


「宿屋...?ですか?ここに何か秘密の料理店とかあるの?」


「この人が作るご飯が美味しい。だからここで食べよう。」


僕はここのお店しか知らない。でも自信を持って進める事が出来る。


「お二人の彼女さんも食べんのかい?仕方ないね、あんたで稼がせてもらったんだ、今日は特別機嫌がいい。待ってな」


「アルネット。レイカは彼女じゃないし、黒い方は僕の妻だよ」


玄関正面の受付から調理場に向かおうとしていた、アルネットが盛大にこけた。

前から転けたが、即座に精霊達が支えたため怪我は無さそうだ。


「は...はは、聞き間違いかな。ラーク、妻って言った?」


「うん、僕の妻だよ。これから一緒に過ごすから。」


脱力した表情で口をポカンと開けるアルネットに黒霧さんは違いますと否定を続けるが聞こえていないだろう。


「じゃあ部屋に戻ろう、アリアも待ってる」


---

結果から言うとすごくたいへんだった。


アリアは倒れた。黒霧さんも受け入れる体制になってきた。アリアが起き上がって、結婚とはどういうことか長々と説明された。

幸せにしろよ。と話して落ち着いた所で、

僕の過去の恋愛の話になり、名前は出してないが、元々相手がいた事をかいつまんで説明してたら、アルネットが追加の料理を持ってきて、そのまま倒れた。


「ラークさんが結婚なんて...しかも2回目!?保護者として見過ごせません!」


アリアは僕の保護者なのか。僕が生み出したんだけど...


「ちなみに子供も居る。」


今度は全員が口をポカンと開けている。

レイカに至っては、ごめんねつらい過去を聞いて、と謝罪してきたが意味がわからないのできちんとした結婚だときちんと訂正した。


箸も進んで少し落ち着きを取り戻してきた頃に、黒霧さんに対してアリアが問い掛けた。


「黒霧さんは本当にラークさんと結婚するんですか?ラークさん冗談じゃなくて本気で言ってますよ。」


そう、僕はいたって真面目に結婚するつもりだ。人間の結婚というのも経験してみたいし別れられるなら安心。人間だから浮気じゃないしね!


「それなんだけど...何で僕なの?それだけきちんと教えてくれたら...考えてあげる。」


「ひとめぼれかな」


うん、うそは言ってないです。

聞いた癖にすごく顔を真っ赤にしてる、かわいい。レイカも同じことを思ったみたいです


「ギルドマスター凄く顔が赤いです。」


「うっ...うるさいなー!こういうの慣れてないんだよー。」


アリアも少し気になってきたみたいで


「黒霧さんが良ければ結婚してもいいんじゃないんですかー?ラークさんこう見えても凄くえらい人ですよ?」


「え、お前偉いのか...?」


「昔のはなし。今はえらくない。」


今はただの人間。昔は上から2番目の神様だっただけ。


「別に権力とかお金とかじゃないんだ...その...優しい人がいい。あと強くて守ってくれる...」


「あはは、ギルドマスターを守れる人なんてこの世にいな」


その瞬間レイカがこの場から一瞬消えた。

そして数秒後に元に戻る。が、全身がひどくおびえ震えてる、顔色は真っ青で半泣きだ。


「すみませんすみませんすみません...」


「...強くて守ってくれて、ほかの女の子よりも僕だけをみててほしいな。」


守る必要は無さそうだと思ったけれど絶対に公言しません。


「じゃああんたとラークが戦えばいいんじゃないのかい。勝った方が言うことを聞いてもらえるってことで」


いつの間にかご飯のおかわりを持ってきたお婆ちゃんが僕の横に座っていた。全く気がつかなかった。


「おばあさん、それは私に勝ったラークさんでも無理ですよ。ギルドマスターは”黒色です”、白の私でも比べものになりません。」


「アルネット素晴らしい発想だね。そうしよう。スノ...黒霧さんもそれでいいよね?」


「えっ。本気でやるんですか!?絶対にヤバいですって!」


「...ふーん、ラーク君は僕に勝てると思ってるの?いいよ、やってあげる。でも結婚は早いから...その....お付き合いから....うん....

そして!その代わり、僕が勝ったら過去の事を全て話して貰うから。」


僕の過去と君のこれからがかかってるわけだ。燃えてきたよ。負けられないな。


「いいよ。でもハンデが必要だと思うんだ。」


「男の子なのに逃げ腰だねー、でもまあ妥当か。いいよ、僕は剣禁止とかどう?この国最強の剣士が魔法と体術だけ。」


「逆だよ。僕は水魔法しか使わない。そして僕が地面に身体をつけたら負け。そっちは負けを認めるまで続ける。これでもかなり有利だけどねー」


「....舐めてるの?」


一気に内蔵する魔力を放出し、静かに怒る黒霧涙。その辺の人間とは比べ物にならないくらいの化け物だ、下級天使くらいなら1対1でも勝てるくらいの力はありそう。


挑発に乗ろうとしたら、アリアが口を入れてきた。


「いいえ、それでもラークさんの方が強いです。例えギルドマスターだとしてもラークさんには勝てない。」


「ふーん、やってやろうじゃん。じゃあ場所を変えよう。」


彼女が大きく手を上げ、勢い良く下げると、空間が歪み、一瞬にして僕たちを平らな草原まで移動させる。


「えっ?さっきまで私達ご飯食べてたんじゃ。」


「ほう、瞬間移動...いや空間操作までやっとるな。こいつもやるなぁ」


ああ、懐かしい。

キレイにして儚くもろい設計の空間操作。

ほんの少しだけスノウと君が重なった。


「やっと認めた?どうする?僕におそれをなして勝負をやめる?」


「むしろ意志を固めたよ。絶対に僕のものにしてやる」


負けられないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る