第21話

僕達二人は、その壊れた”魔具”とやらの現地まで向かって歩いている。直し方なんて正直想像も付かないけれど、要は水がキレイになればいいわけだから、水の精霊に仕事を与えよう。


それよりもスノウだ。僕と彼女、どちらの頭がおかしくなったのかわからないけれど、黒霧と名乗る彼女は嘘偽りを言っている雰囲気ではない。既に魔法:『視認』《アナライズ》をして対象を見たが、確かに名前は黒霧だった。僕を宿すこの身体が壊れたのかと思ったけれど、視認上では竜の闘志に、スノウドラゴン固有スキル『氷の世界』も所持している。今は何もわからないけれど、彼女がスノウに関わっている事は間違いないだろう。


「ここだよー、凄く派手に壊れているでしょ?レイカに直せって言ったけれど無理だったみたいなの、僕でも無理無理」


先ほどの試験会場のような場所から少し離れた所まで来たが、2mはあるだろうか銀色の棒状のものが数本地面に刺さっているが、半数以上が折れ曲がっている。

なんでもこれが浄水器らしいんだけれど、僕に直せる訳がない。他の人の前で時魔法は使うなと止められているし...僕にはお手上げだ。


「うーん、時間がかかりそうだけれど大丈夫だと思う」


僕には無理だ。なら見た目だけ直して、これからは精霊に任せればいい。精霊も元を辿れば僕だから僕がやったのと同じさ。


「本当?さすがだね、で...でさ、さっきの...」


「ああうん、直せたら僕の嫁に来てね。冗談じゃないから」


「ま...待って、いきなりすぎて頭が付いていかない。なんで僕?そもそも僕OKしてないし」


「じゃあ始めるね。」


水の精霊の住処をこの地下の貯水槽に定めてやるだけで、自分たちできれいにしようと仕事をしてくれる。。見た目は木の魔法でそれっぽく修復しておこう。これだけで終わりだ。


「うーん、ちょっと大変だなー、難しいなぁ」


「...全然難しくなさそうな雰囲気なんだけれど」


「何か言った?文句があるなら止めておこうか?」


「いえ、なんでも...」


適当に見計らって完成ってことにしておこう。その間に、魅了魔法で、彼女について調べる。



-----

 元々は僕達は友人だった。

雪国の世界という所に彼女は住んでいて、そこの守り神のようなものだった。とても人間が住める国ではないが生態系が崩れたりすると彼女がよく僕に助けを求めに来た。


 ”神”はいえ不死では無い。”忘れられる”と死んでしまうのだ。生物が全滅してしまうと、語るものが居なくなり消えてしまう。

 その分、”信仰が強い神は力も強く”親友のヒートなんて炎の神として最上位に居る。

ただ、雪国の竜は、弱かった。


ある日、いつものようにゴロゴロしていると、空間が歪み真っ白で透き通るような鱗を持つ竜が現れた。そして第一声に発した言葉。


「ラーク、僕はもうダメみたいだ」


「そっか」


彼女はいつも暗い顔で下を向いているような竜だったが、特別その日だけは落ち込んでいた。その顔を一目みて僕は察した。きっと語るものが居なくなったんだ。

 消える神というのは少なくない。僕のような属性を宿すものはまず消えないし、どんな神でも少しは知られている。ただ、彼女は環境があまりにも良くなかった。

 何も語らず時間が過ぎる。そして一言、僕が口を割った。

「今まで大変だったね。お疲れ様」


「ラークが労ってくれるなんて珍しい。」


「そうかな」


「うん」


彼女は多くは語らない、表情にも出ない奴だったがその時だけは、少しだけ笑った。それがとても印象に残ってるんだ。


「はもう長くない、数年、数日、わからない。」


彼女は続けて語る、『だけど』と繋げて


「楽しかった。雪を降らすだけの毎日だった。だけど君が居た。話し相手も居なかった。だけど君が出来た」


「僕もだよ。」


胸が熱い。ほんの少しだけ名残惜しくなってくる。

消える神なんて何十も見てきたつもりだったけれど彼女だけは特別だったのかもしれない。


「一つ、お願いしてもいい?」


「僕に出来ることなら、なにかな。」


「結婚してみたい。」


「....え?」


当時の僕も戸惑った。神の世界でも結婚は存在するし、まれに二人で子孫を作る事もある、でもする必要なんてない。自分で完成している上に神によっては一人で命を生み出すのなんて容易いのだから。


「誰と」


「君」


「なんで?」


「好きになった。」


ここまで困ったのは過去にも先にもこの瞬間が最高位だ。何の前振りもなく結婚なんて言う馬鹿は頭がおかしい奴だけだ。だからさっきの黒霧さんへの求婚は前の仕返し。驚いてくれたようで何より。


「神の世界の結婚って、離れられないんだよ?」


「うん」


「僕のお父さん知ってる?世界中全ての頂点だよ?あとちょっと臭い」


「それでもいい」


「...結婚したら相手の生命を分かち合うから僕と結婚すると死ぬことはない。だから?」


もしかしたらと思って聞いてみた。


「ちがう、ラーク優しいから。」


そうだろうね、語るものが残り一人になっても、その人が死にかけない限り助けを求めに来なかった奴なのだから。しかも助けを求めにきた理由が「可哀想」なんてどうかしてる、


「優しいから結婚って人間みたいだね」


「考えといて、私そろそろ帰らないと世界が崩れる」


そう言って彼女はまた、歪みの中に戻っていく。静かに何も傷付けないように生きる彼女の姿はとても強そうには見えない。ただ、僕のような数々の世界が生まれる前から生きているような神に対し遠慮なく接してくるやつは後にも先にも彼女だけだった。そそくさと帰る彼女に対し、追いかけるように僕は叫ぶ。


「もう死んじゃうからいいんじゃないのー!どうせ無くなる世界なんでしょー!!


「それでも”僕の世界”だから」


そう言って静かに消えていく。

彼女の事だ、きっと次にやってくるのは、消えてしまう直前なのだろう。


それから僕は眠れない毎日だった。

親友にその事を話すと大笑いしてこう言い残して帰って行った、寝てばかりの毎日なんだから悩めばいいんじゃねーのと。親友も同じ女性なのだからきちんと考えてほしい。


結婚は本当に大きな出来事なのだ、計り知れない。僕と結婚する事で彼女は生きるだろう。ただ、僕と結婚するというのは利点だけではない。

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