第20話

「何で君がこの世界に居るの?雪国の守護はどうしたのさ。」


僕の発言に空気が凍る。レイカさんは、震えるようにスノウの横に座っているし、スノウはスノウで頭上にクエスチョンマークを浮かべているように見える。


「もしかして...僕は君とどこかで会ったことあるかな?」


「ああ、会ったとも。忘れる訳がないじゃないか。」


ああ、全てを忘れても彼女のことを忘れることはない。たかが数百年、数千年で消えるほどの短い付き合いでは無かったのだから。


「ごめんね、覚えてないや。それにぼくの名前はスノウドラゴンなんて強そうな名前じゃないよ。ふふっ、そんな名前ならカッコ良くて素敵だったのにな。」


...意味がわからない。確かに見た目は全く覚えがない。ただ、その身に宿る魔力や竜の力は紛れもなく彼女のものだ。僕が間違えるはずがない。...なんで、なんで...。


「そっかー、あはは、似てたんだよねーごめんね。勘違いでしたー。」


...そんな訳ない。


「ふふっ、面白いですね。大丈夫ですよ。改めまして、私は黒霧涙くろぎりなみだこの国とは違う所から出身なので聞き慣れない名前だろうね。」


「くろぎり...そう。そっか。そっちの方がカッコいいね!僕はね、”ラーク”。真名は”ラーク・ウォーター”。語り継がれる水の神である。」


 真名。天界にて語ることは全てを捧げると同等の行為。真名で対象を呼ぶ事でそのものの全てを知り、力を奪うことも与えることも出来るほど重要な事柄。


「ら...ラーク、うぉーた?水の神だって?嘘でしょう、でも戦闘ではあそこまでバリアを張って...」


ブツブツ独り言のようにつぶやくレイカ。彼女にも伝えてしまったが悪用はしないし出来ないだろう。それよりも...


「水の神なんて、水魔法のプロフェッショナルなのかな?ラークは本当に面白いや。よろしくね。」


「だめだ」


「?」


「何でもないよ、それより僕に何の用?」


ああ、もういいよ。なんかやけになってきた。数百年振りにお酒が飲みたいや。


「そう!それなんだよね!


あのさ、


――僕のお庭を全部薬草にしたのって君だよね」


アリアがダッシュで帰った理由がわかった。

アリアめ...後でポイズンスライムに変化させてやる。


「な...何のことかな。わっかんなーいよ」


「すごい詰まってるし...別に怒ってる訳じゃなくてさ、君って自然の精霊達を操れるのかい?」


「...うん、出来る...けど。それがどうしたの」


「素晴らしいよ!レイカを半殺しで止めておいて良かった。実は、うちのギルドの浄水する魔具が壊れてね、木や水は僕の専門じゃないから困ってたんだ。”誰のせい”か知らないけれど、全壊だよ」


深みのある言葉をニコニコしながらレイカのに向けて放つ。

震えて今にも泣きそうなレイカが少し可哀想になってきた。十中八九さっきの戦闘で壊れたんだろうし僕にも非がない訳じゃない。


「いいですよ、なおしてあげます」


「ありがとう!君はなんていい人なんだ。じゃあ早速...」


「ただし」


そう、見返りを求めず救いの手を差し出すなんて”神様”くらいじゃないとしないだろう?僕は人間なんだ。求めて当然だ。


「ふぅん、頭も割といいのか。先にこなさせそうと思ったんだけれど切れるもんだね。いいよ、何が欲しい?お金?それとも魔具かい?、今ならレイカもセットで付いて来るよ。」


「許して黒霧さん...ごめんなさぁい...」


「いいねそれ。」


「えっ」


素晴らしい提案だよ。人が付いて来るなんて。少しイライラしてた所なんだ。


「あはは、マジかい?ラーク君はレイカに惚れているのかな?レイカはホワイトで強いし可愛いからね。仕方ない!」


「え、いや...私の気持ちは...いや...

でも私より強いし....

空間魔法も使えて年下だけど顔は...カッコいいかな、私に刃向かってくる勇気もあって...年齢なんて時間がたてば...」


別にお金とか名誉とかはいらない。僕は最初から決めていたんだ。別にお手伝いなんてしなくてもね。


「君が欲しい、スノウ...じゃなくて黒霧さん。」


「えっ」


「よろしくお願...あれ?」


「えっ?僕?僕のこといってるの?もしかして僕の”黒の魔法”の存在を知ってるのかい?それなら君には無理だよ。」


「そんなのいらない、君が欲しい。」


「え...いや...どうしたらいい...え?僕これ告白されてるの?」


「もう一度。結婚、しようよ。」


「え......はい!?」


白く透き通る肌がどんどん赤くなっていく。

口がぽかんと開いていて、何故か両手をあけたり閉じたり、数秒に一度上を向いてまた僕の顔を見て目をそらす。というのを何度も何度も繰り返している。


「じゃあ浄水器直しに行こう!すぐに!」


「え...いや...ちょっと...」


僕は無理やり手を引っ張り彼女を部屋から連れ出した。奥の方で私はどうしたらと声が聞こえたが今は1分1秒でも早く修理してあげたい。”神様”は親切で優しいのさ。

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