第18話 (レイカ視点)

勝負を受ける理由なんて無かった。

ただ、私に突っかかってくる人なんて久しぶりだったから少しだけ期待をしてしまった。


ブラックの「※※※※」からホワイトに昇格させて貰ったときは生意気だの顔で釣っただの色んな野次が飛んできた。けれど今となってはギルド1の知名度を誇り、魔獣盗伐ランク一位。皆が媚びを売ってきて、ランクをあげてほしいからかゴマをすってくる毎日。正直退屈していた。

 でも、昨日、少しだけワクワクした出来事があった。『草原が全部薬草になった』という情報が飛んできた時はそいつに眼科を進めたよ。でも実際に薬草畑になっていたんだ。

突然変異なんて有り得ない、魔法で変えたなんてもっと有り得ない。ワクワクして徹夜で調べたけれど時間が足りず今日のこの日。

 さらに私に喧嘩を売る子供まで現れるなんて神様のプレゼントかと思った。


そして今、その彼と対峙している。彼を煽るためにお姉さんを利用したのは申し訳無かったけれどそれほどに気が高ぶっている。

天井に居る暗部を見破るなんて、気持ちが抑えられる訳がないでしょう?がんばって魔力を抑えなきゃ、こんなイベント滅多にないんだから。


「始める前に...っ!!!」


舌を噛んでしまう程、数え切れない水の槍が飛んでくる。私達の距離は離れているが彼の口は動いているようには見えなかった。

 高速詠唱もしくは、熟練した魔法は無詠唱で唱えることが出来る。ただのシルバーなのに信じられない。


「『私は加速する。』」


―――体が泡のように軽い。

三歩しか動けない?私に取っては十分過ぎる。

一本目の槍を首を傾げ、二本目は右に一歩動き、三、四本目は元の位置に戻る動作で、滑らかに自然と。


「ちょっと!まだ喋ってるんですけど!」


「ごめんなさい、始まったのかと思った。でもお姉さん凄いね。避けれるんだ。」


この子、私の事本当に知らないんだ。


「余裕です。ところで」


私が言いかけた途端にまた一本の槍が飛んでくる。三つ叉...水魔法で出来た三叉槍が私に飛んでくるが、加速している私を捕らえることは不可能。ドラゴンのブレスさえかすりもしないのに当たる訳がないのよ。


「形が変わっただけで、当たると?」


真正面から飛んできた槍を私は先程と同じように右に避けた...と思っていた。


「え」


つい声に出たその言葉が全てを語っていた。

私は、無詠唱で上位火魔法をその槍に向かって打つと大きな音を立てながら爆発音と蒸発した空気が会場を襲う。


一瞬の判断。とっさに火魔法で水槍を蒸発して無かったら私は負けていた。

有り得ないでしょう。相手はさっきまでブロンズだったのよ。ホーミングまで出来るなんてゴールドどころじゃ済まない。


「喋ってるあいだに攻撃すんな!」


「試験官さん、素が出てますよ。あはは、これでアリアの仕返しが出来た」


満足そうな表情をする彼にほんの少しだけ心が締め付けられた気がした。

無邪気に笑う彼に私も答えをつきつける。


「その程度で仕返しが終わったなんて言わないよね~?今度は、私の番。」


彼は強い。まだ2回だけの攻防だがそれだけでわかる。だから私も、”5割”まで力を出そう


「『私は駆け抜ける』」


色を持つ者は自分自身の詠唱を覚えいるものだ。戦闘中に相手に魔法がわからないように、そして自分自身でアレンジした魔法をぶつけるために。最初のは一段階加速。今のはギアを上げて、二段階。


「『青の炎』」


最も使い慣れた魔法。無詠唱でも発動出来るほどに何千何万も使用した。

目の前に107の火の玉を浮かべ4.8秒後に1つ目の火の玉が100m先に到達する。

それほどまでに精密に把握している、私の命ほど大事な魔法を


「受け取ってね」


「仕方ないなぁ。」


そう言った彼の前に、水の壁が立ちはだかる。相性は最悪、普通の火なら打ち消されるだろう、けれど


「えっ!なにこれ!」


「私の火は特別製なの」


107発全てが対象に”命中するまで”永遠に追跡する。そう、対象したもの以外には当たらない特別製。


「やばい。」


「そうですか?君の顔、笑ってますよ」

そう発した彼の顔は笑っている。とっても楽しそうに、にこにこだ。


「人間にもこんなに差があるなんて、ホワイトを舐めていたよ。仕方ない僕も魔法を使うよ」


そう言った途端。




―――彼を囲んでいた青の火が消えた。


「はぁっ!?」


「えへへ、ねえ他の技も見せてよ」


「なっ...君!どうやってそれを消したの!」


ありえない、絶対に消えない。当たるまでは。


「ううん、消してない。本当に消えないように出来ていたから驚いたよ。だから」


そう、ありえない。彼が言ったセリフが本当だとしたらそんなの人間技じゃない。


「移動させたよ。僕からとっても遠いところに」


空間移動なんてギルド創設者と大魔法使い、そしてブラックくらいしか聞いたことがない。


「すげー!」

「二人とも本当に人間なのかよ...」

「だから私の言うとおりだろう!ラークが勝つんだよ!さっさと金をよこしな!」


ヤジも興奮している、ここまで大事になると勝っても負けてもタダじゃ済まないだろう。



でも私は勝ちたい。彼に、ラークに、それほどまでに私は上がっている。


「ねえラーク君」


「くんって言うけれどアナタよりとっても年上ですからね!」


「私、本気出すけど死なないでね。」


「大丈夫ですよ。僕勝ちますもの。」


シルバーあいてに本気なんて恥ずかしいけれど、ちょっとだけ、ちょっとだけやってみたい。


「魔具解放」


私はもともと魔力量が多すぎて制御しないと魔物が集まってくる。普段は抑えているが...


「観客のみなさーん、逃げてくださいね」


これが私の全力。


「『私は私を越えていく』」


禁術。魔力を食い、吐き出す事を繰り返し自身の限界を越える私にだけ許された魔法。


「魔術師と魔法使い。違いなんて些細なもの。私はそんなもので収まらないの、いくよラーク」


ああ、ひさしぶりに本気が出せる。


「『爆発』」


急激に圧縮した魔力を指定位置に爆発魔法として放出する。


観客は鼓膜が破れるだろうし熱気で死んじゃうかもしれないけれど仕方ないよね。


一瞬、大きな光に包まれ急激な熱気と魔力が

爆発と共に放出する。

爆発音が響く頃には建物は完全に崩壊して、煙や蒸気、瓦礫などで周りは何も見えない。

100mくらいは軽く吹き飛んだだろうなぁ。


彼なら防げると信じて発動したがここまで来ると不安になってくる。


「いったーい...危ないなぁ」


「...マジ?」


「試験官さん、あれ、僕じゃなかったら死んでるよ?それに、アルネットが居なかったら観客も全滅だよ」


「殺す気で打ったのに無傷って...はぁ...あっ」


冷静になり周りが見えてきた途端、血の気が引いてくる、観客を巻き込んでしまった。クビじゃ済まない。逮捕もの...どうしよう

そう思っていたら瓦礫の中から声が聞こえてきた。いや。正確には瓦礫の中には居なかった。


「ばーちゃんすげー!死んだかと思った。」

「だからラークが勝つと言ったじゃろう!お前らが死んだら誰が金を払うんだい!」


...もうよくわからない。

あのお婆さんから発しているバリアのようなものが観客全員を囲って守っていた。

もうね、昨日も今日も白昼夢を見ているのかな。


「試験官さん、足元」


「足元?あっ」


「やったー僕の勝ちだね。悪いけれど最初の青の炎を解除してくれる?」


気付くと無意識に彼に向かって三歩以上歩いていた。私の全力をどうやって防いだのか気になる事はたくさんあるけれど、まずは


「参りました、私の負けです」


「僕の勝ち!」


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