第13話
「ごめん、その前に」
話し始めてくれるのを遮り、先に済ませて置かなければならないことがある。
「おばちゃんの名前教えて。」
「私かい?私の通り名は”魔法使いマーリン”と呼ばれてたけど、あんたくらいの年齢は知らないだろうね。」
マーリンって神域にも居たなあ。すっごい生意気なやつだった気がする。でも僕が聞きたいのはそれじゃない。
「おばちゃんの真名。教えて。」
「変な子だね。私はアルネット。それが?」
「ううん、ありがと。それだけ、つづけて。」
名前と言うのはとても重要なものだ。知ってるのと知らないのじゃ信用度が全く違う。
「私の昔話でよかったらいくらでも」
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アルネットは、子どものころに親に捨てられた。昔なんて生き長らえる術も無く、子供が捨てられるというのは死に直結することだった。
ただし、アルネットは生きる事を諦めなかった。6歳の頃から盗みを繰り返し、時には捕まって殺されかけた事もあった。
『どうせ死ぬなら最後まで足掻いて死ぬ』それがアルネットのモットーであり、それがあって今があるのだった。
17歳の頃に魔法の存在を知った。昔は魔法が使える存在なんて希少でとてつもなく少ない、でも運が良いのか悪いのか。アルネットの魔法の才能は桁外れだった。
風魔法を使えば、地形が変わるほどの魔法が生まれ、火を使えば一生消えない青の炎が。
世界最高と呼ばれた魔法使いだったが、末路は呆気ない。
『魔王』と呼ばれる存在を倒しに同じ最強と呼ばれた戦士や僧侶と向かったが、負けた。
最強と呼ばれた男が、まばたきをした瞬間に死に、僧侶は洗脳されて自害。私も死んだけれど、究極の魔法で生み出した、いのちのストックがあったから生き返る事に成功した。
そこからは、緩やかな死を迎えるだけの人生だったがそこに現れたのが君たちだ。
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「そっか、ありがとう。だから精霊達がアナタを慕ってるんだね。」
「こんな老婆の話を聞いて楽しいなんて変わり者だね。」
楽しい?無意識下で笑っていたのかな。でも
アリアの時と同じく、人の話を聞くのは好きだ。自分が変わるような。何かが加えられるような気がする。
「僕から見たら、アナタは少女みたいなものだよ。」
「こんなババアを口説くなんて、そんなにご飯が食べたいのかい?」
「ううん、事実だよ。丁度いいから教えてあげる。」
十二分にアルネットの事を信用した。だから僕もそれに答えることにするよ、
「僕はラーク。ラーク・ウォーター。水を司る神にして水自身でもある水神ラークだよ。水魔法を唱えるときに一度くらいは呼んだことあるんじゃないかな?よろしくね。」
「...なかなかユーモアがあるガキンチョ...と言いたいところだけれど、その顔は本当みたいだね。いやいや、長い人生を活きてきたけれど神様にあったのは初めてだよ。」
「そんなに良いものじゃないよ。アルネットの方が神様らしいくらいだ」
「そうかい、神様ねえ、私の作ったご飯はおいしかったかい?」
アルネットにしてはなんてつまらない質問だろう、そんなの決まっている。
「最高だったよ。それと、全部食べてごめんなさいっ!」
アリアから習った事は本当に役に立つ。謝る練習もっとがんばろう。
「そりゃよかった。じゃあ、そんな大食いの神様に1個だけお願いしてもいいかい?」
「いいよ、僕に出来ることなら。」
「この宿屋、もうすぐ取り壊されるのさ。立地だけはいいけれどボロいだろう?あるお偉い方に、金を渡すから譲れと言われてね。断れる筈もなく。しがない老婆は後悔をしているってわけさ。」
「魔法使いだったことを明かせば解決するんじゃないの」
「元だからね、今じゃちょっと凄い魔術師くらいの力しか使えないのさ。全盛期の10分の1もない、無理ならいいんだ、もらった金で余生を過ごすよ。」
「うーん...神の力を使って解決はしない。」
「そうかい」
アルネットはほんの少しだけ悲しそうに、笑った。泊まってわかったけれど銀1枚で利益が出るはずがない。それでも経営してるってことは、通ってくれる人がいるから続けたいんだろう」
「でも、"僕自身"の力を使って解決する。任せて」
「ありがとうね、無理ならいいんだよ」
「無理じゃないよ、多分。でもそういうのは僕の仕事じゃない。」
2人で声を合わせて同じことを繰り出した。
「アリアの仕事さ。」
「あの子の仕事か。」
「あはは、そうかい。それならぐうたら神様よりは安心だろうよ。」
僕はおばちゃんの心からの笑顔を初めてみた気がした。たぶん、僕は、アルネットの事が、好きなんだろうね。
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「は...はい!?私が考えるんですか!?」
「まかせた」
「頼むよ、その間この宿はタダで泊まっていいからさ」
やっぱりアルネットのご飯は美味しい。お米も無くなったから買ってきてくれたのか大量にご飯を炊いてくれている。
だけれど、僕はその程度じゃ計れないぞ。
いくぞアルネット、米の準備は十分か?
「ラークさん食べてばっかじゃないで考えてください!貴族相手にどうやって接したら諦めてくれるのか...」
「だから殺せばいいじゃん。人間って一度死ぬと生き返らないんでしょ。例外もあるみたいだけど。」
正直、そこまで悩まなくても消せば解決するからそれでいいと思う。
「命はそんなに軽くないです!殺すなんて選択肢にすらありません!」
わかんない、存在自体無かったことにするとか生まれた時の状態に戻すとかでもいいと思うんだけど。
「あ」
「なんですか。」
すっかり忘れてた。
「今日、お姉さんが準備してくれるって言ってた昇格試験の日だよ。」
「あ....」
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