第12話
きちんとした宿に泊まるのは初めてだった。
神域にあるような、まるで神秘が体現したようなベッドはないけれど、ガタガタの荷台よりは幾分もマシで夕べはぐっすり眠れました。神様だったころは1回寝て次に目が覚めると世界の地形が変わっていたりしたことが何度もあったけれど人間には睡眠を取れる限界があるみたいです。
目が覚めた僕ですが、アリアはまだ眠っています。昨日は色々と教えてくれたり手伝ってくれたから疲れたんだろう、起こさないように部屋を出ようとすると、扉の向こうで人の気配がします。
気になったので
音を立てないようにこっそりと部屋をでた僕。外はまだ薄暗く、時計はないけれど時間は5時過ぎと言った所だろうか。
そんな時間から調理してくれてるおばちゃんに僕は話し掛けに行く。
「おはよ、おばちゃん。」
「おはよう、あんた起きるのはやいね。」
「今日はたまたまだよ。」
障りのない話をしながらもおばちゃんは手を止めないで作ってくれている。
「...ご飯はもうちょっとかかるよ、部屋に戻っておき。」
じっと見つめてるからなのか待ち遠しくて起きてきたと思ったみたいだ。
昨日の夜で宿屋のお米を食べきったからアリアに「遠慮って言葉を覚えなさい」と怒られてしまった前科がある。おばちゃんは「ええよ」と許してくれたからそんなに怒らなくても良かったのに...。
「まあ、それも期待してるんだけどね。ちょっとだけお喋りようと思って。」
僕はどうしても話したかった事を口にする。
「”この子達”が、見えるようになったのはいつからなの?あと、原因もほんとはわかるんでしょ?」
「...さあ、いつだったかな」
おばちゃんははぐらかしながら、フライパンを右手で揺する。精霊が見えるということは相当に熟練された人か、精霊と契約をしたもの、生まれつき見えるもの。その3つのどれかしか有り得ないはずだ。
そこにいるんだろうな。と雰囲気は掴めるけれど見える人はほんの一握りだから、例えるなら、”風を見る事が出来る”と同じだと思ってもらっていい。
僕は黙っておばちゃんの方を見る。読心しようと思ったけれどおばちゃんにそんなことはしたくないから、黙って見続ける。
「あんた達は、見えるのかい?」
「僕は見える。でもアリアは”まだ”見えない。まだ弱いから。」
そう、アリアじゃまだまだ足りない。
魔力を使わないで空を飛べるくらいになってもらわないと。
「あの子で弱いなんてね...世界中の魔術師が泣くだろうな。あんたは魔法使いにでもさせるつもり?」
僕は、おばちゃんの今の発言に違和感を感じた。まるで魔術師と魔法使いを分けているかのように。
「そのまじゅつし?と魔法使いってのがわかんないんだけど、どう違うの?」
「違うも何も別物だよ、魔術師って言うのは一般的な使い手だけれど、魔法使いはまずレベルが違うよ。」
「時間を操るのなんて基本だし、その気になれば空から隕石でも降らせることも出来る、規模も強さも違うのさ。」
ああ、なるほど。つまりはこういうことだ。
「おばちゃんは魔法使いなんだね。」
簡単で明快、すぐに答えにたどり着いた。
人にして人ならざるものの力を得たものが魔法使いならば、あなたはきっとそれなんだろう。
「...」
おばちゃんは無言だった。肯定も否定もしない、ということは魔法使いなんだろう。それがそんなにマズいの?悪いことでもした?
僕は素直に聞いてみる。
「そうだね...昔は魔法使いだったけれど、老いには勝てないよ。別にマズくも悪いこともしてないけどね良いことばかりじゃないんだよ」
「ふーん、聞かせてよ。」
料理が完成したのか、火を止めておばちゃんは僕の顔を見続ける。
僕も自分ながら、アリア以外でこんなに興味抱く人間は初めてだった。
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