第11話

「おばちゃんさ、この子見えてるよね。この世界で精霊見えてる人初めて見た。アリアも見えないのに。」


「ああ、見えてるよ。あんたの周りに異常な程、飛んでるのがね。それよりあんた何者だよ。」


「僕は少年ラークだよ。それよりおばちゃんこそ”何者?”」


「私はただの婆だよ。老後に宿を経営してるだけの人間さ。」


「そっか!じゃあいいよ。精霊が見える人間だから気になっただけ。ごはん待ってるね!」


そう、ちょっとだけ気になった。僕の子供たちをおばちゃんの目が追っていたから、人間で見える人もいるんだなぁ。

僕の子を悪用してたら殺そうと思ったけど、そうじゃなさそうだしなんでもいいや。


えっと、何号室だっけ。まあいいや、順番に入っていこう。


「こんにちはー」


「...こんにちは、どなた?」


「あ、まちがえましたー。すみませんでしたっ!」


ドアを開けると、黒い服を着たお姉さんが短剣を研いでたよ。間違えちゃったけど謝罪の練習をしといてよかったなー。僕は謝ってドアを閉めようとする。けれど


「ちょっと待って。」


止められちゃった。怒られるのかな、アリア以外のお説教なんて時間の無駄なんだけど。


「なんですか?」


「『魅了チャーム』私の姿は忘れなさい」


「うーん、多分明日になったら忘れてると思うよ。アナタに興味ないから。」


「...あれっ?『魅了』」


「何回やっても無理だってー、魅了の魔法は対象に少しでも興味が無いと効果が無いよ。それくらいアナタの事なんて覚える気ないから大丈夫だよー。じゃあもう行くね。」





うーん、そこまでして忘れて欲しいほど恥ずかしい恰好かな?黒くてカッコいいと思うけど。しつこいから僕は無理やり拘束を解いて抜け出す。アリアを待たせてるんだから早くしてほしい。次は隣の部屋に行ってみよう。


「こんにちはー」


「はーい、...こんにちは?ラークさん遅かったですね。」


今度こそアリアが居た。でも金髪蒼目の女性じゃなくてぷるぷるした青の塊だったけれど。


「よかった、今度は合ってた。...えーっと、トイレが混んでてー」


「そうなんですか、お疲れ様です。早くご飯来るといいですね。」


アリアは本当に純粋だ。僕も疑う事を知らなさすぎるとヒートに注意されていたけれどアリアはその上を行ってるよ。


「ところで、この姿に関して質問してもいいですか?」


「うん、どうしたの?」


「この姿って、トイレとか食事とか必要ないんですか?」


「うん、いらない。でもすることも出来るよ。」


「そうなんですね...ラークさんも必要なんですか?」


「身体は人間だから食べないと死んじゃうけど、ほかの人よりも丈夫だと思うよ。」


「そうですよね、一応元神様でしたっけ。」


「そうそう、アリアとは海の中で会った時が初めてだよね、あの時に決めたんだ。人間になるって。」


ちょっとだけ懐かしい話だな。あれから...何年経ったかな。覚えてないけれど色々あったなぁ。


「よかったら聞かせてください!ラークさんの過去の話。」


「じゃあごはんが来るまでの間だけ特別に教えてあげる。」


アリアだけの特別。神様の実体験なんて楽しいものじゃないけれど、めったに聞けないんじゃないかな。




僕はほとんどの事を話した。何も出来なかった自分が悔しかった、それで人間を目指した事。勉強をいっぱいしたこと。一番仲の良かった火の神との話や、光の神にバカにされたことも言った。神言を使って魂を呼び戻した所まで。

 話をしている僕はきっと、笑顔だったと思う。だれかにこうして自分の事を喋るのは初めてかもしれない、悪くない感覚だった。


「はいるよー、がきんちょ。飯だよ。お米のおかわりは自由だからね。」


「おばちゃんこそが僕の父に相応しい。認めよう。」


「...なに意味のわからんことを言ってるんだよ、じゃあ用があったらそのベル押して。」


現世における創造神はおばちゃんだろう。あとで名前を聞いてあげよう。

その前に、今は目の前のご飯に夢中だ。


「ラークさん。食べる前に、しなければいけないことがあります」


「なんでしょうか。」


「食す命に感謝しましょう。命をもらうんです。”いただきます”」


「いただきます」

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