第6話

「えっ」

「うわっ...」


目の前に”ある”のは心臓を貫かれ即死した肉塊。それを見て、アリアと人間達が顔を引きつっているが死体を見るのは初めてなのだろうか。


「ラークさんは躊躇わないんですね。」


ためらう?何の事を指して言ってるのだろう。特に不自然な点なんてなかったと思うけれど、もしかして水の槍の作り方のことかな?


「あんた...聞きたいんだけど、そこの女が私達が悪いって言ってたら」


そこで人間は話すのを止めた、言葉を紡いだのではなく考えるのを止めた、そんな気がした。君達が悪かったら?そんなの決まっている。


「殺してるよ?」


当然じゃないか。人間のルールなんてぼくは詳しくないんだ。アリアに委ねるよ。アリアは嘘なんて言わないから。


「...」


二人とも黙ってしまった。



先ほどまでの騒動とは嘘のように風の切る音が聞こえる。夜は冷える、この少年のような身体だと特に寒さには堪える。


僕はアリアに馬車に戻ろうと声をかけるが、アリアはその場から動こうとはしなかった。

頑なに何かを伝えたそうな顔をして。


「どうしたの」


「ラークさん、お話しましょう」


神妙そうな顔をする彼女だったが、僕は快く承諾した。アリアと喋るのは楽しいからね。


---

1時間ほどだったか、お説教をされた。

内容は軽い気持ちで殺した事、この世界の”良い悪い”の事。悪いからと言って全てその人間の責任ではないということ。


正直難しいけれど、アリアの言うことだから頑張って聞いた、これからも1日1時間のお勉強をするみたいだ、でもそんなことよりも怒るとぷるぷる震えるアリアは可愛らしかった。


「神様に人間の常識は難しいのでしょうね」


呆れ顔するアリアにちょっとだけむっとする。


「失礼な、僕以外の神達は常識人だ。」


「なるほど、失礼しました」


「えへへ、わかったらいいんです、それよりアリアの言うとおりだとこの人間...いや女の子?たちは被害者なんだね。」


「ええ、多分ですけれど奴隷として売られる予定だったのでしょう」


そっか、なら助けてあげよう。

ふふふ、今の僕は世界に干渉出来るのだ。任せて欲しい。


檻についている錠前に少量の水を送り、形状を変化させて鍵を開けてあげる。これでいいのかな。

檻ごと切ろうと思ったんだけど、よくわからないで、またアリアに怒られると嫌だし穏便に行こう。


錠前ごと外し、扉をあけてあげると声を上げて喜んでくれている。

...素直に言うと少しだけ嬉しい、あの時の僕はこれすらも出来なかったから。


でもその中にも表情が晴れない女の子も何人かいた。多分、見てくれの予想だけれど四肢がどこが欠損している子が数人居た。

傷口は真新しく、適当な止血がされているだけでただ死なないような処置だった、痛みもあるだろう。


「ねえキミ、手を出して。」


「...見てわかる通り私は腕が」


「手があるものとして出して。」


よくわからないような顔をしているが、はい。と言いながら"空の腕"をだしてくれる。


僕はスライムを作ったように血を一滴垂らして、ほんの少しだけ魔力をこめてあげる。こんなの神言を使うまでもない。


すると彼女の腕の付け根から肉体が再生してくる。寸分の狂いなく、虚偽のものでもなく彼女自身のものだった。


「え、えっ?え....」


「あはは、えっしか喋れてないよ。君の治癒の力と想像の力を強くしてあげただけ。それは本物だよ。」


説明してあげると彼女は泣き崩れ、一心に僕にお礼を言い続けた。

"涙"はダメだ。水神だから僕はそれに弱い。

泣くな泣くなと頭をなでてあげながら、次の子にも同じ処置をしてあげる。



彼女達の治癒が終わり、アリア達とご飯を食べながら雑談していると、気付いた時には日があけていた、結局一睡もしなかったなぁ。


一つ向こうには大きな建物や城壁が立っている。あれが王都なのだろう。


彼女達は荷台に積まれていた宝石類を持って王都でやり直すみたいだ。


やっとこれから僕...いや僕達の旅がはじまる。まずはリンゴを食べてみたいな。

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