第4話

気になって、さっきの場所に戻ってみる。彼にはもう来るなと釘を刺されたけれど、それを守る道理なんてない。それに、ハウスドッグだとしたら彼等は食べられちゃうだろうから。


行ってみると案の定、ハウスドッグの群れが彼等を襲っていた。檻の中に居る人間達は動けない代わりに檻が犬たちから守ってくれているが、周りの男たちはそうもいかない。


 武器を持ち対抗しているが、完全な優位を取っているのはハウスドッグ。

犬の数も6,7匹と中規模の群れを成しているため一人で2匹を相手している状況である。

数で負け、力で負け、連携で負けている。防戦一方の男達も、あと数分もすれば腕がもがれて全滅する。



「おい」


声が聞こえた。目線がこちらに向いている、なんだろう。


「おい!聞こえてるのか!助けろって!護衛なんだろ!!はやく!!」


「でも、戻ってくるなって言われたから、悪いと思って」


「お前....わかった、金だな?言い値で良い、後で必ず渡す!だから早くしてくれ」



あ、男の一人がハウスドッグのかまいたちの魔法で死んだ。犬が2匹フリーになったってことは他のメンバーに襲い掛かるってことだ。



「なにが目的だよ!!奴隷が欲しいのか!!いいからさっさと助けろよ、護衛で雇ったんだぞ!!」



そうだった、忘れてた。乗せてもらう代わりに守るんだった、ごめんね。


「わかった」


軽く返事をすると、僕は周辺に10本の水の槍を生み出す。

ただ、ハウスドッグは男達と密接していて、このままだと男達と一緒に貫いてしまうかもしれない。護衛って事は、守るってことも入ってるから怒られるかな。


少し、策を変える。ここは森だ。なら"木々"を使えばいい。


水の神だからって水しか使えないとは限らないだろう?



犬たちの地面から突然、巨木のつるが生えてきて体を拘束する。

範囲はおよそ、檻から馬車までの数十メートルもの地面全てからものすごいスピードで根っこや、つる、植物が生えて犬たちの自由を奪う。

木は属性が近いけれど"自分"を使うのとは違って少し難しいから、思ったより大きな範囲にはやしてしまった。


捕まえたハウスドッグ達をそのまま地面へと取り込んでいく植物たちは、生き生きとしているように見えた。たぶん養分になっちゃうんだね、仕方ないね。



「助かった。...けれどお前、何者なんだよ。無詠唱であれだけの大魔術なんてありえねえ...」


「無詠唱?よくわかんないけれど、お仕事は終わったよ、うまく出来た?」


「あ....ああ、最高だ。文句無しでいい」


「やった、初めて仕事をこなせた。これでやっと社会人の仲間入り」


父さんに褒められるかな。ヒートはなんて言うだろう。初めて仕事をこなせて凄く上機嫌になっているのが自分でもわかる。仕事って難しいんだな。

そんなとき、檻の中から声がした。



「なんで!!」


荒げるような声に反射的にそちらを向いてしまう。


「あのままこいつらを殺しておけばよかったのに、何で助けたのよ!」


「チッ...気にしなくていいです。さあ、馬車に戻りましょう」


「ねえ、答えてよ!私たちを助けてよ...」



わからない、見殺しにしたほうが良かったのかな。でも僕の受けた仕事は護衛だし、何も間違ったことはしていないはずだ。


「なんで見殺しにしたほうが良かったのか教えてくれる?」


「いやいや、旦那、戯言に踊らされないでください。こいつら頭がおかしいんですよ」


「旦那?僕は君と結婚した覚えはないけれど、ねえ君は何で彼を殺したいの?」


「奴隷商人なんて死んで当然だわ!私たちの村まで来て金目のものだけ奪って...お母さんは殺された...」



そうなんだ。君は彼を恨んでいるわけだ。僕の求めていた人とは少しだけ違ったな。

"彼女"は自分を恨んでいたから。


「こいつらを殺して、お願い!」


「さっきから黙って居れば都合の良い事ばかり口にしやがって...気にせず行きましょう、さっきの報酬の件、ゆっくり話しましょうや」



わからない、わからないけどすごくめんどくさい。

全部忘れてもいいけれど、けど...あの時の海でおぼれた時の彼女ならどうするだろう。どっちが悪いとか何が正しいとかどうでもいいんだけど...あ、そっか。



「決めた」


簡単な事だった。



「呼ぼう。」



「はい?」

「え?」


口をぽかんと開けて、クエスチョンマークを頭に浮かべてる皆をよそに、僕は作業を始める。


「でも...媒体が無い。うーん、いいや。自分で作ろう。姿は...難しい、覚えてない!」


僕は自分の指を切って、血液を地面に垂らす。

だけど、土は僕の血を吸収しようとはせず、個体として血がそこに浮かんでいる。


「おいで、子供達」


そういうと辺りから僕の子供達が姿を見せ始める。水の精霊は普段はとてもおとなしくて絶対に姿なんて見せないけど親の言葉にはちゃんと反応してくれる良い子達だ。


「スライムを作って」


そういうと宙に浮いている僕の血液に集まり始め、構成を練っていく。

丸い水が出来て、一瞬、小さな爆発を起こして、また収縮してを繰り返し、そこには僕の腰ほどのサイズのスライムが出来た。


「あ...あんた、魔物を作ってるの?」


「ありえない...最低級のスライムとは言え魔物作りなんて、もしかして旦那は魔族なんじゃ」



「あとは魂だけど...うーん、怒られるかな...怒られるよね。」


絶対に怒られる、場合によっては神権はく奪だ。でも今は人間だから神たちは何も出来ないでしょ。戻ったら殺されちゃうかもな...。

不安を胸に僕は、膨大な魔力と神力を体中から手にかき集め、声を出す。

全身からは神聖な霊気と水分が漂っているだろうけれど、悪用出来る人間が近くにいないから大丈夫!



「水神ラークの名において神言を行使する。『おいで』」


一言言葉を発するだけで、ある程度の事は可能になる。神言。僕が使うのは初めてだ。今回したことは、シンプルで簡単。



「え、ここは...私、崖から飛び降りたんじゃ」



もっと早くしておけばよかったな。うっかりしてた。



「こんにちは、ひさしぶりだね。」



"彼女"を呼んだ。



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