第2話

森の中で過ごしてもう5日目。

その中でまず感じたことはこの体の不便さだ。人間はエネルギーを取らないと死んでしまう。水に関しては不自由しないが食べ物が無いと困る。


 食料と言っても、何が食べれて美味しいのかよくわからないから、襲ってきた魔物を丸焼きにしてそのまま食べてきたけれど全然美味しくない...


でも、初めて世界に干渉して少しだけ救われた気がした。生き物を食べる、虫を踏んで前に進む。一つ一つの僕の行動が世界に影響を与え続けているのを感じ取る。

あの時の少女を救えなかった時とは違い、僕自身が世界の仲間入りを果たした。


ただし、既に命を落とした少女を救う事は出来ない。でも彼女が絶望したこの世界がどう動いているのかを知りたかったからこそ僕は人間になったのだ。


それに、彼女が想った通りのあまりにも辛く悲しい世界ならいらない。『壊せば』いいのだ。名前も知らない彼女に執着しすぎているのは自分でもわかっているけれど、また同じ事が起こった時には、僕が何とかしてあげたいから。


でもまずは、街を見つけて美味しいご飯が食べたいな。


つまらない考え事をしていると、蹄の足音が地面を通じて僕の体に響いてきた。水の加護があるからか振動や音にも敏感に反応出来る。そう遠くではないし向かって見よう。


少し歩いた先に和気あいあいとした雰囲気で進んでいる馬車が僕の予想通りあった。手綱を握っている人間はお腹が出ていて、服装が煌びやかで如何にもお金持ってますよ。と主張している。


馬車の中からは笑い声が聞こえ、楽しそうな雰囲気である。


「こんにちは、僕はラークと言います。今は何をされているんですか?」


いきなり僕が話し掛けたからなのか驚いた表情のまま返答をくれた。

「うわあ、いきなり驚かすなよ。こんな森の中に人間がいるなんてな...ふん、今は商品を運んでいる。君は?」


「僕はラークと言います。車内はえらく楽しそうな雰囲気ですね、今から街に向かうんですか?」


「車内か?...そりゃご機嫌だろうな。ああ、街には向かうが王都に行く。それが?まさか乗せろと?」


「はい、乗せてください。」


「断る。商人に対して、等価交換は基本だろう。キミはいくら持ってる?」


「お金なんて持ってないですよ。」


「じゃあまたな、頑張りたまえ」


2秒で断られた。でも、僕は諦めない。


「護衛をするので!」


「仕方ないな、許す、護衛が多くて困ることはない、乗りたまえ」


許可をもらった。そういえばこの人、僕が生まれてから人間と初めて出会い喋った人なんだな。

....後からわかることだけど僕自身が初めて殺す人でもあった...ね。

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