第3話
どおおおおおん、どおおおおおおおおん、――――――どおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!!!!
だがもう遅い。背後から爆発音めいた轟音。足元から坑道こと突き上げられて、ひゃ、と情けない悲鳴と一緒に否応なく身体が跳ねる。続く揺れに着地さえまともにできず無様に転びながら、冒険者はそれでも振り向いた。毛むくじゃらの黒駆。さっさと逃げ出すべきだったのだと後悔しても、やはり、もう、遅い。
「モグラ……」
そう、モグラである。先ほどの犬型のエニムとは比較にならないほどに巨大なモグラ型のエニム。地面から突き出た頭の一部が、この天球の半分ほどに収まっている。全体像は地面の下でうかがい知れないが、この頭の大きさから察するに、天球を後四つも用意しないと入らないほどだろうと分かった。
この坑道で採れる深紅の宝石、またの名を
しかし、その再認識は危急ではない。今ではない。生き延びてからでも遅くはあるまい。ずぼ、とエニムが片手を地面から出して、見せつけて来た。地中の岩盤を砕いて進むのに大いに役に立っているであろう頑丈そうな爪が、わしわしと動いている。あんな凶器、撫でられただけでも致命傷だ。
「というわけで、おじゃましました。もう二度と来ませんから!」
お辞儀を一つ挟みつつ、ぐるりと踵を返して駆け足。人間、命の危機に臨めば底なしの力が湧き上がって来るものだ。その
戦いは、必要に迫られて覚えているだけ。この星にはびこる
冒険者は走る。真っ白のワンピースが翻って細い脚が覗く、落ちないように抑えるキャペリンの唾が楽しそうに踊る、自分よりも頑丈そうな小さな岩石をショートブーツがいともたやすく蹴散らしていく。避暑地を駆け回ってはしゃぐ無邪気な令嬢めいた恰好の冒険者が、山中を迷路のように蛇行し河川のように分流する
ぜえ、ぜえ、ぜえ。一時間も歩いてモグラに出遭ったということは、とんぼ返りに要する距離は六、七キロほど。走ればおおよそ半分以下、二十分に少々と言ったところか。大丈夫、それだけの時間を全力疾走できるぐらいの体力はある。だから問題は、モグラがこれ以上の速度で追いかけて来ないかに尽きた。どーん、どーん。音も揺れも大きすぎて判別をつけずらいが、どうやら遠ざかっても近づいて来てもいないらしい。
そう考えると、少しだけ心に余裕ができた。念のため、と後方を確認してみる。推察に間違いはなく、どうやらモグラはつかず離れずの距離を追いかけて来ているようだった。逃げるスピードと掘るスピードはほとんど同じ、これなら何とかなるか……。
……いや、それよりも。
え? 何だ、あの掘り方は?
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