第三盗 一癖二癖【団員】



「じゃあ~、今から星に行く班員を決めます~。わーい、パチパチ」


 ガヤガヤと喧騒の中ゼノはゆる~く会議を開いた。まぁ、会議と言っても我ら盗賊に会議らしい会議を求めるのは間違っている。

 皆、酒やツマミを片手に聞いているかいないかの参加だ。


 そんな中、唯一真面目に紙とペンを用意しているのは我ら盗賊団の右腕、ヴァレンを置いて他にいない。


「で、人数はどうするんだ?」

「うん~……、行きたい人。手~上げて~」


 子供が遊ぶ子この指とーまれと、言うようにゼノは手をゆらゆら上げそう言った。


 そのふざけた声に答えるように、上がる十五本の腕。この会議に参加中の団員の半数だ。

 その中には先程ゼノに報告をした、ヴァレンの横に座るリーフもピーンと腕を伸ばし混ざっている。


「ん、じゃあ。これで行こっか……ヴァレちゃん、班割り宜しく~」

「お前も、少しは考えろ」

「えー、だって絶対ヴァレちゃんが決めた方が良いでしょう?ほら、私適当だからさ」

「自信満々に、自分で言うな」


 そう不満を言いつつも律儀に班割りを考えるヴァレン。その傍らで、団員とツマミを食べながら駄弁るゼノ。

 なんとも対極な二人だ。


「ねぇ……頭さん。今晩どう?空いてるかしら?」

「んーとね、今日はぐっすり寝たいから無理かな」

「もーぅ、貴方前もそう言ってたわよ。女からの誘いを断るなんって無粋なお人ね」


 団員であると同時にこの戦艦の船医でもある、女性【クロエ=ユリー=シャトロン】は、ゼノの腕に抱きつき耳元で甘い言葉を呟く。艶やかな黒と白の髪を後ろで結び、ダークエルフ特有の褐色の肌、胸元の開いた服の上から白衣を羽織っている姿はとても妖艶だろう。

 男性団員の中にはわざと怪我をし、彼女に見て貰おうとする者もいるほど、大人気だ。そんな彼女からの喜び舞い上がるような提案だが、ゼノは全くなびきもせずヴァレンの作った料理を食べるのに夢中だ。


 うぐぐ、と顔には一才出さず、また駄目だったと悔しく思う。チラッとヴァレンに若干の恨みを込めて見るが、意味が分からず首を傾ける姿にぐあぁぁぁ!と心の中で激しく叫ぶ。

 

「あぁ、駄目だわ。可愛いわ……」

「ん?なんだか知らないが、ヴァレちゃんが可愛いのには同意するよ」

「貴方にそう言わせるのは、彼だけでしょうね」

「君も美しいよ?」

「ふっふふ、ありがとうね。お世辞でも嬉しいわ」

「私はお世辞は言わない主義だけどなぁ」


 赤い血走った目で見る数人の男性団員の目線を気にも止めないゼノと、気づいているが笑って見せるクロエ。そこに、乱暴な声がかかる。


「フン、そんなので喜ぶとは安上がりだな」

「あぁ?……なに?カキツバ、焼きもち?」

「馬鹿言え。誰がお前みたいな頭空っぽ女、好きになるか」

「はぁ?頭空っぽですって?それこそ、貴方の事じゃないの、この脳筋」


 目線と目線を繋ぎにバチバチと火花が散る。


 健康的な筋肉質な肌に、群青色の髪にゼノより鮮やかで好戦的な朱の瞳、着物と呼ばれる襟と襟を合わせて着る構造の服を着る鬼人きじんの男。

 この男は【カキツバ=ゲッカ】、白鯨の創設時からいるクロエと同じ古株の団員の一人だ。それ故か、それなりに長い付き合いになる。


 だが、仲は現の通り非常に悪い。


「そんなんだから、女性にモテないのよ」

「はっ、興味ねぇーなぁ。生憎とお前見たいに誰にでも媚つくよなマネはしたくねぇからな」

「あらそう、死ねばいいのに」

「その言葉ソックリそのまま返すぜ」


 誰に対しても基本的に、穏やかな大人の対応をするクロエだが、この男にはそれが無くなる。

 しかし、それはカキツバも同じで彼は口が悪いながらも自分から喧嘩を売る事はしない。こんなにも、喧嘩腰になるのはクロエだけだ。


「相変わらず、二人は仲が良いね」

「悪そうだが?」

「ヴァレちゃんにはそう見えるんだ」

「お前は、どこを見てそう思うんだ?」

「さぁ?……秘密かな」


 微笑ましそうに眺めるゼノを、やはり理解できないとヴァレンは思った。


 


 


 





 


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