第33章 復活
そう言うと、脇に散らばったバラの造花を見た。
「あの子の能力を、随分変わった形で使うものだ。それより、電気ショッカーで一時的に意識を失くしてもらわなくては」
高杉はそう言って胸ポケットに手を伸ばした。
その時、彼の背後でカラン、と石の転がる音がした。
新たな敵を予感して、高杉が後ろに振り向いた。
次の瞬間、倒れていたはずの悠太が、むくりと立ち上がった。そのまま、後ろにあった鉱石の山に近づき、鉱石を手に取った。
それを高杉に勢いよく投げつけた。
動けないはずの悠太の復活に、高杉は一瞬目を疑った。
それが一瞬の遅れにつながった。
鉱石の一つが腕に当たり、激しい痺れが走った。すぐ警棒を持ち直し、すべてを地面に叩き落とした。
「はあ、はあ、はあ」
悠太は、苦しそうに息を切らせ、高杉に殴られた腹部を抑えた。鼻からは、鼻血が滴り落ちた。
脳漿が振動で揺れたからだろうか。頭がぐらぐらと揺れてめまいがした。
悠太にとって、一瞬の判断だった。
高杉が悠太の鳩尾に攻撃を放った瞬間、悠太はようやく高杉が、「加速」中に更に「加速」を使っていることを見破った。そして、自分もそれを使えることに考えが及んだ。
悠太も、さらに「加速」を使い、上半身を後ろに逸らた。
もちろん、攻撃を回避したわけではない。深く撃ち込まれたわけではないが、高杉の一撃は悠太の腹部に確実に当たっていた。
加速中にさらに「加速」を使うことは、肉体に相当の負担があることも分かった。
一段階目の「加速」ではほとんど感じなかった身体への反動が来ていた。
身体じゅうの体液が激しく揺さぶられたせいで、立ち眩みが酷くて今にも倒れそうだ。どこかの血管が切れたのか、鼻血がポタポタと落ち続けている。
なけなしの気力と根性だけで身体を奮い立たせている。そうでなければ、今すぐ意識を失い、倒れてしまう。
「お、お前は一体何者なのだ!?」
高杉は、悠太以上に混乱していた。
なぜ、自分の必殺の一撃を食らって、立っていられるのだろうか?
そもそも、自分を含めごく少数しか使えない万梨阿の力を、悠太は自在に使いこなしている。誰が、彼にこの力のことを教えたと言うのだろうか?そして、彼の驚異的な学習の速さは、どうしてだろうか?
高杉があれこれと考えているうちにも、悠太は次の攻撃のことを考えていた。
悠太が一日に使える「加速」時間は、約一〇秒だ。そして、さっきの二段階目の「加速」も含めて、すでに七秒間は使っている。
高杉が、「加速」を悠太以上に長時間使えるとするならば、悠太が対等に戦えるのはあと2秒間だけだ。
勝負は、次の2秒間で決まるだろう。
悠太は、警棒を掴み直し、後ろの鉱石に手を伸ばそうとした。
「させん!」
動揺を隠せない様子の高杉だったが、すぐさま危機を察知して、悠太を止めに掛かった。そして、そこでやっと足元に悠太が投げつけたバラの造花が無数に転がっていることに気付いた。
高杉は、「加速」を使おうとして、足元の造花が邪魔になって加速できないことに気付いた。
「な、なんだとおおお!」
「そこだ!」
悠太は、片方に警棒、片方に鉱石を掴んだまま、高杉に向かって駆け出した。相手が動けないなら、こちらに勝機があるばずだ。
「往生際が悪いわ!」
高杉は、後ろに大きく跳躍した。そしてそれが、最大の悪手となった。
「加速」という能力には、大きな弱点が一つある。
人間は空中で急に向きを変えたり、着地する場所を変えたりすることが出来ない。空中にいる場合、たとえ「加速」を使っても、相手に動きが読まれてしまうのだ。
「そこだ!『ダブル・アクセル』!」
悠太は、大きく跳躍した高杉の着地地点に向け、最後の「加速」を使った。
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