第26章 星屑の結晶

その後、三人は、監禁されていたAブロックのビルから脱出し、人目を気にしながら(深夜だったので、街を出歩く人間はほとんどいなかった)、中央エリアの「生命の樹」と呼ばれるビルに向かった。入口に警備員らしき人間がいたが、上官が学生証らしきものを取り出して話をでっち上げると、簡単に納得した。三人はビルの中へ入って行った。

 警備の厳重さも、上官は把握しているようだった。

 そのまま三人はビルの二階に上がった。一階に無かったエレベーターが設置されていた。

「これはなんですか?」

 小林が不審がって聞いた。

「地下へ続くエスカレーターだ。

 この存在を知っているのは、関係者と言えど、ごく一部だ。さあ、中へ」

 連れられて中に入ると、エレベーターの内部には窓一つ無かった。しかし一度動き始めると、ものすごい勢いで下へ降りていくことが分かった。悠太は、落下しているのではないかと感じた。

 かなりの時間が経って、急にエスカレーターの速度が緩慢になった。地下へ着いたらしい。

 地下を降りると、真っ暗闇の空間が続いていた。無性に空気が熱かった。

「なんだか、とても暑いですね。サウナ室にいるみたいです」

 小林が言った。

「ここは地中、月の中心に近い場所だ。マグマの熱で、常に気温30度以上だ。最高気温10度以下の地表とは別世界だ」

 上官はそう言って、前に進んだ。

 暗闇の中に一点だけ電子的な光を放つ場所があった。

「小宮山君こっち。これを差し込んでみたまえ」

 悠太は、言われるままにカードの一枚をスキャンしてみた。

 その瞬間、かなり上の方から、亀裂の入るようなピシッという音がした。それと同時に、巨大なゲートの左右が勢いよく開いていった。中に巨大な空間が現れた。

「これって…!」

 悠太は思わず呟いた。

 そこには、巨大な扇風機が幾つも回っており、上空には大きな穴が開いて地表に繋がっている。

 そして、部屋の中央には、空間の裂け目が幾つもあった。

 呆気に取られている小林をよそに、上官が説明を続けた。

「ここは、地球の大気を月面に送り出すための、一種の仕掛けだ。どういう原理で成り立っているのか、私にも分からない。この穴は、万梨阿嬢の力で開けたものだ。

そして、今回の計画の核、それがあれだ」

「??!!」

 悠太と小林は顔を見合わせた。

 巨大な空間の脇に、凹みになった場所がある。そこには、上下を怪しげな機械装置で固定された、巨大な水色の水晶があった。

 よく見ると、水晶はガラスケースに入れられ、ふわふわと浮いたまま、光を放っていた。

「あれは、スターダストの結晶だ。空気に触れると急激に熱エネルギーを発生させて崩壊するため、ああして真空のケースに保管されている。

 この空間の切れ目は、あの結晶から発せられる莫大なエネルギーを万梨阿嬢の力で変化させて作られている。あの石と万梨阿嬢、一つと一人でセットだ。

 おそらくだが、どちらかが消滅すれば、この空間の亀裂は無くなるだろう。この月に空気を供給する手段が無くなり、計画はまるきり無くなる」

「そんな大事なものなのですか?」

「ああ。このスターダストの結晶の存在を知っているのは、万梨阿嬢の監視係を任されていた私と、組織の一握りの幹部だけだ。そして、万梨阿嬢の居場所が分からない現在、あれが唯一、私たちが対抗する手段になるだろう」

 上官はそう言った。

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