第25章 新たな協力者
「小宮山さん、ここはどこでしょう?」
「さあ、きっと、地下深くの、誰も入って来られない場所じゃないかな」
「そんな場所に閉じ込められてしまって、僕たちはどうなってしまうんでしょうか」
「さあ、分かんないよ」
悠太は、そう言って独房に両足を投げ出した。
悠太のいる独房には、窓が設置されていて、通路側の様子を見ることが出来る。
向かい側にも、白い壁に窓枠が開けられていて、そこから小林がこちらを覗いていた。
黒マスクの小柄の男に捕まり、首筋に例の電気ショッカーを最大出力で当てられた悠太と小林は、あっという間に意識を失った。そして目が覚めると、四方が白壁に囲まれた、この空間にいた。
格子から辺りを覗くと、同じような部屋が幾つもある。ここの反乱分子を収容するため、用意された牢屋だろう。
他の独房からは物音一つしない。どうやら、ここに閉じ込められているのは自分たちだけのようだ。
「ところで小宮山さん、僕たちこの後、一体どうなるんでしょう?」
小林がまた聞いてきた。
「さあ、地球への攻撃が終わるまで拘束、とか?」
「僕たち一応、反乱分子ですよね」
「ま、まあ…」
ちなみに、ミサイル攻撃の計画を地球に通報しようと考えたことは、まだ白状していない。上手く隠し通せれば、なんとか言い逃れできるかもしれない。
しかし、うまい言い逃れとは一体どういう言い訳なんだろう。
朝の定期トラックの荷台に紛れ込み、盗聴されるのを警戒して、正式な手続きをしないまま受話器の置いてあるAブロックの建物に潜入した。
普通に地球に連絡を取るためだけなら、書面の手続きを取れたはずだ。それをしないまま違法行為に走った自分達は、確実に怪しまれるだろう。
なんだかお腹が痛くなってきた悠太に、小林が拍車を掛けるようなことを行ってきた。
「僕たち、反乱分子扱いですよね?
普通の刑事責任だけで、済むでしょうか?もしかしたら、素性がバレて、無期懲役か、最悪死刑も…」
「おい、止めろよ!こういう時こそ、強気でいるもんだ」
「小宮山さんは強気なんですか?」
「おう、当然だ」
悠太はそう言って胸を張ってみたが、声が少し震えていた。
「強気、ですか…」
小林は黙り込んだ。
しばらくの間、静寂に包まれた。
今後のことに、ああでもない、こうでもない、と言い訳を考えていた悠太に、また小林が話し掛けてきた。
「小宮山さん、小宮山さん」
「なんだよ?」
「あの、僕たちを捕まえた最後の黒マスクの男、誰なんでしょう?」
「誰って、心辺りがあるのか?」
「いえ、ありません。でも、小宮山さんが先に倒した二人の男、よく見たら、別班の外国人でした」
「それ、ほんとか?」
「はい、僕が風呂場で何度か見かけたことがありましたから。
それで、もしかしたらあの黒マスクの男たち、全員編成隊のメンバーじゃないかと」
「でも、編成隊は軍隊みたいにあの寄宿舎に閉じ込められているんだぞ?あんな朝早くに、あんな場所にいるわけないじゃないか」
「そうはそうなんですが、情報統制された編成隊でも、特別な人たちがいるじゃないですか」
「特別?」
「特待生枠ですよ」
「特待生枠って、あの上官たちのか?確かに、上官たちだけ、月の計画について知ってたし、上官が俺たちを襲ってきた時も、周りは編成隊の人間だったな」
悠太は、小林の仮説を採用すれば、大まかな辻褄が合うことに気が付いた。
「待てよ、小林。そうするならば、特待生枠って、そもそもクーデターを企てていた、妖しい連中ってことになるんじゃ」
「そうかもしれないですね」
悠太は、立ち止まって考えた。
上官は、確かに頭が固いし、融通が利かない。理屈こきで、自分にも他人にも遠慮がない。しかしあの人は悪人には思えなかった。
あそこまで頭の固い人間が、こんな大それたクーデターに協力するだろうか?
「小林、なんだろう。僕は、この計画、誰かが勝手に組み立てているように思える」
「誰か?でも、そんな計画にみんなが協力するでしょうか?」
「それは、そうだな。
それにしても、あの最後の男は、何者だろう。加速した僕の蹴りが、止められた」
「はい、見ました。その後には、小宮山さんを触らずに組み伏せていましたよ」
「触らずに?」
悠太は、万梨阿にはそんな力あっただろうか、と振り返っていた。
その時、独房の前を貫く通路の突き当りのドアが、勢いよく開かれた。
誰かが、規則正しい足取りで、こちらにやってくる。
悠太は、どこかに連行されるかもしれない、と思い、部屋の隅に身体を寄せた。そして、なるべく多くを話さないことにしようと心に誓い、入口が開けられるのを待っていた。
規則的な足音は、悠太と小林のいる部屋の前でピタリと止まった。掛けられた錠前がガチャガチャと鳴り始めた。
ガチャリという音と共に独房の部屋を開けた人物が、部屋を開けた。
「…上官殿?」
悠太の目の前に立っていたのは、上官だった。いつものように険しい表情をしているが、悠太には少しだけ表情が柔らかくなっているように思えた。
「小宮山君、実は、お願いがあってきた」
「僕は、何を白状すればいいんでしょう?」
悠太は思わず後ずさった。
「違う!私は、君を取り調べるために来たんじゃない!」
「?」
「君は以前、私の姉が、このエリアの風俗街で働いていると言っていたね」
悠太と小林は上官の協力を漕ぎつけようと、リカの話をしに行った。その時は、説得できないまま上官の説教を食らって追い返されてしまった。
「私が軽率にも、君の意見を撥ね付けたことは、済まなかったと思っている。しかし、君たちから来たレポートに挟まれた写真を見て確信したよ、あれは私の姉だ。
悪かった、で許してくれとは言わない。だが、私は、姉を救い出したい!
実は、私が大学で修士課程にまで進めているのも、姉の仕送りのおかげなんだ。それが、こんな形でなりたっていたなんて!
小宮山君、お願いだ。私に協力してくれ!いや、私を君たちの計画に混ぜて欲しい!この通りだ」
そう言って、上官は次の瞬間、頭を深く下げた。
悠太は、しばらく呆気にとられて何も言えなかった。今まで、ずっと一方的に指示されてきた相手に頭を下げられるのは、驚きを通り越して気持ち悪かった。
「その、上官殿。頭を上げてください。
詳しい話はあとで聞かせてください。今、僕たちはここの人たちに捕まって、出られない状況なんです。状況を打開する策もありませんし、」
地球に、ミサイル発射の計画を通報しようとしたことを言いかけて、悠太は慌てて口を噤んだ。
向う側では、窓枠の奥から、小林が疑わしげな顔を浮かべていた。
悠太も、上官の態度を疑っていた。もしかしたら、自分たちに秘密を告白させるための、罠かもしれない。
「いや、打開策ならある!といっても、ここですべてを話すわけにはいかないのだ」
「そうなんですか?」
「ああ、取り敢えず小林君も連れて、ここから脱出をしよう」
「待ってください」
小林が、ぴしゃりと言った。丁度、上官が小林の独房のカギを解除したところだった。
「上官殿、お詫びの言葉、恐れながらも頂戴しました。
しかしですね、僕たち、捕らわれの身なんです。あなたが、向う側の方たちの、手先とも限らない。僕たち、あなたをすぐに信じるわけにはいかないんです」
上官が、ピタリと動きを止めた。
「証拠が必要、か。そうだな。では、このカードを、君たちに渡しておくよ」
上官は、そう言って種類の違うICチップ入りのカードを悠太と小林に渡した。
「これは?」
「ここに来るまでに私が使った、ロックキーだ。特待生の中でも、これらは万梨阿嬢の監視を任された私しか持っていない。
君たちがこれを持っていること、牢屋のカギが勝手に開けられたこと、以上で簡単に私に足が付く」
「…分かりました、いいでしょう。いざとなったら、あなたを押さえて逃亡させてもらいます。
これは小宮山さん一人が持っていてください。なんの能力も特権もない僕が持っていても、あまり意味がなさそうですし」
小林は、上官の申し出を受け入れるつもりのようだ。それに、今ここで話をするより、ここから立ち去ることの方が重要だった。
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