第21章 作戦当日
次の日の朝、早朝6時。
二人は、着替えを済ませ、ここに来た初日にしか来ていなかった礼服の黒い外套を見に纏った。他の隊員達にばれないように、部屋を出て、中央のロビーで待ち合わせた。
定期便のトラックは、定例通り6時30分に寄宿舎の裏口に辿り着いた。そこから順番に食料品を載せたカーゴ台車が下ろされていく。
二人は、ぎりぎりまで裏口のドアの陰に隠れて、中に入る機会を見計らっていた。
カーゴ台車が全て下ろされ、代わりに空になったカーゴ台車が次々と筋骨隆々のドライバーによって中へ入れられていく。
すべての空台車を載せ終わった時、チャンスは来た。
小林が企んだ通り、ドライバーは地球向けシャトルに載せるためのレターカバンを回収するため、管理室へ入って行った。
二人は、ドライバーが消えるのを視認すると、勢いよく飛び出した。
そして、そのまま気温マイナス二度のチルド室に入り込むと、カーゴ台車の間に無理やり体を押し込めた。幸い、二人の細身の体は、台車の間になんとか収まった。
二人が息を殺していると、間もなく戻ってきたドライバーが、レターカバンを中に放り込んだ。扉を閉めると、コンテナの内部は真っ暗になった。
二人は、ドアが閉まるのを確認すると、ほっと息をついた。
悠太たちのコンテナを載せたトラックは、いつものように中央のシャトル前倉庫へ向かう。悠太は、ガタガタと揺れる砂利道を揺られながら、それ以上に自分の鼓動が高鳴るのを感じていた。
トラックはそれから約15分後に止まった。まもなく、コンテナの錠をドライバーが開ける音が聞こえ、再び向うから光が差してきた
「小宮山さん、今です!」
「ああ、行こう!」
悠太と小林はそう言うと、入口に向かって真っすぐに走り出した。
いつものように事務的にドアを開けたドライバーだったが、中から二人の少年が出てきたことに目を白黒させた。
悠太は、ドライバーの前で立ち止まると、胸ポケットから学生証を出した。
「黙って中に入り込んでしまい、申し訳ありません。ここに来るよう上司から指令がありまして、朝一番で来るために、乗せていただきました」
そう言って、再び学生証を突き付けた。
上司から指令があった、などもちろんウソだ。そうでもしないと、すぐにBブロックに通報されかねないのだ。
ここのドライバーは民間企業から雇われた一般人だ。苦しいハッタリで押し通せると判断したのだ。
ドライバーは、突然の出来事に当惑していた。しかし、倉庫内で同僚を見つけると、声を掛けた。
「そういうことなら、編成部隊の管理人さんから連絡してもらわないと、困るよ」
「それでは遅い、緊急の用事なのです。すみません、時間がありません。また、すぐ戻ってきます!」
そういうと、二人で入口へ駆けだした。
突然のことに、現場に居合わせたドライバーたちは、しばらく立ちすくんだままだった。
倉庫の入口を抜けると、早朝でまだ活動を始めていないAブロックの灰色のビルが規則正しく立ち並んでいた。そのビル群を抜け、中央にそびえ立つアーチ形の建物が、地球の空気を製造し、月面を「生存可能空間」たらしめている「生命の樹」だ。
その脇をすり抜け、南側の目立たないビルの一角に入る。
締め切られた自動ドアを、隙間に持参した金属ヘラを隙間に差し込んでこじ開けた。
そして、中に入ると、そこは日本大使館だった。
無人の受付をスルーし、地下一階に繋がる階段を二段飛ばしで飛び降りた。
「意外と人がいないな、小林!」
悠太が、地下へ続く階段を二段飛ばしで降りながら言った。
「表向きは地球との交信のために作られた施設ですから。本当に警備する場所は、他にあるんでしょう」
小林が言った。
階段の踊り場から折り返すと、薄暗い地下に繋がっていた。悠太は、こんな場所に本当に電話があるのか、と一瞬不審に感じた。
二人が薄暗い地下一階フロアに辿り着くと、そこは地下駐車場のようなコンクリートで囲まれた空間だった。この空間を真っ直ぐに進んだ先に、地球へ繋がる電話機があるはずだ。
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