第16章 一週間後のミサイル計画

 二日後、悠太と小林は、いつも通り、宿舎から4キロ離れた採掘場に向かった。

 前日は一班が二手に分かれて採掘を行ったため、悠太は小林とは朝礼の時間にしか会わなかった。その時はいつも通り、へらへらと笑っていた小林だったが、今日は違っていた。

 口を真一文字に結んで、ずっと難しいことを考えている様子だった。

トレードマークの猫背の前で腕を組んで、ひたすら押し黙っていた。悠太は、小林がこんなにも不機嫌な様子を、万梨阿がフィギアを壊して以来、見たことがなかった。

 午前中の採掘の時、二時間が経過した頃、小林が急に近づいてきていった。

「小宮山さん、先日約束した、上官殿のお姉さんのことですが」

「ああ、結構すごいサービスだったろ?」

「何にもせずに帰ってきましたよ!」

 悠太は、柄にもなく冗談を言ってみたが、予想外にまじめな返事が返ってきた。

 小林は、それどころじゃない、と言って切り出した。

「行きましたよ、昨日の夜。僕はお姉さんの好意で一円も払いませんでしたが」

「何か手がかりになる話でも?」

 悠太は、実は未だ小林の仮説について半信半疑だった。

「ええ、当たりですよ。大当たりです」

「じゃあ、リカさんはやっぱり、上官の?」

「ええ、お姉様です。そして実は、それ以上に予想外の話を聞きました」

「月の計画の話だろ?たしか、『ムーン』なんとか…」

「はい、『ムーン・クレイドル』というらしいですけど」

「確か、そのうち月から地球を支配する、だったっけ」

 悠太は、実は上官の話が突飛すぎて、未だによく理解できていなかった。

「その計画ですけど、あと三日後、月から地球に、ミサイルを撃ち込むらしいです」

「え?」

 悠太は、とっさの話で理解できなかった。

「ムリも無いですね。僕も、すぐには信じられなかったです。でも、ちゃんとした証拠書類を見せますから」

「小林、なんでお姉さんから、そんな話を?」

「あの風俗街ですが、実はAブロックの各国機関や国際機関の職員たちの数少ない娯楽施設として、作られたらしいです。当然、あの店を利用するのも、各国政府の幹部クラスの方たちです」

「その人たちから聞いたの?」

「正確には、控室の話を盗み聞きしたらしいです。重要書類も、客のカバンの中から盗み取ったものです」

「なんでそんなこと?」

「誰かにそれを渡すためです。と言っても、書類まで手に入ったのは、今週に入ってかららしいですが」

「そんな、まさか…。万梨阿どころか、これじゃあ地球自体が」

「ええ、この計画を阻止しないと、ここの人たちに、地球が征服されてしまいます」

 小林は、毅然とした表情をして言った。

「小宮山さん、早くこのことを上官殿に報告しましょう。政府と繋がりのあるあの人なら、何かこの計画の重要なデータを知っているはずです」

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