安息と前兆

 温泉町トモミス。

 バスコルディアから北東に位置し、湧き出す温泉を基盤にした観光産業が盛んな町である。

 観光客の多さから流通も活発であり、バスコルディアにはかなわないものの、品ぞろえの豊富さには定評がある。

 そんなトモミスにスカリーたちは到着した。 

 もうしばらくすれば、日が沈み始めようとしている時間である。

 「それで、スカリー。温泉はどこですか? わたくしは早く温泉に入って呑みに行きたいのですが」

 「スカリーさん。わたし温泉って初めて。屋敷にお風呂はあったけど、みんなで入るようなのは行ったことないから……」

 「……風呂よりも先に買い物だ」

 はしゃぐマイディとハンリを制して、スカリーは馬車を商店が集まっている方に向かわせる。 

 当然のようにマイディは反対する。

 「なぜですか? お風呂はいいものですよ。わたくしの美しさに一刻も早く磨きをかけないといけません。わたくしが垢にまみれているなどということは人類の損失ですよ」

 「夜になったら閉めちまう店もあるだろうが。温泉のほうは夜もやってるとこがほとんどだから安心しろ」

 荷台から身を乗り出して抗議するマイディだったが、スカリーはそれをあしらう。 

 「むう、それはそうですが……」

 「第一、着の身着のままでバスコルディアから出てきたんじゃねえか。水や食料、それにいつも宿に泊まれるわけじゃねえから野営用の道具もいる。少しでも早くハンリを家に帰してやろうと思うなら準備はおこたれねえだろ」

 「食料や水なら野生生物を狩ればいいと思いますが?」

 「おめえと一緒にすんな。あとハンリのことを忘れてねえか? もう一回解体ショー見せるつもりかよ」

 「……わかりました。でも、ちゃんと温泉には行ってくださいね」

 「努力するよ」

 スカリーたちを乗せた馬車は商店が集まっている地区に向かって行く。


 

 「オヤジさん、水と食料。あとは野営用の一式あるかい?」

 ロンティグス大陸においては流通の主な手段は馬車である。

 近年登場した鉄道は決まった場所しか通れず、輸送能力の大きい魔獣を用いた荷車は貴重である上に、運用のコストが高い。

 ゆえに、一般人が使っているのは荷馬車である。

 需要があれば供給がある。

 町と呼べるほどに流通が発達しているのならば、そういった、馬車で流通を行う人間をターゲットにした店は存在している。

 トモミスにもそれは当然あり、スカリーたちはそこに来ていた。

 カウンターに座り、暇そうにパイプをふかしていた店主は物珍しそうにスカリーたちを見る。

 「なんだい、アンタら? 商人には見えないし、かと言って、賞金稼ぎにしちゃあ妙だねぇ」

 「まあ、旅のモンだよ。それよりも必要なものを売ってくれねえか?」

 「ああ、はいはい。どのくらいの量がいるんだい?」

 「そうだな……半月分でいいな。保存が効くヤツを頼む」

 「はいよ。どっこいしょ、と」

 店主は立ち上がると、台車を持ってこようとする。

 スカリーはそれを手で制する。

 「ああ、いいよ。自分たちで運べる。どこにあるのか教えてくれればいい」

 「自分で? アンタら水も買うんだろう? 三人の半月分ならかなりの重量になっちまうよ」

 「大丈夫だ。こっちには力が有り余ってるシスターがいるしな。おいマイディ、このオヤジさんが案内してくれるから食料と水を運んでくれ。俺はほかに必要なやつを見繕みつくろう」

 「まったく、人使いが荒いですね」

 南国産のフルーツを眺めていたマイディは愚痴っぽく言うと、わざとらしく肩をすくめてから店主についていく。

 初めて入る種類の店に入ったハンリは興味津々といった様子で陳列されている商品を眺めていた。

 スカリーが必要なものをカウンターに並べていると、店主とマイディが入っていった倉庫の方から店主が驚いたような声が上がった。

 何を言っているのかは分からないが、その内に、驚きの声は称賛の声に変わる。

 段々とそれが近づいてきて、先にマイディが現れた。

 恐らくは一杯に水が詰まっているであろう大きな樽を背負って。

 マイディがぶつけないように慎重に倉庫から店内に入ってくると、その後ろから興奮した様子の店主が出てきた。

 店主はスカリーに近づく。

 「いやー! なんだいあのシスター! 大の男でも数人がかりで持ち上げる大樽だっていうのに、一人で持って行ってる! あれも神の奇跡かい?」

 「いや、ありゃあ司祭サマに鍛えられてるのと、元からだよ」

 「それにしてもすごい! まるで寝物語に登場する英雄みたいだ!」

 「まあ、オヤジさん。それよりもここに並んでいる物も一緒に会計してくれ。マイディ、樽は馬車に積んでおいてくれ」

 興奮した店主を落ち着かせ、マイディに指示を出しながらスカリーは会計を済ませる。

 買ったものを大きな布袋に入れてもらって、用事が終わったスカリーは店を出ようとする。

 だが、ハンリとマイディは店の一画から動かなくなっていた。

 妙に思ったスカリーは二人に近づく。

 そこは乾燥果物ドライフルーツ乾燥野菜ドライベジタブルが置いてある場所だった。

 「見てください、ハンリちゃん。この見事な色! 南国の果物としては最高級なんですよ、これ」

 「わあ、宝石みたい……」

 ドライマンゴーを眺めながら二人はなにやら陶酔(とうすい)していた。

 そんな二人にスカリーは一瞬だけ声をかけるかどうか迷ったが、あまり時間をかけるわけにはいかないので、意を決して声をかける。

 「何やってんだ?」

 はっ、と夢から醒めたように二人は我に返る。

 「あ、あら、スカリー。買い物は終わったのですか?」

 目を泳がせながらマイディはスカリーに尋ねる。

 「終わったよ。それよりもなんだよ? いい歳して何に夢中になってやがる」

 呆れた口調のスカリーに対して、マイディは胸を張る。

 「乾燥果物に夢中になってました。ついでに買っていきましょう、スカリー」

 「得意げに言ってんじゃねえ。食料はもう買ったんだからいらねえ」

 「えー? いいでしょう? 旅の道中があのマッズイ保存食だけっていうのはとてもつらいのですよ。だからここはひとつ、ちょっとしたアクセントが必要になってくると思うのです」

 熱弁するマイディの表情を見て、スカリーはマイディが引く気がないことを悟る。

 「わーったよ。あんまり買い込むんじゃねえぞ? あとハンリ、おめえも食いたいヤツは選んどけ。いつまともなメシにありつけるのか分からねえんだからな」

 折れたスカリーに対して、女性二人は「やったー!」などと歓声を上げながら、早速商品を選び始めていた。

 


 当面の水と食料を確保したスカリーは馬車を出す。

 少しの間、ゆっくりと走らせていたが、ある店の前でスカリーは馬車を止めた。

 「どうしたのですか、スカリー? このお店に温泉は無いと思いますよ?」

 荷台から顔を出してマイディが尋ねる。

 「どんだけ温泉に入りてえんだよ、おめえは。俺は弾が必要になるからな。今のうちに買い込んでおく。そのまま待ってていいぜ」

 〈モーテムゼル銃器店〉

 スカリーが馬車を停めたのはその店の前だった。

 ひらりと御者台から降りると、スカリーはそのまま店に入っていく。

 マイディは、荷物が増えたことで窮屈きゅうくつそうにしているハンリの手を取る。

 「マイディ?」

 「わたくしたちも参りましょう。スカリーがどんな物を買うのか興味ありませんか?」

 「こ、個人的な買い物だし、わたしたちが一緒に行ったらスカリーも買い物しづらいんじゃないかな……」

 ハンリは乗り気ではない。

 というよりも、ハンリは銃が好きではなかった。

 元々、争いを好まない少女である。

 子供でも人を殺せてしまう銃というモノは、できれば近づきたくないものだった。

 そんなハンリを見て、マイディはニヤリと笑う。

 ハンリの耳元に口を近づけ、ささやく。

 「……もしかしたら、このお店で売っているのは銃だけではないかもしれませんよ?」

 「ど、どういうこと?」

 突然過ぎるマイディの発言にハンリは戸惑う。

 そんなハンリの様子を知りながらも無視して、マイディは続ける。

 「よぉく考えてみてください。男性というモノはみな獣なのです。そんな男性がわたくしたちのような見目麗しい女性と一緒に居て平気なわけがありません。そのたける欲望をぶつけるための対象が必要になってくるのです」

 「よ、欲望……」

 「そうです、欲望です。しかも、とてもわたくしの口からは言えないような。ハンリちゃんはそんなモノを持ち込まれてもいいのですか?」

 想像してハンリは真っ赤になる。

 「さあ! スカリーが人の道に外れない内にわたくしたちが正してあげなくてはなりません! 行きましょう!」

 大仰な動作でマイディはハンリを誘う。

 少しの間、ハンリは逡巡しゅんじゅんしていたが、やがて何かを覚悟した目でマイディに告げた。

 「行こう、マイディ。わたし、スカリーが変態になっちゃうのは嫌だ」

 「そうです、ハンリ。それでこそ神の信徒です」

 とても良い笑顔でマイディはうなずいた。



 モーテムゼル銃器店の中は狭かった。

 いや、本来はそれなりの広さがあるのだが、壁一面を埋め尽くす勢いで陳列されている銃器でスペースが圧迫されているのだった。

 ゆえに、人間が三人ほど入るとかなり窮屈になってしまう。

 「なんでおめえらまで来てんだよ。必要ねえだろ」

 半ば呆れの混じった目線をマイディとハンリに送りながらスカリーは嘆息する。

 「ふふふ、わたくし、一度銃器店というものに入ってみたかったのです。バスコルディアでは出入り禁止になってしまいましたので」

 「あの……わたし、その……」

 うれしそうなマイディと、なんだかもじもじしているハンリを見て、スカリーは大体の事情を察する。

 (ハンリがマイディに乗せられたってとこか。ホントろくな事しねえなこのアホ)

 盗賊を殺したときよりも疲労感を感じながら、スカリーは店の奥に進んでいく。

 「マイディ、ハンリ。その辺のモノに触るんじゃねえぞ。素人が触って暴発でもしたらコトだ」

 スカリーの忠告にハンリはびくりと身を震わせる。

 対して、マイディはどこ吹く風といった風に並べられている銃器を眺めていた。

 店の奥、カウンターになっている場所に一人の老人が座っていた。

 眉間には深いしわが刻まれ、眼光鋭くなにかのパーツを組み立てていた。

 「オヤジさん、買いたい物がある。C&R社の四四口径の弾薬と、あるんならでいいんだが水銀封入弾頭弾マーキュリーバレット

 老人は手を止め、スカリーを見る。

 「水銀封入弾頭弾? そんな高価な代物は置いてないな。四四口径のほうはあるぞ」

 ぶっきらぼうに老人は答える。

 答えてすぐに老人は背後に積んである弾薬が詰まった箱の山からすでに目的の物を見つけ出していた。

 「数はいくつだ? 一ダースで銅貨六枚だ」

 「一グロス(一二ダース)頼む。あと、ほかに水銀封入弾頭弾を売ってそうな店はねえか?」

 スカリーの質問に老人は左眉を上げる。

 「トモミスじゃあ、弾薬を売っているのはウチだけだ。闇ルートで売ってるヤツもいるかもしれんが、お前さんらみたいな外から来た人間には探し出せんよ」

 なるほど、とスカリーは少しばかりの落胆の念を抱く。

 (手持ちの分でどうにかするしかねえか)

 「んじゃあ、四四口径だけでいい」

 「銅貨七二枚」

 店主が無駄口を叩かないことにスカリーは感心する。

 往々にして、こういった専門的な店の店主はぺらぺらと自分の知識を披露したがるものだが、この店主にはそれがなかった。

 愛想がないのはむしろスカリーには心地よかった。

 代金を支払い、弾薬を受け取ると、スカリーは踵を返して出口に向かう。

 途中で散弾銃に興味津々のマイディの首根っこを捕まえ、恐る恐るといった様子で店内をうろうろしていたハンリに声をかけ、荷馬車に戻った。

 三人が出ていった店の中で老店主は一人、呟く。

 「水銀封入弾頭弾? あの小僧、魔法を使うようには見えなかったが……」



 日が沈み、そろそろ夕食の時間という頃になって、スカリーたちはやっと温泉付きの宿を見つけていた。

 マイディが温泉付きでないと泊まらないと言い出したためである。

 湯治とうじ客が多いトモミスでも温泉付きの宿はそうそう無い。

 あっても、すでに客室は満席の状態だった。

 住人に片っ端から声をかけて聞き、やっと見つけたのである。

 マイディ以外はすでに温泉よりも食事のほうが優先になっていた。

 「さあ、温泉に入りましょう!」

 だがしかし、マイディは温泉に入る準備を完了していた。

 「先にメシにしようぜ。温泉はそれからでもいいだろ」 

 「わたしもお腹が減っちゃった」

 着替えと、体を拭くための布をたずさえ、さらに石けんまで用意している状態のマイディを見てもハンリとスカリーの意見は変わらない。

 というかすでにここは宿の中にある食堂である。

 一人だけ温泉に入ろうしているマイディの方が浮いていた。

 「大体、どんだけ温泉好きなんだよ、おめえは。南部人がそんなに風呂好きだとは知らなかったぜ。チキンステーキ。ソースはグレービーで」

 「南部は火山がいっぱいあるから? わたしはチリソースオムレツ」

 注文を取り来たウエイトレスに注文しながらスカリーとハンリはマイディに突っ込みを入れる。

 意外に息が合ってきているのだった。

 注文を終えてしまった二人から『お前もとっとと注文しろ』という視線を受けて、マイディは今すぐの温泉を諦める。

 「……ベイクドビーンズ。あと付け合わせにポテトを山盛りで」

 不承不承と行った様子でマイディもやや顔を引きつらせていたウエイトレスに注文する。

 「はーい」と返事をして、胸をなで下ろしながらウエイトレスは厨房の方に去って行った。

 「……わたくしは食事の前にお風呂のほうが好きなのです。なんと言ってもお風呂で乾いた体に染み渡るアルコールのなんとも言えない心地よさ! ああ、もうたまりません」

 勝手にマイディは風呂上がりの一杯を想像してだらしない顔をする。

 それを見てハンリは苦笑し、スカリーはため息を吐いた。

 やがて注文した食事が運ばれてくると、マイディとハンリは神に祈りを捧げた後にゆっくりと食事を楽しみ、スカリーはとっとと片付けた。

 そして、部屋に戻る。

 本来は四人部屋なのだが、三人部屋がなかったので余計に代金を支払って、確保した部屋だ。

 「さあ、スカリー。わたくしたちは温泉に入ります。スカリーも行きましょう」

 すでにマイディはスカリーの分の着替えも用意していた。

 これにはさすがにハンリも呆れる。

 「俺はいい。おめえらだけ入ってこい。一応入り口は見張っておく」

 「なりません! いいですか? 神の信徒であるわたくしとハンリちゃんを護衛するのですからスカリーも恥ずかしくない格好をしなくてはなりません。これは決定事項なのです」

 「まあ、おめえらが風呂に入ってくるっていうんなら護衛はする。だが、俺まで入るこたぁねえだろ」

 実はスカリーは風呂嫌いである。

 元々、頻繁に入浴する習慣は神職、もしくは貴族にしかないので当然であるかもしれなかった。

 庶民は体を布で拭くぐらいがせいぜいである。

 「おら、さっさと行ってこい。入ってる間は俺が見張りだ」

 そう言いながらマイディから自分の着替えを取り上げたスカリーの袖をハンリが引っ張る。

 「あん? なんだハンリ?」

 「……スカリー、臭いのは嫌」

 その言葉にスカリーは苦虫をかみつぶしたような顔になる。

 しばらくスカリーは考えていたが、そのうちに諦めの表情になる。

 「わーったよ。俺も入ればいいんだろ? ただし、俺が入っている間はマイディ、おめえがハンリの護衛だ。頼んだぜ」

 「いいでしょう。このわたくしに任せてください。どうぞ大船に乗ったつもりでいてください」

 「大船は大船でも幽霊船じゃねえことを祈るぜ」

 


 「うわぁ……大きい」

 「ふふふ、これでもまだまだ小さい方なのです。南部に行けばもっともっと大きな温泉もありますよ」

 浴場に入ったハンリとマイディの第一声がそれだった。

 浴場はそれなりの大きさであり、二十人ぐらいは楽に入れそうなぐらいだった。

 早速、マイディは体を洗い始める。

 ハンリも隣に座り、髪を洗い始める。

 「ハンリちゃん、わたくしはうれしいです」

 「え?」

 体を洗い終わり、今度は髪を洗い始めたマイディがハンリに声をかける。

 「わたくしは元々、万人に好かれるタイプではありません。それなのに、ハンリちゃんはわたくしを信じてお風呂に一緒に入ってくれる。こんなにうれしいことはありません」

 感慨深い様子でマイディはハンリを見る。

 ハンリは髪を洗う手を止め、マイディの方を見た。

 「……始めはマイディが怖かったよ。でも、本当は優しいって分かったから。信じることにした」

 はにかむような笑みを浮かべてハンリは応える。

 それを聞いて、マイディはなんだか感動していた。

 「ああ! ハンリちゃん! こんなにかわいらしい子を怖がらせてしまうだなんて、わたくしはなんと罪深いのでしょう! こんなに! こんなに! かわいらしいというのに!」

 「ちょ、マイディ! やめて!」

 マイディはハンリに抱きつく。

 ついでに頬ずりをしながら抱きしめる。

 「ああ、すべすべ! お肌もつやつや!」

 「マイディ! ちょっと! これ以上は! ちょっ、そこは……」

 「ふふふ……この際です。女の友情を深めようじゃないですか……うふふふ」

 「もう! マイディ! ああっ!」

 「めくるめく百合のその―!」

 

 「何やってんだあいつら……」

 入り口で見張りをしているスカリーにもマイディとハンリのやりとりは聞こえていた。

 


 「ふー、良いお湯でした」

 「……」

 一時間後、やけに肌につやのあるマイディと、なにか大事な物を失ってしまったような表情のハンリが出てきた。

 「何があったのかは聞かねえわ。俺も入ってくるから待っててくれ」

 それだけ言うとスカリーはさっさと男湯の方に入る。

 ハンリとマイディは並べてある長椅子の一つに腰掛ける。

 「ところでハンリちゃん、わたくしの体を見て、何か感想はありますか?」

 「……わたしはまだ成長期」

 胸の辺りに手を当ててハンリは呟く。

 「神への信仰が深まれば、胸も大きくなるかもしれませんよ。実際に聖女と言われている人々はみな巨乳です」

 「ホント⁉」

 「本当です。聖マリエーナ、聖ジェニエット。そして聖ソウティナ。みな巨乳です」

 「わたし、頑張る」

 「その意気です。神は全てを見ていらっしゃいます」

 かなりアホな会話に神の名が使われていた。

 一〇分後。

 「誰か来たか?」

 スカリーが男湯から出てきた。

 あまりの早さにハンリもマイディも驚く。

 「スカリー、貴方本当に入ってきたのですか? ちゃんと体は洗いましたか?」

 「洗ったよ。風呂に入る習慣なんてねえし、湯に浸かってるとのぼせそうになったから出てきたんだよ」

 納得しかねる様子のマイディだったが、ニオイを嗅いで、体を洗ったことは信じた。

 「とっとと部屋に戻って寝ようぜ。マイディ、見張りは三時間交代な」

 「分かりました。ではわたくしが先に寝ます。ハンリちゃんはぐっすりと寝ていてください。夜更かしは美容の大敵ですからね」

 「うん」

 


 「……ゃん、リちゃん、起きてください。ハンリちゃん、起きてください」

 「ん……マイディ?」

 部屋に戻って就寝したハンリは寝ているところをマイディに起こされた。

 目を開けたハンリが見たのは寝間着から尼僧服に着替えているマイディと、すでに拳銃と長剣を装備しているスカリーだった。

 「何かあったの?」

 スカリーが武装していることでハンリの頭が一気に覚醒する。 

 「まだ何も起こっちゃいねえが、これから起こる」

 ハンリが自分の懐中時計で時間を確認すると、夜の三時だった。

 「夜襲には絶好の時間。その上、さっきから宿の中に人間の気配がしねえ。最悪戦闘になるからハンリは俺かマイディの近くにいろ」

 窓から外をのぞきつつ、スカリーは警戒する。

 「考えにくいことなのですが、どうやらハンリちゃんの追っ手が来たようです」

 そう教えるマイディはどこかうれしそうに笑っていた。

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