第4話おいかけっこ

朝、目覚めると俺は畳の上で寝転がっていた。

昨晩、急に押しかけてきた柊木が俺の部屋の布団で眠っているので俺は渋々座布団を枕にして眠った。

だが、さすがに畳の上で眠ると少し体が痛い。いや、もしかすると昨日のことは全て夢だったりするのでは、と思った俺は自分の部屋の扉を恐る恐る開けた。

部屋の中は特に変わってない。ただし、布団を除いては、だ。

布団の中には小さく丸まって眠っている柊木がいた。

柊木は小さな寝息をたてながら、すやすやと眠っていた。その姿はまるで人形のように。とても可愛らしく、ただ、どこか寂しげな感じがした。

寝顔を見ると、不覚にも少しどきっとしてしまう。柊木は黙って普通にしていれば可愛い女の子だ。それこそ、東山にも負けないくらいそれくらい顔立ちはいい。

俺は、少しだけその寝顔に見とれてしまった。不覚にも。

起こすと悪いかもしれないから、部屋から出て行こう。というより、起きていたら殺されるかもしれない、そう思って部屋から出て行こうとしたその時。

「…ねぇ」

がしり、と足首を掴まれる。甘えが少し入っている声が聞こえた。掴まれた足首から手を振り払おうとするが、結構力強か握られている。

「あんた、女の子の寝顔見るなんていい度胸してるじゃない?」

先ほどとはまったく別人のような、例えるなら肉食獣のような雰囲気が漂う。

「そ、そうか?ってか、お前いつから起きてた?」

「…ずっとよ」


柊木に顔面を殴られたあと、俺はすぐさま朝食を作った。

そして、いつもは作らない二人分の朝食を食卓に並べた。

柊木の機嫌は相変わらず悪いが、それでも先ほどよりかはいいと見受けられる。

飯を食ってるからかな?

柊木は一言も喋らず、結構な勢いで朝食を食べる。

「おかわり!」

「はいはい」

と、子供にご飯を装うお母さんのようなやり取りもこれで三回目。

こいつ、めちゃくちゃ食べる。

そして、朝食を食べ終わると、またごろん、と畳の上で寝転がる。

俺は食器を下げて皿を洗う。そして、洗い終えてお茶を飲む。一応、柊木にもお茶をだした。

「おい、柊木」

「なによ?」

「お前、いつまで俺の家にいるつもりだよ?絶対に早く家に帰った方がいいと思うぞ」

「は?そんなのあんたに言われる筋合いはない」

… 可愛くねぇ女だ。人がわざわざ心配してやってるのに朝食まで出してやったっていうのに、この女は。

「まぁ、確かにいつまでもここにいても悪いかもね。出ていくわ」

そう言うと、柊木は立ち上がり玄関の方へと歩いていく。

「お、おい!お前、行く宛とかあるのかよ?」

「ないわよ、そんなもん。これから見つけるんでしょうが」

柊木は靴を履くと扉を開けて出て行った。

俺にはよくわからなかったが、なぜか追いかけた方がいい。そんな衝動のようなものにかられ、俺は柊木の後を追いかけた。


街まで追いかけたが、柊木を見つけることはできなかった。

はぁ、と俺はため息をつく。

これから柊木を探し続けるのか、それともたまの日曜をのんびり過ごすか。

俺は日曜を満喫することを決めた。

俺は街中をぶらりぶらりと、歩き回った。何か新しい素敵な出会いがあるんじゃないか、そう思ってぶらりぶらりと歩き回った。

せっかくなので、夕食の買い物だけ済ませておこうと、スーパーに立ち寄るとどこかで見覚えのある奴がいた。

「…柊木?」

柊木は試食コーナーのウインナーやらなんやらと次々と試食していた。

試食とは呼べないくらいに大量に食べていたが。

俺は、ため息を吐いた。

そして、柊木に接近する。

「おい、何してんだ?」

柊木は俺の方へ振り向くと、恥ずかしがるように頬を赤く染めてすぐさま逃げ出した。

俺は柊木を追いかけて走り出した。

今度は逃さない、その思いで逃げ足の速い柊木に食らいついて行く。

しかし、それでも柊木は速い。それでも食らいつく。

すると、ぴたりと柊木は止まった。

遅れてやってきた俺は手を膝につけて、荒れた呼吸をする。

「なんなのよあんた、さっきからくっついてきて、ストーカーなの?」

「んなわけあるかぁ!こっちはわざわざ心配してやってるのに。大体、行く宛てもない家出少女がふらふらしてたらやべぇに決まってんだろうが。もし、昨日の追っ手に捕まったらどうすんだよ」

「いらないわよ、そんな心配。とにかくもう付きまとわないで」

「お、おい!」


その後、俺は柊木を完全に見失い、家に帰ることにした。

朝とは違ってゆっくりと食材が入ったビニール袋を持って家まで歩いていた。

オレンジ色に染まる空、かぁかぁ、と鳴り響くカラスの鳴き声。家の前の公園に着くと、この辺では見慣れない格好をした老人がいた。

綺麗な黒のスーツ姿のその老人は俺を見て一礼をする。

俺も会釈して、家に帰ろうとする。

「あの、すみません。ここのご近所に住まわれてる方でございましょうか?」

老人が俺に質問をする。

「はい、そうですけど」

「実はですね、人探しをしておりましてこの写真の方を見てはいないでしょうか?昨晩、この辺で見かけたとの情報を耳にしたのですが…ご存知でしょうか?」

写真を受け取ると、ドレスに身を包んだとても可愛らしい女性だった、ただどこかで見覚えのある感じがした。

「あの…すいません、ちなみにこの写真の方の名前って」

「柊木神楽でございます」

俺は驚いた。これが?柊木?嘘だろ?写真と現実が全然違う。まるで別人だ。

「あの、失礼ですがあなたは柊木さんとどのような関係で?」

「これは、申し遅れました。私、柊木家で執事を務めさせております一条と申します」

執事!?柊木って金持ちだったのか!?俺は頭の中が軽くパニックを起こしていた。

「あの、その、一条さん。どうして柊木さんのことを探しているんですか?」

「残念ですが、その先はプライベートな話になってしまいますので、お答えできません」

「あの、もしかして、家出とか?」

老人は俺をきりっとした目線で睨む。

「あなた、どこでそれを耳にしました?」

ぶるぶる、と老人の胸ポケットから何かが鳴っていた。

老人はそれを取り出した。トランシーバーみたいなものだろうか。

「なんとしても、探し出せ。クラスメイトの人間の家の近くに張り付かせるか、電話して聴き込め」

と、老人は言う。もしかすると、柊木の奴、結構やばいんじゃなかろうか。

老人はトランシーバーを胸ポケットにしまうと、俺に質問した。

「再度、お聞きしますがこの写真の方をご存知でしょうか?」

「…いえ、知らないです」



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