第2話はじまり
目が覚めると、見知らぬ天井があった。無機質な感じをした真っ白な天井がそこにはあった。
「お目覚めですかな」
声の聞こえる方に視線を移すと、一人の長い髭を生やしたまるでヤクザのようなオヤジがいた。
俺が今まで出会ってきた人の中でこんなに怖い顔をした人とは出会ったこともないし、関わったこともない。
そんな強面男が目覚めたら横にいるというのはどういうシチュエーションなのだろう。
状況をうまく飲み込めない俺は一つ、強面のおじさんに尋ねた。
「すみません、ここはどこですか?」
「病院ですよ、あなたは今朝ウチの車にぶつかって交通事故に遭ったんですよ。こちらとしては、本当に申し訳ないことをした。しかし、医者によると夕方には退院できるそうですから、ご安心ください」
「は、はぁ…」
なんだか、相手に全てのペースを握られてるような気がする。
というか、俺、交通事故で入院してんの?ってことは、俺、進級初日から欠席ってことか?まじかよ、勘弁してくれよ。
「私はそろそろ行かなくてはいけないので、そろそろ行きます。何かあったらこちらまでご連絡ください」
そう言われ、強面のおじさんから連絡先が書かれた紙をもらった。
そして、強面のおじさんは病室から出て行き、俺は一人になった。
春休み明け登校初日に俺は交通事故に遭った。幸い大した怪我ではなかったおかげで退院し、家に帰ることができた。
そして、迎えた春休み明け登校二日目。とはいうものの、俺にとっては今日が春休み明け登校初日なのである。
昨日のように寝坊をするわけでもなく、むしろ少し早いんじゃないかというくらいに早く家を出た。
今度は交通事故に遭わないように。
早めに登校すると、俺は一つ大事なことを思い出す。
「そういえば、俺って何組?」
職員室に行き、事情を話してクラスを教えてもらった。
どうやら、俺の新クラスは二年七組らしい。
3階まで上がって、一番端っこの教室。そこが俺の新しいクラスだ。少し緊張気味に教室に入ると、スポーツ刈りの眼鏡をかけた男がいた。
「よぉ〜、仁。久しぶりじゃん、っていうかお前車に轢かれたらしいらしいじゃん。大丈夫か?記憶とか失ってないか?」
眼鏡をかけた男の名前は北条太郎。
一応、幼稚園の頃からの幼馴染で、去年も同じクラスだった男である。
お調子者で、いろいろとダメなやつである。
「まぁな、ところでなんでお前がこのクラスにいるんだよ?」
「ふっふっふっ、早速その話題に触れてくれたか。実はだな、なんとなんと何を隠そうこの北条太郎は去年と引き続き今年もお前と同じクラスだからだ!」
「はいはい、いちいちそんなオーバーに言わなくてもいいから」
北条は、にやにやしながら俺にひっつく。
「そんなこと言うなよ〜、相棒だろ〜?親友だろ〜、幼馴染だろ〜?」
こういうところなんだよなぁ、こいつの面倒なところって。俺はひっつく北条を離そうとするもそれでも北条はひっつこうとする。こいつはホモなのか?
「それにお前にいい知らせがあるぜ。なんとな、このクラスには転校生がいるんだよ、それも女子。しかも結構可愛いって噂だぜ」
「へぇ、で、どうだったの?昨日きたんじゃないの?」
「それがよ、昨日はなんだか大事な用事があったらしくてな、来てないんだよ。だから、俺はその美少女早く会いたいんだ。早くこの俺の渇いた瞳に美少女を見て潤いを与えて欲しいんだよ。わかるだろう?この気持ち」
「いや、全然わかんねぇよ」
北条は、昔から美少女という単語に目がない男である。街中を歩いてら途中に美少女を見かければ、どんな状況だろうと話しかける男である。
「大神くん!大丈夫?交通事故に遭ったって聞いたけど?怪我とかしてない?」
俺にこうして真摯に聞いてくれたのは、東山結衣である。
黒髪ショートヘアーで、パチリと見開いた目、おしとやかでとても優しい女の子だ。なぜ、彼氏がいないのか不思議なくらいに可愛い。
「まぁな、大丈夫だよ」
「そっかぁ、よかった」
「今年は同じクラスなんだな」
「そうだね、一年間よろしくね」
東山の輝く笑顔に思わずきゅんと来てしまう。というか、可愛い。
教室の扉がガラリと開き、先生が入って来た。
「みんなー、席について朝のHR始めるわよ」
やや茶髪かかったそこそこ美人の女性、結婚という単語に目がない今年で三十路を迎える二年七組の担任、高坂綾乃先生。
去年に引き続き、虎丸の担任になる。
「今日はみなさんにご報告があります」
北条がいきなり席から立ち上がる。
「先生!ついに婚約者ができたんですか?」
「そうですね…できるものなら自分の報告をしたいところですけど…」
高坂先生は、強く拳を握りしめて、結婚への思いを押し殺す。
「残念ですけど今日は違います。今日はこのクラスに新しい仲間となる子を紹介します」
はいってきてー、と高坂先生が言うと教室の前扉がガラリと開かれた。
教室に入って来たのは、黒髪ロングの女の子。背丈は小さく、まるで一言で例えるなら、リスのような感じだった。童顔じみつつも、とても整った顔立ちをしているその女の子は、一言で言うならば、ーーそう。
「美少女だー!!!!」
北条がたまらず席から立ち上がる。
それにつられてクラスの生徒たちもまるでお祭り騒ぎだ。
それが北条のように下心満載の意味なのか、そうでないのかとはあえて触れない。
「それでは、自己紹介をお願いしますね」
高坂先生がそう言うと、女の子はチョークで名前を黒板に書き出した。
書き終えると、チョークを置きこちらを振り向く。
「柊木神楽です。これから一年間よろしくお願いします」
丁寧にぺこりとお辞儀をして、柊木は自己紹介を済ませた。
柊木を祝福するかのようにクラスは盛り上がり、お祭りムードはまだ終わらない。
静かにして、と高坂先生は言うが、スイッチが入ってしまった生徒たちはなかなか静かにはならない。
たまらず、先生もため息をついた。
「それじゃあ、柊木さんはあそこの席に座ってもらえるかしら」
「はい」
柊木は、真ん中の列後ろから三番目と言うほぼクラスの中心に位置する席に座った。
俺はその席から右斜め前の席に位置する。転校生が近くにいると言うシチュエーションに興奮する近くの生徒たちはすぐさま柊木に話しかける。
俺も交通事故に遭ったからあれくらい話しかけられてもいいのでは、とどうでもいいことを思いつつ、朝のHRを終えた。
朝のHR後、柊木の周辺にはたくさんの人でいっぱいだった。
どこから来たの?とか、好きなアーティストは?とか、その他もろもろ質問責めにあっていた。
無論、その中心には北条という人間もいるわけだが。
たくさんの質問責めにしっかりと答えている柊木は大変そうだが、先ほどの自己紹介の時よりも表情も柔らかく、緊張が解けた様子だった。
そして、一限目を知らせるチャイムが鳴る。
柊木の周辺に集っていた生徒たちは自分の席に着席し、授業を受ける姿勢に変わった。
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