はるこい

@10071999

第1話ハル

四月五日、大神仁はまだ部屋で眠っていた。四月とはいえ、まだ少し寒い春先の朝は、春休み中夜更かしをしていた祐一にとっては、辛いものであった。

ああ、なんでこんな早く起きなきゃいけないのだろう。もう少し寝よう。

もう少し、もう少し、と思いつつちらりと目覚まし時計を見やると、時刻は八時近くだった。

「やっば、遅刻する!」

飛び上がるように起き上がり、急いで制服に着替え、何も入っていないスクールバッグを片手に家を出た。

ここまでの所要時間は五分。学校まで自転車で全力疾走すればギリギリ間に合うかどうかといったところ。

春休み明け初日から遅刻は避けようとわざわざ10時に眠ったにもかかわらず、起きることができなかった。

やはり、春先の睡魔には勝てない。

浜田町の桜は少し遅れていつも満開する。

本来であれば卒業シーズンに咲き誇る桜が四月の入学式の時期にスケジュールを合わせているかのように重なるのだ。高校までの一本道は桜の木が生えていて、校門までの道が全てピンク色に染まる。

こんな綺麗な道をゆっくりと見ながら登校したいところだが、残念ながらそんな余裕はない。とにかく自転車をこぐ全力で。残り五十メートルくらいのところで時計を見る。時刻は、八時二十分。なんとか五分前に到着した。五分もあればゆっくりでも大丈夫だろう。

荒れた呼吸を歩きながら徐々に回復していく。こんなに全力で走ったのはいつぶりだろう。

あと少しで校門に着く。やれやれ、初日からこんなに疲れるなんてついてないと思った。少しスピードを出しすぎたな、少しブレーキをかけよう。ぐっとブレーキをかけようとするがスピードは落ちない。どんなに力を入れてもブレーキはかからない。

「もしかして…壊れてる?」

このままいくと、校門の前の横断歩道で事故になるかもしれない。

下り坂で得たスピードを落とさずそのまま平地を突っ走る。

そして、校門の一歩手前に設置された横断歩道までたどり着いた。

左を見ると黒い車がなかなかのスピードで走っている。

こうなれば、車が来る前に校門を突っ切るしかない。ブレーキがきかない壊れた自転車に身を任せ、あとは神に託した。

横断歩道に入った瞬間、まるで野球ボールがバットに当たる瞬間のように俺は車に激突した。そして、そのまま体だけ吹っ飛ばされアスファルトに打ち付けられた。

ーー 春休み初日から本当についてないと思う。

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