不良生とイケメン

 俺の学校での立ち位置は『不良生』と言うものだ。『優等生』とは全く逆の立ち位置に位置するこの俺であるが、ぶっちゃけ別に今の立ち位置に特に不満などは無かったりする。

 それどころか気に入っていると言ってもいい。


 その理由を語る前に俺の趣味について語ろう、まず特筆すべきは俺が生粋のオタクで有ると言うこと、そんじゃそこらのオタクとはわけが違う、それこそアニメキャラに嫁さんを作るほどにはオタクなのである。


 オタク、と言っても何種類もあるが、俺のジャンルは主にラノベとアニメ、その二種類である。

 何が好きかの質問にはなるべく答えたくは無い、後が怖いので。


 ともかく、だ。話は戻るが、結論から言うと。

 俺はとあるラノベ主人公に憧れている、見た目のせいでヤンキー扱い、そしてなにかと便利な難聴キャラ。周りには美少女二人と幼女と後輩、そして妹に舎弟。


 例によって何かは言えないが、とにかく俺はその主人公に憧れていたのだ、だから別に友達がいなくとも俺は大丈夫なのである。

 だっていずれこの俺にも可愛いクラスメートや、幼女、そして後輩なんかがいずれやってくるのだと信じているのだから、


 とは言ったものの……。


『……ほらアイツ、まじムカつくよなぁ』『バカ、聞こえるって!!』『どうせなにもできねって、アイツだし』


 現実の俺はビビられるどころか舐められている、校内を歩けばバカにされ、たまに話しかけてきたかと思えばただの煽り。


 逆に言わせて貰えば何もできないのは俺ではなく俺をバカにするその他大勢である、群がることでしか自尊心を保てない奴らの言葉など足元で喚く虫の鳴き声に等しい。

 ちなみにナリヤンとは『なりきりヤンキー』の略であるそうだ、作った奴は死ねばいい。


 現在昼休みの中、俺はただそんなことばかり考えていた。


 この世の中は極めて腐っている、一度ついたイメージと言うのはなかなか消えやしない、人の噂もなんとやらとかよく聞くが、俺が数えた限りでは今日で凡そ一年ほどだ、諺などなんの役にもたちやしない。

 そんな歪みまくった俺の唯一の安らげる空間は二つある、それは自宅と、


「お邪魔しまーすっと」

「お、会長の弟くん、いらっしゃい」


 宿敵である姉のアジト、『生徒会室』である。


 現在生徒会室には一人しかいない、そしてその一人こそが俺の唯一の友達たる人物。

『櫻井奏』生徒会副会長である彼は俺の理解者であり、友達だ。


「奏さん久しぶりです」

「相変わらず浮かない顔だね、まぁ、それも仕方無いとは思うけれど」


 一つ上の三年生である奏さんはこの俺にとてもよくしてくれる、もはやお兄ちゃん的存在、奏さんにも姉がいるらしくその共通点から俺とよく話も合う。


「もう諦めてますよ……、と言うか、姉ちゃんはいないんですか?」


 昼休みは大体生徒会室にいる我が姉はここにいない、まぁ別にいないのならいない方が俺にとっては好都合なのだが。


「あぁ、会長なら告白の返事に行ったよ? いやしかし、まだそんなチャレンジャーがいたなんてね」


 そう言って奏さんは苦笑いする、それについては俺も同意見であるが、何故だか気になって仕方がない。

 と、言うのも。大概ラノベキャラの生徒会長というのは告白の返事をエゲツない言葉で攻撃する、と言うのが定番だが、うちの姉もやはりそうなのだろうか? 何て疑問が湧いたからだ。


「……あれ? タクト君会長の事気になる?」

「え、いや、……まぁ、少しは」


 本音を言うとメチャクチャ気になる。なんせ俺は生まれてこのかた告白イベントと言うものに遭遇したことが無い、生の告白をちょっと見てみたい気持ちが割と強めだ。


「よし、俺も仕事終わったからこっそり見にいこうか?」

「ま、マジスカ?」

「まぁ、なんか面白そうだからね」


 その時の奏さんは少し悪いことを考えているような顔だった。

 しかしそれに賛成してしまう俺も評判どうり悪いやつなのだが、

 って、自分で言っちゃうのかよ。



 ********



 ついた先は告白する場所ランキング上位である屋上だった、最初は何処にいるのか不明だったが、校内に広がる『生徒会長が屋上にいるらしい』と言う噂のお陰で幸いすぐに見つかったのだ。


 しかし今は昼休み、屋上は昼食人気スポットのため姉の他にも生徒達が大勢いる、そんな生徒達はいきなりの生徒会長出現に驚いているのか皆表情を強張らせていた。


 かくいう俺と奏さんは屋上入り口付近でそんな姉の様子を盗み見る。どうやら相手はまだ来ていない様子で、姉は無表情で屋上の真ん中で仁王立ちしていた。


 その様子を見ていると姉が勇者を待ち構える魔王に見えてくる、けれどそれもあながち間違いではないだろう、恐らくこれからくるであろう勇者は魔王である姉に返り討ちにされるのだから。


「ゴメン、ちょっとそこをどけてくれるかな?」


 肩を叩かれて俺は声の持ち主へと振り返る、


「あ、すいませ……」


 そして俺は絶句した、なんせソイツは有り得ない程美少年だったから。スラリとした体躯に切れ長の瞳、鼻筋から口元まで完璧すぎる、乙女ゲーに出てくるほどの男だった。


「あ、君は会長の弟さんだね? なんだか噂に聞く感じとは全く逆に見えるけど」

「う、うす。……あの、どうぞ」

「うん、ありがとう」


 そんなあっけない会話で俺は感動し、そして興奮した。こいつならあの魔王を討伐できるのでは? と。


「奏さん、あの人って、


 ……どうかしました?」


 俺は隣にいる奏さんに今の人物について聞こうとしたところ


「……ジュルリ」


 何故かわからないがヨダレを垂らしていた。


「あ、ゴメン。それで、なんだっけ?」

「……あ、あの人って、誰なんですか?」

「あぁ、彼は転校生さ、名前は確か『工藤薫君』だったっけな?」


 工藤薫、それが魔王に立ち向かわんとする勇者の名前らしい。俺は溢れる疑問を全力で素知らぬふりをしながら、屋上入り口の隙間から二人のやりとりを覗く。


 そして目にしたのは、


「あ、貴方の告白は、その……嬉しいですけど。お、お断……」

「僕は君が好きだ」


 イケメン工藤薫はそう言って姉に顎クイをかます、周りのギャラリーはその様子に釘付けだった。それも仕方ない、なんせあのイケメンが有名人である姉に顎クイしているのだから。

 かくいう俺もその光景に目が離せずにいる。


 そして隣の奏さんも……。


「あぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 かつての奏さんとは思えない声を響かせていた。まるで悪魔の断末魔のようだとここに記しておく。

 しかし、そんなことよりも一番驚いたのは。


「だ、だめよ……私は貴方とは……」

「僕を見て?」

「そ、そんな事……」


 姉が頬を赤く染めていた。


 もはやなにかの劇を見せられている気分だった。

 と言うか姉のこんな姿を俺は見たくなかった、仮にもブラコンなんだからその程度のイケメンに負けるなよ……。


「って、何言ってんだか……」

「か、会長と工藤君が……」

「むむ、これは由々しき自体だな?」


 気がつけば覗き見メンバーが一人増えていたことにも気がつかないほど俺は困惑していたのだった。


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