俺の日常は……

闘争

 真夜中の自室、カーテンを開け放った窓の外から差し込む月の光に照らされながら、コントローラーを握り、テレビ画面の前でにやけズラを晒す少年、俺である。


『にいにー、私と一緒に楽しいこと、しよ?』

「あぁ、にいちゃんも妹と楽しいこと、したいなぁー」


 画面の中で頬を赤く染める我が妹、そしてそれに犯罪チックな顔をしながら微笑みかける俺、大変カオスな展開をお届けしております。


「……あー妹欲しい」


 ボソリと溢れる俺の本音、俺の家庭には妹など存在しない、そして妹が欲しいと言ったら何故か姉に睨まれる。

 妹ラブな俺に対して、アンチ妹である我が姉、熾烈な戦いの先に待っていた結末、それは……


『いや、うちのお父さん勃たないから』

 と言う母の言葉、因みに母の隣で大好物である芋焼酎を口に含んでいた父の顔は忘れられない。

『畑は良くても種がないとねぇ……』

 それでもなお、母の追撃は止まらない。そして父の顔の歪みもだ。

 だいぶ話が逸れてしまったが、俺は妹が好きだ、何なら姉なんかいらないから妹が欲しいくらいに。


 しかしそれは叶わない、何故なら種が品切れしておられるからだ、入荷の予定は無いに等しい、と言うか無い。

 だから俺は有り余る妹欲を妹モノのゲームを使って発散しているのだ。


 それでは何故真夜中なのか、その答えは先程言った通り、


「……こんな出来のいい姉がいるのも関わらず、妹モノのギャルゲーをやるとはいい度胸ね?」


 うちの姉は生粋のアンチ妹であるからだ。


「…………」


 この時俺は恐怖した、何せ今の姉の顔は仏のように優しいお顔であられたからだ、そして俺は覚悟した、この後のダメージを。


「『い、痛くしないでね?』」


 ゲーム音声と俺のセリフが一致する、それが姉の怒りを最大限まで引き上げ、姉はドロップキックをお見舞いした、俺に、否、俺ごとテレビ画面に。


「そんなに妹が欲しいなら私にも考えがあるわ!!」


 そう言い残し、姉は俺の部屋を飛び出して行った、倒れたままの俺とテレビ画面を残して。


 今日両親共帰りが遅くて命拾いをした俺だった。



 ******



 んでもって数分後、自室に姉が戻って来た。

 ……何故か中学時代のセーラー服を纏って。


「お、お兄ちゃん、私と……楽しいこと、しよ?」

「や、止めろ、俺の妹を汚すな!!」

「何行ってるの? お兄ちゃんの妹ならここにいるじゃない、もー、お兄のバカ」


 勘違いしてはいけない、目の前のこいつはまごう事無き姉であり、決して俺の求める妹などでは無いことを、しかし、一瞬でも気を緩めると俺の脳内は妹に洗脳されてしまいそうになる。


 ……負けるな俺、


「そ、そんなことしても俺は姉ちゃんになびかんぞ!」

「姉ちゃん? 誰それ、私はお兄の大好きな妹だよ?」

「成る程……」


 さて、ここで俺は名案を思いついた。全く、自分で自分が恐ろしく感じてしまう。簡単な話である、奴が中学の制服を来て年齢そのものを下げたのであればこちらもその上を行くまで。


「我が妹よ、しばし部屋から出てくれないか?」

「いや! 出て行ったらお兄は入れてくれないもん」

「安心しろ、お兄ちゃんは嘘をつかない」

「お、お兄!!」


 まぁ、もしも俺がのままだったらな。



 *******



 素直に出て行ったアホな妹、いや、姉を部屋の外に出して、俺はクローゼットの奥からあるものを引っ張り出す、それは誰もが一度は身につけたことがある代物、


 そいつを装着した俺は部屋の外の姉に声をかける、裏声で、


「お、おねーちゃん、入っていいよー」

「だから今の私はいもう……」


 姉は俺の頭の上に乗っかる黄色の帽子を見つめて絶句する。さぁ、ひれ伏せ、今の俺は小学生だ!!


「や、やるわね、……なら私だって!」


 それからはもう泥仕合いだった、小学生から幼稚園児となり、最後には赤ちゃんと化していた、誰がこんな結末を望んだのだろうか、最初はただ隠れて妹ゲームに勤しんでいただけだと言うのに、それが今ではお互いバブーバブー言いながら床を転げ回る始末だ、もうお互いに気づいてはいる、


 この争いに終わりがないことを、

 だがお互いの意地がぶつかり合い、今ではいい大人がこんなことをしている、泣きたい。


 だれか止めてくれ!!


 そう心の中で叫んだ時、救世主は現れた。


「二人揃って赤ちゃんごっことか

 ……スクープだよね☆」


 俺たちの奇行を止めたのは、カシャリ、と言う死を告げるシャッターの音だった。


 あぁ、こうなることは何となくわかっていたさ、


 だって、


『君たち二人を自由に撮影できる権利を代償として頂こう』


 それが春日井マドカという悪魔が出した、「フィギュアになってもらう」と言う条件の詳細なのだから。


「姉ちゃん……」

「何かしら……」

「これのどこがそれぐらいなのか説明して欲しい」


 一体このプレイのどこがそれぐらいだというのだろうか、俺は先程まで春日井の居た枝の上を睨みながらため息を付いた。


 ついでに先程派手に壊れたテレビ画面の言い訳に付いても考えながら。



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