第85日「せんぱい、今どこにいますか?」
# # #
時計が0時を過ぎて、テスト前最後の日曜日になった。
俺は、悩んでいた。
「うーん……」
先日公開された、期末試験の時間割を見ながら考える。
今日、出かける余裕があるかどうかを。
ううむ。火・水・木・金って連続だからなあ、あんまり余裕ないんだよなあ。
明日は一応午後まで授業あるから、あんまり勉強できないし。その後はもうテスト本番だし。
ううむ。
……でも、なあ。
プレゼント、
色々歩き回って悩んだ挙句、結局、昨日には決めることができなかった。
どれも、何か「しっくり」来ないのだ。
今からAmazonで頼むのもありといえばありだけれど、ここまでコストをかけておいて撤退するのは、何か悔しい。なるほど、これがコンコルド効果か。
よし。
さっさと決めて帰ってこよう。目標は昼前。
どうせ多少は遊んじゃうんだし、ちょっとは別のことした方が集中できると思う。うん、きっと。俺は俺の集中力を信じてる。
そうと決まれば、とっとと寝ないとな。まったく、週末なのに2日連続で朝早く起きるだなんて、昔の俺なら信じられない。
* * *
アラームの音で、目がさめました。
カーテンをあけて、んんーと伸びをします。朝ですね。
今日は……なにしましょうか。試験も近いので予定を入れていないのですけれど、あんまり勉強する気分ではないです。
まはるん♪:おはようございます、せんぱい
とりあえず、今日は……じゃない、今日もちょっと早めに、ラインを送ってみましょう。
テスト前だとあせって、早起きして勉強したりするのでしょうか。それとも普段どおりのねぼすけさんなんでしょうか。
井口慶太 :おう、おはよう
朝ごはん(今日はパンです)を食べ終えたころ、せんぱいからの返事がきました。えっ。まだ10時ですよ。
まはるん♪:今日も早いですね
井口慶太 :まあな
まはるん♪:今なにしてるんですか?
どうせ、というか、さすがに「勉強」だと思うのですけれど。
と、返信が来ません。なにか引き当てちゃったような気がします。
まはるん♪:まさか
まはるん♪:また出かけてたりします?
既読がつきました。
井口慶太 :[スタンプを送信しました]
謎なスタンプが送られてきました。
へんなキャラクターがへんなポーズをとっています。それ以外に説明しようがないスタンプです。こういうの、ほんと、どこで見つけてくるんでしょうか。
まはるん♪:……はい、わかりました。
うーん、どうしましょう。
きのう、結局、何のために出かけていたのかは教えてくれなかったんですよね。まさか、うどんを食べるだけに出かけたわけないでしょうし。
まあ、だいたい察しはついてるんでしょうけどねえ。ラインで当てちゃうのも、反応がじかに見れなくてもったいない気がするのでやめます。
とはいえ。
いくらわたしのためといっても、テスト勉強する時間を削ってまでっていうのは、ちょっと申し訳ない気がします。さんざん連れ回しておいて、今さらですけれど、今は試験直前ですし。少しは気を遣いたいです。
まはるん♪:どうせ外出てるなら、わたしも合流していいですか?
きっと、昨日はぴったりなものを見つけられなかったのでしょう。
井口慶太 :は?
まはるん♪:昨日会ってないので。行きます
井口慶太 :いや?あの?
井口慶太 :どこいるか教えねえからな
まさか、わたしが一緒にいる時にわたしのためのものを買うわけはないでしょうから。こう言っておけば、きっと、わたしが行くまでに買うことでしょう。
悩みすぎても意味ないですし、ある程度考えたら、あとはカンで決めればいいんですよ。
まはるん♪:へー
まはるん♪:せんぱい、『今日の一問』です
井口慶太 :あう……
「あう……」って、なんかかわいいですね。
まあ、かわいいからって、考えを改める気はないですけれど。
まはるん♪:せんぱい、今どこにいますか?
返ってきたのは、やっぱり思ったとおり、商業施設の名前でした。
まはるん♪:お昼ごはん、いっしょにたべましょう
まはるん♪:ブランチ、くらいの時間になりそうですが
まはるん♪:いきますね?
井口慶太 :嫌だ、って言ったら?
まはるん♪:いきますね!
# # #
こいつ、どこまで察してるんだろうな。
根掘り葉掘り聞いてこないってことは、わかってる……んだよなあ。きっと。後輩ちゃんの理解力で、わかってないってことはないと思う。
それなのに、俺と会おうって言ってくるの、意地悪だなあ。後輩ちゃんと合流してから買うわけにはいかないし、約束させられてしまった以上、合流しないわけにはいかないし。帰ってからAmazonで注文するのだったら、今日わざわざ出てきた意味はなんだったんだ、ということになるし。
もう、いいや。
目星をつけたやつで一番良さそうなやつを、とっとと買ってしまおう。そしたら昼食べてちゃっちゃと帰れるし。午後はテスト勉強ができる。やっぱり、数学をざーっと解き直したい。
昼飯は、どこで食べようか。
昨日俺がうどんを食べたことは知られているから、あいつはうどん以外を期待してくるだろう。あえてぶつけてみるのも、面白いかもしれない。
* * *
「こんにちは、せんぱい」
待ち合わせ場所に指定されたのは、ファミレスの前でした。まあいいですよ、せんぱいといっしょなら、どこでも。
「よく来たな、ほんとに」
「いいじゃないですか別に」
「悪いとは言ってない」
わたしをちらりと見ると、せんぱいはショッパーを肩の上にくるんと回して、歩き始めます。
「え? あの、せんぱい、どこ行くんですか?」
「どこって……ファミレスは混んでるし」
たしかに、今は日曜日のお昼どきです。名前を書いて待たなければならないような時間帯ではありますけれど。
「じゃあちょうどいいや。『今日の一問』」
「なんですか?」
「後輩ちゃんは、どこに行きたい?」
がっつりしたものは、ちょっと避けたい気分です。
「パンケーキやさん、とか」
「あるのか」
「いや、さすがにありますよ」
「まあ、行かないけど」
思わず、ずっこけました。
「人に希望聞いておいて行かないんですか」
「おう。帰って勉強しないといけないし。今から人気店なんて行ってたら日が暮れるわ」
それは、確かに、そうかもしれません。
「いじわるですね」
おもむろに立ち止まると、せんぱいはこちらをふり返って、ひとこと、言い放ちました。
「入るぞ」
うどん屋でした。丸亀です。
あの。うどんだけはないかなーって思ってたんですけれど。なぜうどん。
「どうしてうどんやさんなんですか」
「嫌か?」
「いや、まではいきませんけど」
「そっかー」
そのまま、せんぱいは階段に吸い込まれていきます。
あわてて、わたしも後を追いかけました。
「すいませーん、かけ中をひとつ」
「あ、わたしはかけ小でお願いします」
せんぱいと同じメニューを、ひとつ小さなサイズでたのみました。考える時間がなかっただけですけど。
せんぱいは天ぷらも取っていました。やっぱり男の人はよく食べますねー。
「いただきます」
「いただきます」
テーブル席に向かい合って座って、手を合わせました。
「せんぱい、そういえば、きのうもうどんでしたよね」
「それが?」
「いやー、あきないのかなって」
わたしが聞くと、せんぱいは黙って別皿の天ぷらをうどんの上に載せました。そして、ドヤ顔で、こんなことを言います。
「これが本当の『うどんの天丼』」
わたしは無言のまま、うどんをすすりました。
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