第82日「誕生日のプレゼント、どんなのがいい?」
# # #
後輩ちゃんの誕生日が、迫っている。
気がついたというか、気がつかされたというか、気づくように仕向けられたというか。
まあとにかく、俺の意識に上るようにはなったわけだ。今日は6日で、後輩ちゃんが16歳になるのが12日。
実際祝うのは……テスト終わってからになるから、週末だよなあ。もうあの週末は実質冬休みみたいなもんだけど。
あーでも、テスト期間中でも、プレゼント渡すくらいならぜんぜんできるか。
と、ここまで考えて、ひとつ考えなければいけないことがあることに気がついた。
そう。
プレゼント。
誕生日といえば、やっぱり誕生日プレゼントだ。
ギフト。贈り物。貢物……は違うか。とにかく、後輩ちゃんが無事に16歳まで育ったことをお祝いするような、生誕の日にふさわしいようなプレゼントを贈るべきところだろう。
……ちなみに、俺が誕生日に彼女からもらったプレゼント(コンタクトの付け外しするやつ)は、ありがたく、週末ごとに使わせてもらっている。そんな感じで、彼女が永く使えるやつがいいなー、とかも思ったりした。
さて、何がいいのか。
タブレットを出してきて、Googleの画面を表示した。「高校生 後輩 誕生日 プレゼント」とか、適当にキーワードを入力して、出てきた画面をぼんやり眺める。
「コスメ」ほう。「ハンカチ」なるほど。「イヤホン」そういうのもありか。「文房具」ふむふむ。
そして、気がついた。アマゾンのリンクが多い。みんなアフィリエイト目当てかー。そうかー。そりゃあ無料で親身に情報をくれるような聖人君子ばかりじゃないもんな。
うーん。
なかなか、難しい。そもそもどういう系にするか、というところから難しい。
ジャンルを決めてしまえれば、後は機能なり見た目なりで絞っていけると思うんだけど。
悩みつつ色々な記事を読んで、気がついたら、時計の長針が一周していた。そろそろ寝る時間、というか、後輩ちゃんから寝る前のLINEが飛んでくる時間だ。仕方ない。寝支度をしよう。
* * *
新しい朝です。
希望の朝、かはわかりませんけれど。
とにかく、今日もせんぱいは眠そうな顔をして、いつもの時刻にやってきました。
「おはようございまーす」
「おう、おはよう」
まずは、あいさつをちゃんとします。親しき仲にもなんとやら、ですね。
ところで、わたしはせんぱいと「親しい仲」になれているのでしょうか?
と、せんぱいの視線が、あいさつしてすぐにそのままちょっとそれて、わたしの顔より上を向いていることに気がつきました。
「せんぱい?」
ほんの少しだけ首が傾いて、眉間にしわがよった気がしました。
「わたしの頭に何かついてますか?」
なにを考えてるんでしょうね、このせんぱい。
わたしの髪の毛が変とか、なにか変なものがくっついてるとかだったら、そのまま槍玉にあげて笑ってくると思うんですよ。
というわけで、わたしから軽く探りを入れます。
「お前ついてないって確信しつつそういうこと言うのやめような?」
頭の方に手すらやらないのは、失敗でした。
これだと、探りを入れるというか、ふつうに聞いてるのと同じになっちゃいます。
「だって出る前にちゃんとセットしてますもん。女の子ですから」
しかたないので、あきらめつつ、軌道修正をします。
「はいはい」
「で、どうしたんですか、せんぱい。考えごとですか?」
せんぱいは、うへえ、とちょっと苦い表情を浮かべます。
えー、考えごとの内容、そんなに聞かれたくないんでしょうか。
「うん、まあ」
「へー」
これは、ただでは言ってくれなさそうな感じです。
「一問」の使いどころかもしれませんね。
こんなことをだらりと話しているうちに、電車が駅にやってきました。
わたしは、すぐ後ろのせんぱいをちらっと振り返ってから、いつものように、電車に乗りこみます。
# # #
いつもの場所にすっぽりと収まった後輩ちゃんが、こちらに目を向ける。
「それじゃあせんぱい、『今日の一問』です」
「おう」
先手を打たれてしまった。こちらに隙を与えてくれない。
「さっき、ホームで、何についてかんがえてたんですか?」
何について、かあ。
「どんなこと」だったらまだ逃げようがあったのかもしれないけれど、そのあたり本当に、彼女は抜け目がないと思う。
「あー、っとなあ」
「はい。なんですか?」
どう答えるのがいいのか、ちょっとだけ考える。
よし。
「質問に答えつつ『今日の一問』するわ」
「は? はい。どうぞ?」
もうこうなったら、直接聞いちゃった方が、お互いハッピーになれる気がした。
若干混乱している後輩ちゃんに、聞く。
「誕生日のプレゼント、どんなのがいい?」
「あー、そんなくだらないことだったんですね」
俺が言うや否や、後輩ちゃんは笑い始めた。
「深刻な顔して、いったいどんなこと聞かれちゃうのかと思いましたよ」
「は? 俺そんな顔してた?」
「顔こわばってましたよ」
後輩ちゃんが細い人差し指を伸ばして、俺の頬をつっつく。
「ほら、スマイルスマイル」
「何するんだ」
「別に? かわいい後輩がほっぺつっついてるんですよ? 笑うくらいしたって――」
気付いたら、笑顔になっていた。
こほん、と咳払いをひとつして、後輩ちゃんが続ける。
「うん、いいです。でですね、プレゼントのリクエストなんですけど」
「ああ」
「なんでもいいです」
笑顔を浮かべて、こんなことを言ってきやがった。
「丸投げかい……」
「わたしだって自分で選んだんですから、せんぱいも自力で選んでくださいね?」
正論すぎる。
「うぐ……」
俺は何も言い返せず、黙り込んでしまった。
「それに、ですけど」
少し視線を逸らした後輩ちゃんは、ほんのり頬を赤くして、こんなことを言いやがった。
「せんぱいのくれるものなら、なんだって、うれしいですよ」
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