第26日「せんぱい、動物占いって知ってますか?」
# # #
「きのう、家に帰ってから、思い出したんですよ」
いつもの電車の中。いつもの場所に寄りかかって、後輩ちゃんが言う。
「先週、星座占いと血液型占いはやったじゃないですか」
「うん」
「やってない占い、まだあったなあ、と」
「手相?」
「あー、それもありましたね。でもそれって聞くというより見る方じゃないですか。あ、それともわたしの手をにぎにぎしたいんですか?」
「見れないし女子の手をにぎにぎする趣味もねーよ」
どうしてそうなる。
「まあまあ、そこで『今日の一問』ですよ」
「何ですか」
「せんぱい、動物占いって知ってますか?」
何それ。約16年生きてきて、初耳の言葉なんだけど。
「いや、知らない」
「でしょうね……」
後輩ちゃんはスマホを取り出して、ブラウザを立ち上げた。
「なんでも、生年月日を入力すると、その人のキャラに沿った動物が出てくるらしいですよ」
わたしも使ったことないので、これがはじめてです、と彼女が言い添える。
「せんぱいって何年生まれですか? えと、わたしの一個上ってことは、2000年、で合ってます?」
「だな」
「ぎりぎり20世紀生まれなんですね、せんぱい」
「ほんの数ヶ月だけだけどな」
「どうでしたか、前の世紀は」
「いや、知ってるわけないでしょ」
「それもそうですね。よし。2000年10月27日生まれ、男性のあなたの動物キャラは……ぷっ」
画面をタップするや否や、いきなり笑い出す後輩ちゃん。何? そんなに変な動物が出てきたの?
「せんぱい、虎です」
「虎かあ」
肉食動物って感じじゃないんだけどなあ、俺。
「『頼れるオールラウンダー。自信あふれるリーダー』だそうですよ?」
「リーダーってところしか合ってないな」
「確かに」
虎。肉食。
「せんぱい、肉食動物なら、あれやってくださいよ。『たべちゃうぞ! がおー!』ってやつ」
「あれ、サーバルキャットだろ……」
「ネコのなかまなんだからいっしょです。それに、せんぱい、猫が好きでしたよね?」
ぐぬぬ。
「ああいうのは、女子がやるから意味があるんだろ。男がやったら恐いだけだ」
何とか、逃げようとする。論点をずらす。
「そうでしょうか」
「そうだよ」
「やってみましょう。わたしなら恐がらせちゃってもだいじょうぶなので」
なるほどなー。どんどん、逃げ道が塞がれていく。
いやでもほんとに、男の野太い声でやっても仕方ないと思うんだけどなあ。
しゃーない。やれば終わるんだろ?
後輩ちゃんの顔の両側の壁に、手をついた。まあいわゆる、壁ドンである。イケメンでもない俺がやったところで意味ないが。
「食べちゃうぞ?」
後輩ちゃんの、まんまるに見開かれた眼がとてもきれいで、逆に俺の方が吸い込まれそうになった。
これは、危ない。色々な意味で。
笑い交じりに「がおー」と言って、張り詰めてしまった空気を緩めようとする。
彼女の顔は、真っ赤になっている。きっと、俺の顔も赤くなっている。
「こういうのは、やめときましょう」
「だな。危険だ」
「はい。封印です」
前にもこうして、封印したものがあったような。「頭の悪い会話」だったか。
封印する、ということは、その封印が解けることもあるということだ。俺と彼女の間に、そんな日は来るんだろうか。
「にしても、せんぱい、干支が
後輩ちゃんが、会話の流れを戻した。
「なんか、せんぱいのイメージと逆の、強そうな生き物ばかりですね」
「占いなんてそんなもんだろ」
でたらめ、とまでは言わないけれど、あんまり信じすぎない方がいいと思っている。
* * *
「後輩ちゃんは、何の動物だったの? その『動物占い』」
あー、わたし、なんでしたっけ。昔調べたような気はするんですけれど。
「なんでしょうね」
「『今日の一問』で」
質問を無視しようとしたと思われてしまったようです。わたし、そこまでいじわるじゃないんですけど……
「はいはい。やるので少々おまちを」
さっきから開いているページに、今度は自分の生年月日を打ち込みます。
「2001年12月12日っと……猿ですね」
「ぴったりだな」
せんぱいの第一声はこれでした。
「ひどいです」
「ひどいも何も、頭使って人を出し抜く様子とか猿でしかないじゃん。干支も俺の次ってことは、
なる、ほど。
言われてみれば、確かに、せんぱいから見たわたしっぽい動物かもしれません。
にしても、女の子に「狡猾」とか、ちょっぴり言葉の選び方がひどいです。
「せめて小悪魔って言ってください」
「いいじゃん、頭文字合ってるし文字数一緒だし」
「『慶太』と『ケロロ』くらい違いますよ」
「どっちも人の名前じゃん」
何気にせんぱいの下の名前をはじめて呼んでしまったんですけれど、せんぱいはノーリアクションです。つまらないです。
「ケロロって人の名前に含めていいんでしょうか」
「現実にいるかはともかく、知名度的には高くない?」
「まあ、そうですけど」
「というか、なんだよ小悪魔って。自称するか、普通?」
「せんぱいの言ったことに合わせただけですって」
「ふーん」
せんぱいが、へー、みたいな冷たい目を向けてきます。
「じゃあ、せんぱい。今日もコアラのマーチください」
「また? なんで?」
「『コア』が
「二文字しか合ってねーよ……」
今日も、ふたりで分け合いました。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作中の「動物占い」については、株式会社ノラコムの「動物占い 公式サイト」(https://www.doubutsu-uranai.com)の情報を利用させていただきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます