第19日「せんぱいの血液型って、なんですか?」
# # #
「おはようございます」
今日は木曜日。クソッタレな平日を2回乗り切れば、その後には三連休が待っている。
「ああ、おはよう」
「今日はさそりが1位でしたよ、おめでとうございます」
「毎朝見てるのかよ」
最近はうちは『おはよう日本』だからなあ。占いなんて出てこない。
「あー、いえ。昨日は話のネタになるかなって。今日は昨日の惰性で。チャンネル変わってなかったんですよ」
「それで、いて座は何位だったんだ?」
「うう……それ聞きます? 11位でしたよ11位」
「俺と合わせれば111じゃん。やったね」
「111じゃ警察も消防も呼べないじゃないですか……」
「111って何か呼べるの?」
「試してみます?」
すいっとスマホを取り出す後輩ちゃん。
「待て待て待て。緊急用のやつだったらどうする」
「それもそうですね」
困ったときのグーグル先生。んーと。へー。
「おばけ電話に繋がるってさ」
「なんですかそれ……」
「まあまあ、試してみろ」
「おばけとか言われたら嫌ですよ。せんぱいが試してください」
「電話に話を持って行ったのはそっちだろうが」
「そもそも、もう電車来ちゃいますし」
「すぐ終わるから」
「信じてますよ?」
最近ではめっきり使うこともなくなったテンキー画面を、後輩ちゃんの指がタップする。
そのまま、彼女はスマホを耳もとに持っていく。
「ん?」
結果としてどうなるかは調べたけれど、実際どういう過程でそうなるのかはわからないわ、そういえば。
「接続テストは終了しましたって言ってますよ、ほら」
後輩ちゃんは、自分の耳に押し当てていたスマホを、俺の右耳に近付けてくる。
微妙にいいにおいがするからやめてくれ。変な気分になっちゃうだろ。
……確かに、接続テストは終了しましたって言ってるな。
俺の調べた情報だと、接続テストを行うために電話が折り返しでかかってくるはずなんだけど。
終了しちゃってるじゃん。どうなってんの。おい。
携帯電話だと仕様違ったりするのかな。
「な、すぐ終わっただろ?」
かくなる上は、誤魔化すしかない。
「え、あ、はい」
ちょうど電車が来たので、乗った。
* * *
おばけ電話なんて言われてしまって、びくびくしてしまいましたが。
ただの接続テスト用の番号だったようですね。
怖いの苦手なんですよ。まったく。
「さてさて」
せんぱいは、なんだかまだぼーっとして、わたしの握ったスマホを見ているようですが、まあいいです。
「昨日は星座について話したので、今日は血液型について話しましょう、せんぱい」
「またまたオカルティックな話題を……」
まあ、このへんは基本ですよね。むしろ、どうして今まで聞いてなかったのかがふしぎなレベルです。
「『今日の一問』です。せんぱいの血液型って、なんですか?」
「O型だな」
「あー、あれですね。誰にでも輸血できるのに、もらうのはO型からしかダメな、かわいそうな人ですね」
「全国にいるO型の皆さんに失礼すぎるだろ、俺はともかく」
「O型って、どんな性格とされてるんでしたっけ」
「血液型占いなんて嘘っぱちだって論文が出たらしいぞ」
「まあ、わたしもそう思いますよ。あんなんで決められてたまるかーって」
「じゃあ人にも押し付けるなよ……」
「それもそうですね」
話が落ち着いてしまいました。
「じゃあ『今日の一問』。後輩ちゃんこそ、血液型は?」
お、せんぱい、ナイスタイミングです。
「わたしはAB型ですよ。レアキャラなのです」
「レアっつったって10%くらいはいるでしょうに」
「10%ってSRくらいじゃないですか?」
「なるほど」
そういうわけで、レアではあると思います。
「ということは、わたしはせんぱいから血をもらえるけれど、逆はだめってことですね」
「ここでもまた一方的に搾取されるのか……」
というかさ、と、せんぱいがこちらを向きます。
「献血ってしたことある? 後輩ちゃん」
「ないです。そもそも、年齢的にできるんですか。大人がやってるイメージですけど」
「16歳からできたはず……って、そうかまだ15か」
「先輩こそあるんですか」
「ないぞ」
ちょっと。話を振っておきながらないんですか。
「じゃあ、わたしが16歳になったら、いっしょに行きましょうか。たしか、献血センター近くにありますよね」
この間、映画を見た駅にあったと思います。
「いっしょに献血って、なんだかなあ」
「嫌ですか?」
「まあ、献血自体、興味はあるし……」
「決まりですね。たのしみにしてます」
「おう」
# # #
なぜか献血に行くことが決まった。
後輩ちゃんが誕生日を迎えてからだから、12月になるか。冬休みでもいいな。
「せんぱいがO型で、わたしがAB型ですか。こどもができたら、A型かB型ですね♪」
!?
ちょっと。子どもとか言わないでくれよ。吹き出しかけたぞ。
「子、子ども!?」
「はい。こないだ生物でやったんですよ。O型ならOOのはずなので、わたしからAかBが出たらこどもはAかBになります」
そういえば、去年、そんな感じの、血液型の決まり方、みたいなのをやった気がする。
でもさあ、その、あの、なんで俺と後輩ちゃんが子作りするみたいな話になってるんですか。
純情な高校生であるところの俺には、刺激が強すぎるんですけれど。後輩ちゃんの方をちらっと見ると(恥ずかしくて目が合わせられない)、何事もないように涼しい顔をしている。
「そうだなあ。AOかBOになるのか」
これは、自分の言っていることがどういうことだか、理解していないパターンと見た。
俺の感じている居心地の悪さを、そっちも共有してくれよ。
「あのさあ。いいか、後輩ちゃん」
「はい、なんでしょう」
「自分の話してること、自覚してる? 俺との子どもっていいますと、何かと……その、デリケートといいますか、センシティブな話題だと思うんだけどさ」
「はい?」
まったく気付いていなかった、みたいな顔で、目をぱちくりとさせている。
長く伸びたまつ毛が、透き通った眼球の前を、何度か往復する。
そして――彼女の顔が、真っ赤に染まった。
「べ、別にそんなこと考えたりしてませんから! ただ、純粋に、わたしは学術的な興味でもって、もしわたしとせんぱいの間に子どもができたらどうなるか考えただけですから! せんぱいのえっち! 変態! 色好み! 好事家! んと、バカ!」
わあわあ。
なんかめっちゃ罵倒された。
「なんでそういうことを言うんですかせんぱい。人が真面目に話してたのに、もう……」
本当に素だったパターンかよ。俺でもそんなことないんだけど。
「責任、取ってください」
「どうやってだよ」
「わたしにえっちなことを吹き込んだ責任です」
「なんだいそれ」
「はい、後ろ向いて……じゃない、背中向けてください」
「え?」
くるりと回転させられて、背中をつーっとなぞられた。
腰の辺りがぞくっとして、首筋にさーっとわけのわからない感触が走って、そのまま脳まで駆け抜けていく。
「はい。これで勘弁してあげます」
「俺が勘弁する側じゃないの?」
「いいですか?」
「はい」
この世は理不尽だ。
なんで俺がくすぐられなきゃならないんだよ。
「でも、そうしたら、わたしが浮気したらバレちゃうかもですね。AB型が生まれちゃったらまずいです」
今度こそ、吹き出すところだった。
でも、後輩ちゃんも無事ではないようで、まだ顔は真っ赤なままだ。
「自爆やめろって……」
「せんぱいにいじわるされたので、しかえしです」
今日は俺、何も悪くないと思うんだけどなあ。
恥ずかしそうにしている後輩ちゃんを見ると、形のいい唇が目に入って、そういう話をしていたこともあってか、なんだか妙な気分になってきてしまった。
これ以上はよくない。視線を切った。本を取り出す。
もうだめ。今日の話はおしまい。
ページをめくるたびにちらりと視線を送ってしまって、本の内容は、全く頭に入ってこなかった。
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