Re:第十六回転 門より出でよ無垢なる怒り 部院に拓け正しき憎悪

「な──なにが、退いてくださいですじゃ! わしらは既に不退転! 帰り道などない片道切符よ!」

そのとおりヤー!」

応ともさミートゥー!」


 網戸さんたちは、烈火のごとく怒り狂う。


「封神じゃ! ここにいるものすべて、封神してやるのじゃ!」


 銀の鍵。

 夢路への扉を開くカギが、ぼくらへと向け、突きつけられた。

 そのときだった。


「くー!」

「にゃぐー!」

「にゃー!」

「わおーん!」


 一斉に、くーちゃんたちゆる邪神が、網戸さんたちへ飛び掛かったのだ。


「走れ、少年ボーイ! 現在時刻は記録しタ! 戻るべき場所は定義しタ! ゆえに、スペースランナウェイ!」


 タナトスさんが叫ぶ。

 怒号が、悲鳴が、くーちゃんたちの楽しげな声が、ぼくの家の玄関に響き渡る。


「六花ちゃん」

「……あんた、悪魔と相乗りする勇気、ある?」

「ぼくはもう、ぜんぶ決めたから」

「──委細承知! いきましょう、未来へ!」


 六花ちゃんの手、ぼくの手、触れ合う指先。

 ぼくらは手を取り合って、駆け出した。


「くっ、待つのじゃ! ここで元凶を仕留めなければ、わしらはあの邪悪に飲み込まれてしまうのじゃ……!」


 振りかざされる銀の鍵。

 スライディングの要領でそれを躱して、ぼくらはそのまま、玄関の──扉の外へ!


You can do itあなたはスーパーマン?」

YESもちろん! I can fly空だって飛べるさ!」


 銀色の閃光。

 ぼくらが飛び出した先は──空の上だった。

 ビュービューと風を切る音が、耳の隣で鳴っている。

 見上げれば、巨大な門がそびえている。

 空は焼けただれたように赤く、太陽は砕け散り、暗黒の光を投射している。

 それでも、つないだ手は離れていない。

 ぼくらはお互いに、お互いを確かめるように手繰り寄せて。

 抱き合って、真っ逆さまに落ちていく。


「オノレェエエエエ、邪悪ノ権化メエエエエエエエエエエエエエ!」


 絶叫のような怨念が放射される。

 見れば、門から三つの頭を持つ巨大な怪物が、現れようとしているところだった。

 三つの頭部はそれぞれ燃え盛り、まるで炎の瞳を三つ持つ、人型の闇の塊のようですらあった。


「我ラガ怒リヲ受ケルガイイイイイ!!」


 それなるは混沌。

 這いよる混沌ニャルラトホテップの一化身!


「はぁ……」


 六花ちゃんが、大げさなため息をついた。


「ひょっとして、のせられちゃった?」


 嘲弄たっぷり、悪意たっぷりに、六花ちゃんはバケモノへ向けて、そう呟く。

 そして、激昂する。


「怒っているのはこっちのほうよデバガメ! 恩讐たっぷりなのはこっちなのよ! 正論と世迷言の区別もつかなくなった、愚か者たちめ! あたしは、あたしたちは──あんたらに害される、いわれなんてない!」


 嚇怒をあらわにする六花ちゃん。

 それは、正しき憎悪と、無垢なる怒り。

 彼女はただ、人生を謳歌していただけなのだ。

 平和な世界で、幸福な日々を過ごしていただけなのだ。

 もし、それを妬み、嫉み、怨み。

 そして、破壊しようとするモノがいるとするならば──


「ぼくらはそれを、こう呼ぶことにしている」


 すなわち──〝邪悪〟であると。


「ここは銀の鍵によって開かれた、夢路への門の先──滅びきった本来の世界。ここでならば、ぼくは、ぼく自身の本来の役目を果たせる」


 つまり、世界を創るという役割を。

 出門部院六花に、健やかな未来を約束するという祈りを。


「六花ちゃん……銀の門より出でた無垢なる怒り……人々の幸せを蹂躙するモノを砕く、正しき憎悪よ」


 すべての母たるクトゥルフより生まれた、六枚の花弁もつ夢と願いの結晶クトゥルヒよ。

 いまここに、君が全力で戦える舞台を用意しよう。


「すべての神の承認を受け、ここに拓け! 蓮華部院アザトースの庭!」


 そして、それは現れた。

 空、地上、海、すべてを砕き、すべてを飲み込んで。

 世界のすべてを作り変えて、そこに。


「恩讐にとらわれた哀しい人たちよ。無貌の曠野に穿たれた、その虚ろな眼窩でとくと観よ。全ての神が願った、平和の象徴を──!」

「!?」


 そして、それはやってきた。

 光とともにやってきた。

 荘厳なりし大神殿。

 蓮華の花、雪花のつぼみ、夢の雫が咲き誇る仏の座。

 無限のサイリウムが振り回される、数多の観客を内包した、超巨大な舞台──

 ドリームステージが……!


「さあ、SAN値バトルの時間よ!」


 六花ちゃんが、獰猛に吠えて見せた。




 Re:NEXT ROLL ── 殺神考察(後)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る