Re:第八回転 銀の流星 -ULTRA ONE-
「先手必勝おおおお!」
爆音のような歓声と、開戦のゴングが鳴り響くと同時に、六花ちゃんは駆け出した。
「にゃっぐー!」
弾丸のごとき速度で飛翔するニャルさまが、一直線にマスターガーチャーチームの領域へ突入。メダルを砕いてまわる。
あのあと、戻ってきた六花ちゃんとともに立てた作戦はこうだ。
機動力を活かし、ニャルさまが吶喊。
マスターガーチャーが本気を出さざる得ない状況へと、早々に追い込んで3分間戦わせる。
そして、力尽きたところを呀太くんのクトゥグアが対処するというものだった。
ぼくはその辺で、メダルを集めていればいいらしい。
『未知を感じてみろ カダスに向かってみろ
深遠への足音 霧の中の鼓動
突然混沌が 襲いかかるその時
揺るがない銀の腕 勝利への鍵になる』
流れ出すBGMは〝旧神の祈り〟という曲らしい。
それに合わせ、六花ちゃんはメダル砕く、砕く、砕く。
とにかく砕く。
数を重ねること……それが彼女の導き出した唯一の勝機だった。
だが、突如としてその前方に、ふたつの影が現れる。
そのどちらもが、
「チィッ!! 双子が連れていたのはチクタクマンだったのね!」
「いかにも!」
「そのとおりよぉー」
騎士風の少年と、お姫様風の少女が、六花ちゃんの前に立ちふさがる。
彼らが操るゆる邪神〝チクタクマン〟──それもまた、ニャルラトホテップの化身のひとつだった。
いやらしい笑みを浮かべた少女が、スマホの画面を高速でタップする。
すると、チクタクマンの全身から針金のようなものがたくさん伸びて、周りのメダルを次々に砕いてしまう。
「チックの第一スキル──僕は全自動なんだよLv8の始まりよぉー!」
「我も続くぞ! タックの第二スキル──我はワイヤーにて巣を張る蜘蛛Lv7!」
同時に放たれたスキル。
それは、ニャルラトホテップの名前を冠するにたる、強力極まりないものだった。
チックと呼ばれたゆる邪神のスキルによって、メダルが勝手に、まるでベルトコンベアーで流されるように、マスターガーチャーの側へと流れていく。
タックと呼ばれたる邪神のスキルで、そのメダルがすべて、一瞬で砕かれる。
「まずいわ! チクタクマンの第三スキルはいわゆるボム! 一時的にフィールドのメダルすべてを消失させるものよ!」
それなら、相手だってなにもできないんじゃ?
「壊したメダルはすべて、あちらの獲得扱いになるのよ!」
焦燥をにじませた六花ちゃんの横を、赤い炎が駆け抜ける。
呀太くん、そしてクトゥグアのクタさんだった。
「だったらさぁ、それができないようにするまでなんだよなぁああああ! 生ける炎の第一スキル発動! ンガイの森を焼くものLv4の効果で、すべてのニャルラトホテップの行動を阻害する」
「あらぁ? そんなことをしたら、あなたたちご自慢の〝闇をさまようもの〟も動けなくなってしまいますわよぉー?」
双子のうち、お姫様みたいなかっこうのほうが、厭味ったらしくそんなことを言う。騎士の姿をしたほうの少年が、鼻で笑う。
「〝闇をさまようもの〟がいなければ、ガーチャーの勝利は動かない。ここに勝敗は決したな!」
『星間宇宙に祈りを込めて
あきらめるな! その狂気で!
限界を超えろ!』
「そう……あたしは限界を超える……! クトさん! くーちゃん! ふたりのちから、お借りします! 千の貌lv1──連続発動!」
「「なにぃ!?」」
双子の声が、驚愕が重なった。
そう、なにも六花ちゃんは、もったいぶってスキルを発動していなかったわけではない。
第二スキルを連続で発動できる量のコンボがたまるまで、我慢していたのである。
そして、根本的に我慢というのが性に合わない彼女の。
それでも勝利のためにしていた我慢が、いま解放される……!
「くーちゃんの第一スキルによって、ニャルさまは3体のシャンタクちゃんを使役可能! さらにクトさんの第二スキルによって、これ以降あたしが砕くメダルは、すべて同じ色になる……則ち、黒よ! 千貌万化、絆を束ねる!」
「しまっ」
騎士の少年が失態を悟るよりも早く、六花ちゃんはスタートを切っていた。
正確な操作で、シャンタクちゃんを──それはニャルさまではないのだ、だからニャルラトホテップの動きを阻害するスキルの対象にはならない──操り、彼女は一気に、フィールドにあったメダルの半数を獲得してしまう。
虹色の光を帯びて、ついにニャルさまが第三スキルを発動する。
「〝闇をさまようもの〟の第三スキル──トリックスターlv1──メダルの色はそのままに、すべてのメダルを、こちら側に寄せる!」
「おおっとー! これは予想外の展開です! なんとチーム・クトゥルフ・ファイターズ……チーム・マスターガーチャーのメダルをすべて強奪してしまった! メダルが一枚もなければ、このゲームでは有利に立てません! これは、マスターガーチャー側が一気に不利でしょうかあああ!?」
「レディ礼坂は熱意たっぷりであるが、吾輩、その程度でクリアーできないような難易度のゲームを作った覚えがないんダナ」
「……どういう意味ですか、郁太・T?」
「残り時間が、ジャスト3分ということサ!」
「「「────」」」
そして、ぼくと。
呀太くんと。
六花ちゃんは。
ほとんど同時に、言葉を失った。
たぶん、ほんの一瞬だけ。
会場は、静寂に支配されたんだ。
『主神の庭が君を待っている
闇夜を照らせ
狂信者が君を信じてる
ひとつの
ウルトラ・ワン・ノーデンス!』
「──白銀をまとえ、ノーデンス!」
まるで雷鳴のように。
一条の閃光のごとく。
すべてを超越した
Aサビを背にして、フィールドへと降り立った。
ぼくらは見た。
白銀に染まる──
「さあ、ここからが本当の勝負だ、少年たち……! 極限の希望を見せてみろ!」
マスターガーチャーが、興奮した様子で声を上げた。
Re:NEXT ROLL ── ジャスト3分、いい夢見れたか?
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