Re:第七回転 ルール変更! 3on3!
「えー、大変盛り上がっているところ、みなさま申し訳ありません! こちら実況の礼坂朱里子です。ただいまマスターガーチャー側から、試合形式の変更について申し入れがあり、対応しております。どうか、しばらくお待ちください。お休みのさいは礼坂印のアイマスクが売店で販売されておりますので、是非ご活用を。お値段はにーきゅっぱ、にーきゅ──」
唐突なアナウンスに、会場がざわめくのがわかった。
というか、ぼくはずっとついていけていない。
「どうやら、休憩時間になるみたいだね」
係員に誘導されて、ぼくらは控室へと戻ることになった。
六花ちゃんはなんだか不機嫌……というよりも、どうも考え事をしているようで、控室に戻るまでの間、一言も口を利かなかった。
それどころか、トイレに行くといって、控室からも姿を消してしまう。
消去法的に、ぼくの質問の相手は、呀太くんになった。
「マスターガーチャーって、そんなにすごいひとなの?」
「えぇ? 君は、知らないのかい?」
本当に驚いたように目を丸くする、呀太くん。
どうやら、くーちゃんの召還プレイヤーの間では、とてつもない有名人らしい。
「一部はうわさ話になってしまうけれど、現在までに実装されたすべてのゆる邪神を所持。1000戦1000勝。メダルの取りこぼし、コンボの失敗、その他プレイヤーとしてのミスは公式戦においてはゼロ。スタミナを削るラフファイトに持ち込まれたことすら、一度もない」
「そんな人、実在するの? ゆる邪神だって、組み付かれたらどうしようもない気がするのだけど」
「だって、仕方がないじゃないかぁ、実際にいるんだから。そして、その圧倒的なファイティングスピードと、コンボの正確さ。なによりも使用する邪神から──」
「その邪神から、ファンの間ではこう呼ばれて恐れられているのだヨ。すなわち──
「あ──あなたは」
目を丸くするぼくに、唐突にドアを開けて現れた、ツインテールにメガネ、褐色の肌を持つその女性は。
「初めましてだネ、少年ボーイ?」
郁太・T──タナトスさんは。
くーちゃんの召還、そのすべてを作った女性は。
くせの強い笑みを浮かべ、ぼくに向かって、そういったのだった。
§§
「マスターガーチャー側からの提案は、これだけだヨ」
「つまり、連戦形式ではなくて、バスケットの試合のような3on3……団体戦を行おうということですか?」
「説明大感謝だネ、少年ボーイズ!」
タナトスさんは、さすがに全裸ではなかった。
ただしくーちゃんの召還公式の、メダルが刻印されたすごくださいTシャツを着ていた。
彼女はそのTシャツでは収まりきらない豊満な胸を張って、ぼくらに謝意を伝える。呀太くんが、不満そうに唇を尖らせた。
「いまさらルール変更の申し出なんて、彼女たちはどういうつもりなんだろうねぇ……傲慢、環境の違いへの考慮、あるいは慢心かなぁ?」
「いやいや、そちらのほうが盛り上がるだろうという、それだけだと思うヨ。なにせ彼女は、吾輩が認めるほどのエンターテイナーだ」
「エンターテイナーねぇ……でも、こっちが不利になる可能性、あるんじゃないのかなぁ……そこんところ、どうなんですかぁ、郁太・T?」
「ないとは断言できないネ、メイドボーイ。でも、きっと盛り上がるだろうナ!」
つまるところ、運営にとって重要なのはそこだけなのだ。
売り上げに直結するのは、楽しめるかどうか。
そして、彼女は運営側の人間だった。
この場に現れたのだって、ぼくらにガーチャー側の提案を承諾させるために違いないだろう。
どこまでも打算的な人間。
それが、彼女なのである。
ぼくが、そんなことを考えながら凝視していると、タナトスさんは人を食ったような笑顔を一瞬だけやめた。
そうして、真剣な顔つきをのぞかせる。
「少年ボーイからは、禁忌に触れた臭いがするネ」
「理由を説明したほうが?」
「ンー、だいたいわかるかナ。おそらく吾輩が計らったのだろう。となれば……すこしぐらいヘルプするのもやぶさかではないネ」
つまり、ぼくから時間の秘密に触れた臭いがするのは、タナトスさんに原因があったということになる。
彼女がぼくを、過去のセーブポイントまで戻し、デバッカーにしたことで、おそらく時間を遡航したと判断されたのだろう。
実際のところは、よくわからないけど……たぶん、そういうことだ。
だから、彼女はぼくに、すこしだけ協力してくれようとしている。
世界を終わらせないために。
彼女のデザインしたゲームを、現実の世界に流出させたその黒幕を、炙り出すために。
「簡単にいうヨ。この決勝戦で勝利した側は、副賞として特別なエルダーサインでガチャを引くことができル。新実装されるゆる邪神、その先行公開という名目でダ」
「え、それはすごいなぁ……僕も引きたい」
「勝利すれば君も引けるさメイドボーイ。そこでだ、吾輩が銀の流星攻略法を、ひとつだけ伝授してあげと思うのだがネ」
ぼくと呀太くんは顔を見合わせる。
それは、許されることなのだろうか。
「いや……」
すぐに、ぼくはかぶりを振った。
許されるとか、許されないとかは、どうでもいいのだ。
大事なのは、〝這いよる混沌〟を六花ちゃんが引かないことなのだから。
「よしよし、納得したみたいだネ。それじゃあ、あの娘が返ってくる前にさっさと教えてしまうことにするヨ! 銀の流星……その弱点は」
「弱点は?」
ごくりと、呀太くんがのどを鳴らした。
タナトスさんは悪い顔で、じつにあっけらかんと。
こう言い放った。
「彼女が3分間しか、全力を出せないことサ」
Re:NEXT ROLL ── 銀の流星 -ULTRA ONE-
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