Re:第六回転 強敵(とも)たちとの戦い

 くーちゃんの召還公式大会とは、ダンスの頂点を決める戦いだった。

 先方、副将、大将の順番で戦い、負ければ次の人に交代。

 最終的に獲得fanatic──この場合は勝ち星が多かったほうが勝利という、いたってシンプルなルールである。

 だけれど、ぼくたちの戦いは熾烈を極めた。


 一回戦、チーム・スライム・クラスターズ。

 SRスーパーレアのウボ=サスラ、同じくSRアブホース、そしてコモンのショゴスからなるこのチーム。

 チーム名のとおり、すべてのゆる邪神が、ぷよっとして、プルっとしている、ゼリー状で、その柔軟性を活かしたメダルの獲得量は尋常ではなかった。

 それでも、プレイヤーの腕前がぼく並みだったことも幸いして、難なく勝利を収めることができた。


「くーちゃん、がんばって!」

「くー!」


 可愛いくーちゃんに、お客さんもご満悦だったように、ぼくは思う。

 スライムより、くーちゃんのほうが可愛いので、たぶん間違いない。


 二回戦、ぼくらの前に立ちはだかったのは、なんと井坂孝郎さんのチームだった。

 チームメンバーが、全員イタカという特殊なチームだったけれど、


「ニャルさまファイトよ! 混沌拳20べぇーだぁあああ!」

「にゃぐー」


 ……これを、六花ちゃんは三立て──つまり一人で倒してしまった。

 恐るべきSSRである。


 三回戦──準決勝の相手は重課金を極めたプレイヤー三人だった。

 どのゆる邪神もSRで、なかにはSSRの邪神にしてニャルさまの別側面〝膨れ女〟もいた。

 苦戦は必至……と思われたのだけど、それが逆に突破口になってしまった。


「次元メイド流クトゥグア突き!」

「ふぉ、ふぉー、にゃるはしすべしふぉー!」


 放たれたクトゥグアのスキルが、ニャルさまを打ち倒し。

 残る二名は、六花ちゃんが手堅くさばく。

 僅差ではあったものの、ぼくらはその戦いをものにした。

 そして、決勝戦──


「まさかのコモンゆる邪神起用でありながら、破竹の勢いで決勝戦に現れたのは、SSRゆる邪神〝闇をさまようもの〟を筆頭とする少年少女のチーム──チーム・クトゥルフ・ファイターズ! 解説の郁太・Tさん、これをどう思われますか?」

「レディ礼坂。吾輩、このゲームはどのゆる邪神でも勝てるように設定しているのでナ! 別に、コモンゆる邪神で無双してしまっても構わないのだヨ!」

「そのわりにニャル系は強すぎると話題ですが」

「あれは……因数がだネ」

「因数?」

「うーむ、どうしてもニャルラトホテップだけは、封印しておくことができないからネ! あのゆる邪神だけは、他よりも強くなってしまうんだヨ! ま、そのぶんぜんぜんまったく、これっぽっちも当たらないんだけどネ! アハハハハ!」

「えー、暴動が起きそうな解説でしたが──今度の株主総会で、このひとは降板させます──大変お待たせいたしまた! その少年少女たちが立ち向かう、強敵のご紹介です!」


 パッと、会場の照明が暗転した。

 勇壮なBGMが鳴り響き、音を立てて煙が噴き出し、会場を包み込む。

 そして煙がはれ、照明が戻ったとき。

 試合場の中心に、その人物はいた。


 ミラーグラスに、かきあげられた前髪。

 ヘソというか、鼠径部まで見えてしまっている、ぴっちりとしたレザーパンツ。

 羽織っているのは、闇を切り裂く白い闇のようなロングコート。

 腰にはなぜか、日本刀が一本。

 左手の袖にも、ナイフみたいなものが一つ。

 そんな異常な恰好をした女性が、ひとり。

 その背後に、騎士とお姫様を模した格好の、双子と思わしき少年と少女がひとりずつ。


「────」


 口元に装着されたマイクを通じて、コートの人物は叫んだ。


「諸君──SAN値バトルは好きか!!!」


 おおおー!

 と、爆音のように鳴り響く歓声。

 その女性は続ける。


「諸君は、くーちゃんの召還を愛しているか……!」


 おおおおおおおおお!!


「ならば問おう! これまでの戦いに、満足してきたか?」


 これに、観客たちは困惑した。

 首をひねり、振り上げていた拳を所在なさげに揺らし、どういう意味だろうとはかりかねて。

 女性は、大きく頷くと、こう言葉をつづけたのだ。


「確かに少年少女たちが勝ち上がる試合は痛快だった。だが! あまりに一方的で、歯ごたえがなかったのも事実だ。きっと彼らも、同じことを感じていただろう! これではせっかく集まってくれたギャラリーに、なによりもプレイヤーたちに申し訳が付かない……そうは思わないかね?」


 そこで。

 そこで初めて彼女は。

 そのひとは、正面にいるぼくらを見たのだ。


「いいや……私はそう思う!」


 ひとりで反語表現を回収し、ぼくを、ぼくらをまっすぐに見詰めた彼女は。

 声高に誓う。


「ゆえに私が! 真のSAN値バトルを諸君らに見せつけ、その視線をくぎ付けにしよう! 敢えて言おう──SAN値バトルは、自由であると!!」


 うおおおおおおおおおおおおおおおお!!


 会場の盛り上がりはピークに達した。

 そして、人々は彼女の名前を呼ぶのだ。

 最強のくーちゃんの召還プレイヤー。


 すなわち──マスターガーチャー、と。


 ぼくらの決勝戦が、幕を開けた──


 ……こんなこと、している場合じゃないのでは?

 そんな当然の疑問を、ぼくはのみ込まなくてはいけなかった。




 Re:NEXT ROLL ── ルール変更! 3on3!


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