Re:第五回転 結成! チーム・クトゥルフ・ファイターズ!

 三日後、ぼくらは街の中央にあるBIG‐Cスタジアムを訪れていた。

 というのも、くーちゃんの召還運営の主催で、最強のプレイヤーを決める大会が開かれるのが、このスタジアムだったからだ。

 ぼくはあまり興味がなく、ほかにやるべきことがあったのだけど、六花ちゃんが


「え? 開発者の郁太・Tが実況で来る? しかも優勝したら握手してもらえるうえに、自分の好きな邪神を一柱、実装してもらえる!? やるわ、あたし……邪神の星になる!」


 と、盛り上がるだけ盛り上がってしまったので、止めることはできなかった。

 厄介だったのは、呀太くんが便乗してしまい、収拾がつかなくなったこと。

 僕も重いコンダラを引いてがんばるよ六花さん! ではない。

 そもそも、あれはコンダラという名前ではないのだ。


「ですが、大会は3名のチームを組んでの出場になります。あなた──六花さんと守さん、それに加えて、もう一名、エントリーには必要なのです」


 今回のゆる邪神がスマホから飛び出した、いわゆる〝現界アドベント〟騒動。

 くーちゃんの召還スポンサーという立場から、それを利用し、一儲けを企む朱里子さんは、SSRゆる邪神を持つ六花ちゃんを、どうしても大会に参加させたかったらしい。この人も六花ちゃんが、ニャルさまを持っていることをなぜか知っていた。

 あくまでもメインは六花ちゃんとニャルさま。

 つまり、ほかはどうでもいいおまけなので、ディティールは気にしない。

 それでも、数合わせは必要ということで。


「じー」

「じー」


 同級生ふたりの視線が、とても痛かった。

 かようにして、ぼくを加えた三人。

 そして三柱のチームが出来上がったのだ。


「名付けて、チーム・クトゥルフ・ファイターズよ!」

「リーダーは六花ちゃんだし、ニャルシマカープじゃないの?」

「半神クトゥグアーズがいいと思うよ、六花さん!」

「うっさいわね! こーゆーときは、これがお約束なの! 少しは空気を読みなさいよ! 今日からあたしたちは、クトゥルフ・ファイターズなの!」


 彼女にそう言われては、反論の余地などなかった。

 というわけで、ぼくらはBIG-Cスタジアムにやってきたのである。

 会場は、超満員といってよかった。

 二万人を収容できるドームの座席はすべて埋まっており、立ち見も出始めていた。

 なかにはゆる邪神の姿もあって、どうやらここにいる人間のほとんどが、くーちゃんの召還のプレイヤーらしかった。

 係員のおねーさんに、控室へと案内されて、そこでぼくらは、準備を始めた。

 たいしたことではない。

 六花ちゃんが、お色直しをしているだけである。


「僕、認めてないので」


 急に、呀太くんがなにか言い始めた。

 表情はなんとも不本意という代物である。

 ちなみに今日も、フリフリいっぱいのメイド服と、赤いウィッグを装着している。


「なにを認めていないの?」

「君がリーダーだってこと」

「ぼくはリーダーじゃないよ。六花ちゃんがリーダーだよ」

「チーム名がクトゥルフなんだぁ……君がリーダーってことなんだよぉ……」


 そんな恨みがましい調子で問われても困る。

 妙に顔つきを険しくされても、対処のしようがない。


「邪魔なんだよ……僕と六花さんの間に入ってこようとする奴はぁ……これもすべて、君ってやつの仕業なんだ……」

「……ああ、なるほど」


 ここでようやく、ぼくは理解するに至った。

 つまり彼、呀太守くんは、六花ちゃんのことを好ましく思っているのである。

 そして、それを年齢相応の未分化な感情から、好意と愛情を一緒くたに考えてしまっているのだ。

 そう考えればすべてつじつまが合うし、微笑ましくもある。

 ぼくは精一杯の笑顔を作り、彼に手向けをおくった。


「六花ちゃん、すごくいい子だから……呀太くんは、ずっと支えてあげてね」

「……なにを言ってるのかな?」

「彼女はあんなだから、ちっとも周囲を気にしない。でも、だからこそ、誰かが理解してあげなくちゃいけないんだ。それが、きっといつか、取り返しがつかなくなるとき、六花ちゃんを救ってくれるから」

「本気で意味がわからないなぁ。どうしてそれを僕に言うんだい? なんなら、それは君の役目でもよかったはずだろう?」

「ぼくは──」


 なにかを口にしかけて。


「────」


 結局、ぼくはなにも言わなかった。

 デバッカーであるぼくにとって大事なことは、〝這いよる混沌〟を六花ちゃんが引き当てないようにすること。

 そして、いちばん大事なことは、ぼくがぼくの役目を果たすことだ。

 そう、すでに答えは、六花ちゃんが口にしているのだから。

 ジーとしてても、ドーにもならないのだ。


「おまったせー! 出門部院・ルルイエ・六花、華麗に浮上デビューよ!」

「────」


 更衣室から現れた六花ちゃんの姿を見て、呀太くんは言葉を失っていた。

 その顔が、徐々に紅潮していくのが、ぼくにはどうしてか嬉しかった。

 着替えを済ませた六花ちゃん。

 彼女の姿は──なんと燃える三つの目をあしらった、無駄に煽情的なゴシックロリータだったのだ。

 彼女はその、豊かな髪の毛をふぁさっとかきあげると、ぼくらに向かって、こういった。


「ひとには運命というものがあるわ。ガチャにも、万事においてそれがある。あたしたちはこれから、それを作りに行くの! 筋書きのないドラマ──いいえ、優勝という必然を!」


 ものすごくいいことを言っている風なのだが、彼女の行動理由はニャルさまを実装させたいという一念である。

 ぼくも、そして呀太くんも、それを重々理解して。

 理解したうえで、こう答えるのだ。


「うん」

「やろう!」


「行くわよ! チーム・クトゥルフ・ファイターズ……この大会、心の底から遊びつくしましょう!」


 ぼくらは「おー!」と揃えて声を上げた。

 ……ところでぼく、いまだによくわかっていないのだけれど。



 くーちゃんの召還公式大会って、なにをするの?




 Re:NEXT ROLL ── 強敵(とも)たちとの戦い

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