第十七回転 邪神戦隊キョウシンジャー!
ぼくは一同を見回した。
ニヨニヨとした表情の全裸、タナトスさんと、そのゆる邪神ティンくん。ティンくんは退屈そうに蒼い口を開けて、あくびをしている。
タナトスさんの対面に腰かけているのは、長い髭を蓄えた老人、網戸丁司さんと、MMRその他二名。
そして、ぼくの五名と一柱。
お茶の間が手狭になるぐらいの人数が集まって、顔を突き合わせている。
ちょうど一昔前の戦隊ものぐらいの人数だ。
もっとも、最新のものは九人がデフォだし、すぐに十人とか十一人に増えるのだけれど。
「えっと、粗茶ですが」
「おー、ありがとうさんなのじゃ若人」
「センキュー」
「
MMRのひとたちは、さっぱり国籍がわからない返事をする。
あと、最後のサイチェンというのは、また会いましょうという意味だったはずである。ぼくは彼らとお別れしなきゃいけないのだろうか?
そんなことを考えていると、タナトスさんがふくれっ面でぼくの袖を引っ張ってきた。ツインテールがピコピコ揺れている。
「少年ボーイ、吾輩にもおくれヨ! 裸を見せ合った仲じゃないカ!」
「そんな覚え、ないんですが」
「ということだヨ、MMR諸君。この少年ボーイは、今回の一件とは無関係サ!」
「貴様に言われんでもわかっておるのじゃ! そもそも、この若人はゆる邪神を持っておらん。fanaticの同類ではない!」
「その」
二人の口論に、ぼくは口をはさむ。
タナトスさんが少しだけ困ったように目を細めて見せた。
「ふぁなてぃっく? っていうのは、なんなんですか?」
六花ちゃんもずっと、それを口にしている。
ゲーム内のゆる邪神は、これを集めることで版図を拡大できるらしいけれど、ぼくにはよく意味がわからない。
それをくーちゃんが必要としているらしいことだけは、漠然と理解しているのだけど……
「ナルホド。やっぱり理解していなかったんだネ! それは僥倖だ、吾輩が説明しよう!」
「黙るのじゃ! 貴様は間違った情報を若人に植え付け、手勢に引き入れるつもりであろう! わしが説明するのじゃ!」
「どちらでもいいので、おねがいします」
「うむ、fanaticとはな。一言で言い表すと〝狂信者〟のことじゃ」
狂信者。
信仰に狂った存在。
正しくないものを信じ、奉るもの。
つまり、それは──
「この、語ることも忌まわしき冒涜的なゲーム、くーちゃんの召還の最終目的は、世界中に存在するすべての邪神崇拝者──その狂信を、一柱のゆる邪神に集め、本体たる邪神を目覚めさせることにあるのじゃ! そして、その主導者のひとりが──」
「どうやら吾輩だと、MMRの諸君は勘違いしているらしいネ。いやー、こう呼ぶのが適切かナ? ゆる邪神ハンターの諸君と」
彼女がその名称を口にした途端、網戸さんたちに緊張が走ったのが見て取れた。
そして、タナトスさんの言葉の意味を、ぼくは察することができた。
くーちゃんをスマホに戻しておくことで、ぼくたちが彼らに狙われないよう、タナトスさんは取り計らってくれたのだ。
彼女が味方とするには論拠が乏しすぎるが、それでも一つの判断材料にはなる。
話の続きを促すと、網戸さんは饒舌に語り始めた。
「この世界はなにかがおかしいのじゃ。ある日を境に、すべてのものが狂ってしまったとしか思えぬ。たとえば……空に太陽はいくつあるかね、若人?」
「ふたつですね」
「生まれたときからそうだったかいの?」
「そうだとおもいます」
この星の太陽は二つだ。
少なくとも、ぼくが生まれたときから、二つだった。
彼はほかにもおかしな点を列挙する。
海に果てがない事や、南極にその面積を超える巨大な山脈がある事、中国の地下に巨大な空洞が発見されたこと、カメと呼ばれる種族ははるか以前に絶滅していること、カイジュウ? とかいう巨大なモンスターなど、空想の世界にもいないこと。
なによりも。
「そう、なによりも、じゃ」
網戸さんは、深刻な面持ちでこう言った。
「だいの大人がスマホでゲームをしている──おかしいとは思わんか?」
「は?」
首をかしげるぼくに、彼は熱く語る。
「おとなはゲームなどせんじゃろ! 遮二無二汗水たらして働くのが大人じゃ! ゲームは子どもだけの玩具じゃ! だというのに、この世界──否、この夢のような世界の住人たちはどうじゃ!? 四六時中スマホを手に持ち、通勤や移動中までゲームにふけっておる! おまけになんじゃあの、ガチャ? とかいうシステム!」
「ガチャ……」
「現実の金を使って、存在しなデータを買い漁るのじゃぞ!? ゲームのサービスが終われば、消え去ってしまうものじゃのに! しかも、確実に手に入るものでもない。そんなものに1万、10万、あまつさえ100万も課金する人間の気持ちが、わしにはわからん! つまり奴らは狂信者なのじゃ!」
「これに限っては、吾輩も見解が分かれると思うけれどネ。絵画を鑑賞したり、映画を見るのと同じだと考えることもできるわけだ。はてさて、どうしてそう、目くじらを立てるのカ……」
「芸術は心の栄養になるからじゃ! ゲームはしょせん遊び! ゆえに即断でガチャは悪! 悪い文明! 破壊する!」
ごはんは、食べればなくなる。
楽しい思いをしたら、対価を払う。
快楽のために、金銭を使う。
それは、ぼくのような小学五年生でもわかる理屈だ。
無料でなにかを得ようというのは、資本主義経済では致命的に間違っている。
だが、網戸さんはそれが正しい世界のありようだという。
それが、本来の世界であると。
「正義の名を今、穢すのは誰じゃ! それは決まっておる、こやつのようなfanaticなのじゃ! わかりやすく説明してやるのじゃ、若人。邪神を復活させるとは、つまり──」
網戸さんは、唾を飛ばしながら、力説するのだった。
「つまり、レアキャラだけに人権のある世界の到来……世界中の人間が、ガチャに支配される時代が来るということじゃ!」
「「ナ、ナンダッテー!?」」
なるほど。
後ろの二人の役目はこれなのかと、ぼくは深く納得するのだった。
NEXT ROLL ── 当たるまで引けば無料なんでしょ?
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