第五回転 スキル・チート・オンライン

「刮目なさい、これがニャルさまの御力よ!」


 そういうと、六花ちゃんはニャルさまのスキルを、ぼくに見せてくれた。


RARE:SSR

NAME:ニャルさま

IDENTITY:闇にさまようもの

LACE:ニャルラトホテップ


SKILL:

燃える参眼Lv1:(相手のメダルをすべて裏側にする)

千の貌Lv1:(相手のスキルを使える)

トリックスターLv1:(次に表示されるメダルを任意の色に変え、また相手のメダルをランダムに再配置)


「チートじゃん!?」


 思わずぼくは叫んでいた。

 初心者のぼくが一目で理解できる。

 それほどの反則級キャラだったのだ……

 ぼくのそんな反応がよほど心地よかったのか、六花ちゃんは胸を強調するように腕を束ね、恍惚とした表情で答える。


「そう、ニャルさまはチート! これひと柱いれば、レベル1のままでもストーリーは全クリできるくらいのチート・オブ・チート! 宮内洋withビッグワンみたいなものよ!」

「もうチートや、チーターやろそんなん!」

「お約束ありがとう!」

「それはそれとして……ねぇ六花ちゃん。一つだけ、訊いてもいい?」

「なによ?」

「ぼくね。時々、時々だけど」

「ええ」

「六花ちゃんの実年齢を、疑っている」

「……あたしのことが理解できるあんたも、たぶん同じ年齢よ」


 なるほど、一理あると思った。

 そうこうしている間にもゲームは続く。

 ぼくの必死なタップに合わせて、くーちゃんも懸命にメダルを砕く。

 NICE、NICE、NICE、GOOD……でも、なかなかEXCELLENTは出ない。

 一方で、六花ちゃんはEXCELLENTを連打している。


「にゃぐー、にゃーぐー」

「いいわぁ……さいこうようぉ……あたしのニャルさま、ほんとう、尊い……」


 なんか語彙力が枯渇したみたいなことを言い始めた。


「くー!」

「くーちゃん……?」

「く、くー!」


 そこで、異変が起こる。

 くーちゃんが突然、ピョンピョンジャンプを始め出したのだ。

 そのさまは、まさに緑色のゴムまりが跳ねるがごとく。

 そして、その勢いのままにくーちゃんは、


「くとぉー!」

「にゃぐ!?」


 あろうことか、ニャルさまの貌を、蹴っ飛ばした。

 な、なんてことを!

 これは六花ちゃん激怒必至。

 はやくもこのゲームは終了ですね!


「なかなか優秀なAIね。プレイヤーが動かないことを察して、相手のスタミナを削りに来るとは……くさっても初心者用ゆる邪神ということかしら」

「あれ? 六花ちゃん怒らないの?」


 ぼくが驚いてそう尋ねると、彼女はすごくオーバーリアクション気味に「はは~ん?」といった。


「なんで怒るのよ。これは仕様よ。相手のコンボミスを誘発したいときや、一時的に行動不能にしたいとき、プレイヤーはゆる邪神を操作して、あいてのゆる邪神のスタミナを削ることができるの。まあ、リスクゼロではないけど……ほら、見てみなさい」


 言われるがまま視線を向けると、ニャルさまが悶絶していた。

 くーちゃんがその触腕を総動員して、ニャルさまをくすぐっていたのである。

 可愛らしい緑色のたこが、可愛らしい三つ目のコウモリと戯れる、じつに名状しがたい光景が目の前にあった。

 だけれど、


「ほ、ほんとうだ! ニャルさまの動きが鈍っていく……!」

「スタミナはマスクデータだからね、閲覧することはできないけど……そうね、くーちゃんは一回のアクションでスタミナを6削れる。ニャルさまはどの化身でも30ちょっとだから、そろそろ行動不能になるわね」

「じゃあ、ぼくたちの勝ち──」

「とはならないのが、このゲームの奥深さよねぇー」


 しみじみと告げるなり、彼女は画面を二度タップする。

 それは、スキルの発動を意味していて──


「第二スキル──千の貌Lv1発動! 〝いまだ目覚めぬもの〟の第一スキルをニャルさまが使用! これによって、あたしは三体の眷属を召還する……」


 その宣言とともに、ニャルさまの身体が輝く。

 黒い煙のようなものが立ち込め、その姿を隠し──次の刹那、そこには三体の……馬の頭を持つコウモリがいた。

 えー……チート過ぎない……?


「まあ、レベル1じゃこんなもんでしょう。はい、眷属のシャンタクちゃん、ニャルさまの代わりにメダル砕いてねー」

「しゃーたっく!」


 勢いの良い返事とともに、馬頭のコウモリ、シャンタクは周囲のメダルを砕いて回る。

 明らかに、ぼくがサカナ頭さんたちを呼んだ時とは動きが違った。

 さては六花ちゃん……このゲーム、やりこんでいるな……ッ!?


「徹夜したしね。だからこのゲームで、この出門部院でもんべいん六花に精神的動揺による操作ミスは決してない!っと、思ってもらおう……ッ!」

「そんな苗字だっけ、六花ちゃん?」

「そんな苗字だったのよ……と言っている間に、フィナーレね。これで決まりだ!」


「くー!?」

「にゃ、ぐー!」


 くーちゃんのくすぐり地獄を突破したニャルさまは、そのまま飛翔。

 その場にあったほとんどのメダルを、一気に砕いてしまう。

 EXCELLENT! EXCELLENT! EXCELLENT!

 あとには黄金の紙吹雪が舞うばかりで……

 それはまるで、ピーターパンが空をかけ、魔法の粉を散らすかのような光景だった。

 そして、曲が終わり──


 You Win!


 と、六花ちゃんのスマホに、虹色の表示がされたのだった。

 当然だ。だってくーちゃんは妨害に徹していて、あのあと一枚もメダルを砕いていなかったのだから……

 これが、相手を攻撃するリスクか。


会神かいしんの、一撃ぃ……!」


 なんだかドスが聞いた調子の声で、六花ちゃんは勝鬨を上げたのだった。



 NEXT ROLL ── WWな事実/ライバルは突然に

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