第三回転 SAN値!ピンチ!まいっちんぐ!?

「SAN値バトルはSAN値バトルよ! それ以上でも、それ以下でもないわ!」

「あのね、六花ちゃん。ぼく、チュートリアルもクリアーしてないから、本当にSAN値がなにか、わからなんだけど……」


 ぼくがそう口にすると、彼女は信じられないものを見るような目つきになった。

 それから一拍あって、納得したかのように手を打つ。


「あ、スキップしたわけね? たるいもんね」

「違うよ? ぜんぜん違う」

「あんた一晩もあってなにやってたたのよ!? まさかそのコモン邪神つついて遊んでたなんて言わないでしょうね!?」


 そのとおりだというと、六花ちゃんは盛大にため息をついた。

 そうして、あきらめたように自分のスマホを取り出す。


「あんたのそういうとこ、嫌いじゃないけど好きじゃないわ……あのね、ゆる邪神はアバターなの。本体をよみがえらせるために、彼らはたくさんのfanaticを必要としているのよ」

「fanaticってなに」

「それを集める唯一の方法が、ゆる邪神同士によるSAN値バトルなの。相手プレイヤーのSAN値をシューッ! 超エキサイティングッ!」

「fanaticってなにさ!?」


 いくら聞いても、彼女は頑迷なまでに教えてくれようとはしなかった。


「ぼっちプレイではNPCノン・プレイヤー・クリーチャー相手にSAN値バトルをすることになる。でも、このゲームのだいご味はPvPよ」

「その顔文字みたいなのなに?」

「ぷれいやーばーさすぷれいやー。ようするに、いまからあたしたちがやるみたいな、対人バトルってこと」


 言いながら、六花ちゃんはくーちゃんの召喚を起動する。

 あ、ふつうにプレイできるんだ。

 くーちゃん出てきてから起動してなかったから、もう遊べないのかと思ってた。


「……本気で何もしてないのね……ゆる邪神が飛び出てきた後、あたしはすぐ確認したわ。問題なく、すべての機能がアクティヴだったし、バグはバグのまま残っていたの。明後日はメンテよ」

「メンテって?」

「ガチャを引くための、詫びエルダーサインがもらえる神イベよ。ちなみにメンテが終わるとメンテが始まるわ」

「へー」

「で、知り合い同士でバトルするためにはランダム抽選か、フレンドコードを交換する必要があるのよ。ほら、あんたもスマホ出して、起動して」


 言われるがままスマホでアプリを起動する。


「あ、くーちゃん」

「くー?」

「きみじゃなくて」


 画面の中には、くーちゃんとうり二つのキャラクターが存在していた。

 というか、こっちの世界のくーちゃんがそっくりなわけで。


「そりゃそうよ。。それより、ほら、スマホ貸して」


 疑問を抱く間もなく、スマホを六花ちゃんにひったくられる。

 突き返されたときには、トモダチという部分に、見知らぬ名前が登録されていた。


「この、†虚無の申し子†って、だれ?」

「あたしよ」

「へー」

「やめて! お願いだから笑って! 一度登録したら変更不可能なんて知らなかったの……ほ、ほら、笑いなさいよ! わら……いま、あたしを嗤ったな!?」


 なんだか情緒不安定な六花ちゃんは、頭からしゅうしゅう湯気を上げている。

 でも、人様を嗤うなんてこと、ぼくはしない。

 そーゆーのは、しちゃいけないことだ。

 ぼくは真剣な表情で頷く。


「いいと思うよ。かっこいいし、COOLだと思う。特にこの、†っていうのが──」

「やーめーてー!!!! 真摯な対応しないでー!」


 床に崩れ落ち、顔を覆ってゴロゴロともんどりうつ六花ちゃん。

 耳が真っ赤だった。

 スカートの裾がちょっとめくれあがっていて、パンツが丸見えになっていた。

 やがて、むくりと彼女は起き上がる。


「ふっ……あたしとしたことが取り乱したわね」

「パンツ、まだ見えてるよ?」

「ッ──あたしとしたことが、取り乱したわね」


 慌ててスカートをただし、六花ちゃんは気取ったポーズをとった。

 顔はゆでだこみたいに真っ赤で、口元は引きつっているけど、よかった。いつもの六花ちゃんだ。


「あたしとしたことが──」

「それはもういいから、それで。SAN値バトルって?」

「これはまいっちんぐ先生ね……」

「ねぇ、六花ちゃん小学五年生だよね? 本当に、ほんとに小学五年生だよね?」

「実際にやってみましょう。やりながら覚えたほうが、たぶん早いわ」


 当然の疑問をパーフェクトスルーした六花ちゃんに言われるがまま、ぼくはバトルと書かれたアイコンをタップした。


 ──汝、魂の主にすべてを差し出す覚悟がありや?

 (ルールを守って楽しくバトル!)


 こんな文字が表示され、次の瞬間──


「えぇー!?」


 ぼくは、仰天した。

 だって、ぼくの部屋いっぱいに、


 一抱えほどもあるメダルが、大量に出現したのだから。


「くー!」

「くーちゃん?」

「にゃぐー」

「六花ちゃんのニャルさまも?」


 ふた柱のゆる邪神が、飛び上がり、部屋の真ん中に着地した。

 そして、彼らを中心に、色とりどりのメダルが回転を始めて──


「さ・ん・ち! さんち! さ・ん・ち!」

「なにこのうた?」

「歌は気にしないで!」


 コホンと咳払いし。

 六花ちゃんはこう説明してくれたのだった。

 SAN値バトル。

 その戦闘方法は、



「──ダンスよ!」



 NEXT ROLL ── ダンス・ダンス・ハイレゾリュ―ション

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