第二回転 どっちを食べまSHOW!


「くーちゃん! 六花ちゃんは食べ物じゃないよ!」

「くー!」

「じょーとーじゃない! たこ焼きにしてやるわよ、たこやきに!」


 キリッとした表情で、手足をばたつかせ六花ちゃんに飛び掛かろうとする緑色のたこ──くーちゃんを抱き替えながら、ぼくは途方に暮れていた。


 スマホから突然飛び出してきた謎のたこに、ぼくはとりあえず〝くーちゃん〟という名前を付けた。

 そしゃげ〝くーちゃんの召還〟のウィキをのぞいてみたところ、ちゅーとりあるのガチャでもらえる景品は、〝くとぅるふ〟という種族で固定だと書かれていたからだ。

 種族が〝くとぅるふ〟だし、鳴き声もだいたい「くー」だから、くーちゃんがいいと思ったのだ。

 もちろん、ゲームのキャラが現実に抜け出てくるなんて、とても驚いた。

 でも、アニメとかでよくある展開だったし、たぶん現実ってこういうものなのだ。

 そんな風に思う。


「くー! くー!」


 触腕をピコピコと動かし、ぼくにじゃれついてくるくーちゃんは可愛かったし、さわり心地もゴムまりみたいで楽しかった。なんだか安心する感触である。

 むぎゅっと抱きしめて、ツンツンつついて遊んでいたら、いつの間にかぼくは眠ってしまっていた。

 そんなぼくをたたき起こしたのが、六花ちゃんの大声だった。


「ちょっと、ちょっと目を覚ましなさいよ! すごいことが起きたんだからー!」


 部屋の扉を勝手に開けて入ってくるなり、彼女はそう叫んでみせた。

 眠気眼をこすりながらぼくが半身を起こすと、六花ちゃんは鼻息も荒く仁王立ちをしていた。


「どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないわ! みて、あたしの祈りが、神に通じたのよ!」


 そういって、彼女がバッグから取り出したもの。

 それは──


「ニャルさま、ご降臨なのだわ!」


 ……輪郭がとてもあいまいな、コウモリのぬいぐるみだった。


「にゃぐー」


 なんか鳴いた。

 コウモリじゃなかった。

 真っ赤なめらめらと燃える目が三つあって、ぱたぱたとはばたく姿は、どう考えてもぬいぐるみのそれではない。

 つまり。


「六花ちゃんのスマホからも、飛び出してきたの?」

「そうなの! あたしの献身的な祈りと生け贄がきっと造物神あざとーすに届いたのよ! 昨日くー召を」

「くー召」

「くーちゃんの召還のことよ──を徹夜でプレイしてパパのクレジットカードで勝手に課金したら、このニャルさま──闇をさまようものが当たったの! SSRよ!」

「へー」

「もっと驚きなさいよ! 排出率0.0001%よ! そして、まさか。その玉躰ぎょくたいが、現実の世界に現れて下さるなんて──まさに奇跡!」

「ふーん」

「……なに。あんたなんで、そんなに反応悪いわけ? フツー驚くでしょう。ていうか、さっきあんた、六花ちゃんのスマホからって」

「うん、そうだよ」


 ぼくは、布団の中で眠っていたたこを取り出して見せた。


「くーちゃん! この子も出てきてくれたんだ」

「──はああああああああああああああああ!?」


 目を見開いた六花ちゃんは、悲鳴じみた大声を上げたのだった。


§§


「OK、かんぜんに理解したわ」


 なにもわかってなさそうな顔で、六花ちゃんはそういった。


「とにかく、あたしたちは選ばれたのよ。かたやSSRを召還した美少女、かたや|

C《コモン》を引いたさえない小学生。でも、世界でたったふたりの選ばれし子どもたちだもの……ここは、超協力プレイで攻略するしかないわ!」

「六花ちゃん、いくらぼくでもその言動がヤバイことぐらいはわかるからね……?」

「ニャルさまたちは封印された邪神のアバター……ゆる邪神とよばれるものよ。基本的には戦って、相手からfanaticを入手する以外、成長とかはしないわ。ただ、ときどき隠しパラメーターの空腹値というのが低下してくると」

「いあいあ!」

「そう、いあいあ! って鳴き声を上げる、んだけ、ど……」


 ジッと、僕の手の中のくーちゃんを見つめる六花ちゃん。

 手足と翼をパタパタさせ、「いあいあ!」と、はじめてくー以外の鳴き声を上げるくーちゃん。

 ふたりはしばし、視線を交わして。


「てめー! 雑魚邪神の分際で、あたしを食いもんだと思てやがるわね!?」

「くー! くくぅー!」


 お互い荒ぶる謎のポーズをとると、突如いがみ合いを始めた。


「あ、やめ、触手柔らかい!?」

「くー!」

「くーちゃん! 六花ちゃんは食べ物じゃないよ!」

「くー!」

「じょーとーじゃない! たこやきにしてやるわよ、たこやきに!」


 慌てて止めに入るものの、もはや両者一歩も譲らず。

 そして、六花ちゃんはこう宣言したのだった。


「理解したわ。これが食うか食われるかの、弱肉強食やせいのおきて……かかってきなさい、底辺ゆる邪神! あたしの肉体をかけて──SAN値バトルで勝負よ!」


 なんかよくわからないものが、始まってしまうらしかった。



NEXT ROLL ── SAN値!ピンチ!まいっちんぐ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る