ガチャ@くとぅるふ!
雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞
第一章 初めてのガチャは、くとぅるふでした
ふたりは小学五年生!
第一回転 ちゅーとりある は ちょっとリアル?
その日、ぼくらのSAN値は反転した──
「これはくそげーですね」
ぼくのスマホで勝手にアプリを落としていた六花ちゃんが、とても渋い表情でつぶやいた。
この幼馴染は、ぼくとおなじ小学5年生だというのに、毎月通信制限がかかるまでスマホを使い込んでいるのだ。
その原因は、そーしゃるげーむというやつらしい。
そーしゃるげーむは、とても簡単でエキサイティングだと、六花ちゃんは言う。
「さつたばでなぐるだけ。おかねさえあれば、愛とかかんけいない」
なるほど。
愛とかそーゆーの、ぼくにはよくわからないけど、たぶん簡単なんだろう。
「おまえのゆきちがないている」
六花ちゃんはことあるごとに、意味がわからないことを言う。
わからないなりに、彼女がぼくのスマホを使ってるのは、やっぱりよくないのだと思う。
「ひとのスマホでガチャを引いてもいい。自由とはそういうものだ」
きっと、それは自由ではなくて、搾取とかそういうものだと思うけれど。
とにかく、スマホをそろそろ返してほしい。
ぼくにも、ぷらいばしーはあるのだから。
「いわれなくとも返すわよ。だって、このゲームくそげーなんだもの」
「ぼくにはその、そくげーというのがよくわからないんだ、六花ちゃん」
「78時間連続でメンテしてたり、ほかの会社のシステムをそっくりそのまま流用したり、回せ、回転数がすべてのゲームは全部くそげーよ」
「うん、ぜんぜんわからないけど、六花ちゃんがすごいむちゃくちゃをいっているのだけはわかった」
「へー、いいわ。そこまで言うのなら、このゲームがくそげーであることを証明してあげる」
そういって、彼女はぼくにスマホを投げつけてきた。
壊れたら困るので、ていねいにキャッチする。
「いい、この画面を見て」
ぼくのとなりに、六花ちゃんが腰を下ろした。
そのまま、ぐいっと密着してくる。
ちょっとだけ、なつかしいにおいがした。
「なに?」
「ううん、なんでもない」
「そう。じゃあ、説明するわね。このゲーム、くーちゃんの召喚っていうのだけど」
「くーちゃん?」
確かに画面には、くーちゃんの召喚と表示されている。
下のほうにDeep Ones Communication.と小さく書かれているが、読み方はわからない。
「ダイレクトな操作性! 注ぎ込んだ
「いまマネーって言った? ねぇ、マネーって言った?」
「うるさいわね、まだ課金してないわよ」
されていたら困る。これはぼくのスマホだ。
「えっと……それで、なにがくそげーなの?」
「ええ、じつはね」
「うん」
「じつはこのゲーム……」
「うん」
ごくり。
「──あたしの推しキャラが、未実装なのよ!」
「はい?」
推し?
未実装?
なにそれ?
首をかしげる僕に、六花ちゃんは熱っぽく語る。
「フラゲ情報で、這いよる混沌が実装されるのはわかっていたのよ。それがいつだと思う? ねぇ、いつだと思う?」
「知らないけど」
「それは、今日!」
とつぜんシャウトする六花ちゃん。
ひょっとしたらメンタルが不安定なのかもしれない。
「今日だったのよ! 今日、ニャルさまが実装されるはずだったの! なのにくーちゃんの召喚運営ときたら……やーん、ニャルさまが未実装! 運営のカバ! せっかくニャルさまよいしょ本を用意してたのに!」
「六花ちゃん、まずは落ち着いて」
「ソクバ異海でウ=ス異本を出す予定だったのにいいいいい」
これっぽっちも彼女がなにを言っているのか理解できないが。
理解できないが、たぶんそれは、実装されようがされまいができることなんじゃないだろうかと、ぼくは思った。
「ええ、できるのだけど」
「できるんだ……」
「ともかくあたしの好きなタイミングでガチャを引けなかったのが悔しいのよ! お預け放置プレイなの!」
「えっと、さ。六花ちゃん、一つ聞いてもいい?」
「なによ」
その、ずっと気になっていたことなんだけど。
「ガチャって、なぁに?」
§§
あまりにものを知らないぼくに唖然とした六花ちゃんは、脱力して家に帰っていってしまった。
最低限、ガチャというものがなんなのか教えてくれたのは、彼女のやさしさなのだと思う。
ガチャというのは、簡単にいうと、おみくじみたいなものらしい。
お金や、ゲームの中で手に入る専用のアイテムを使って、抽選をする。
すると、あたらしいキャラクターやアイテム──つまり景品がプレゼントされる。
それがお目当てのものだったらあたり、違ったらはずれというのだとか。
ぼくも神社でおみくじを引いて大凶が出たらちょっと怖いし、大吉が出たらすごくうれしい。
たぶん、そういう運試しなのだ。
六花ちゃんが帰ったあと、ぼくはその、くーちゃんの召喚というそしゃげを、少し触ってみた。
どうやらこのゲームは、ミニキャラを操作して敵を倒し、その敵が持っていたポイント(fanaticと表示されていた)を奪い合うというものらしい。
ストーリーもついていて、遠いむかし悪者に閉じ込められた神様と契約して、世界を取り戻すというような内容だった。
それで、世界を取り戻すためには、fanaticを集めなくてはいけないらしい。
よくわからないなりに、おっかなびっくりプレイしていると、なんとかチュートリアルまでこぎつけることができた。
宝箱が開くムービーが流れて、星のマーク(でも、下のかどが欠けている)が付いたお札を一枚、プレゼントされたことを伝えられる。
どうやらこれを使うことで、ガチャというのを引くことができるらしい。
六花ちゃんには、好きにしていいと言われていた。むしろ引いて同胞になれと言われていた。意味はわからない。
ぼくは散々迷ったけれど、ガチャを引いてみることにした。
たまには自分の運を試してみようと、そう思ったのだ。
一度深呼吸をして──なにぶん初めてのガチャだ。緊張していたんだ──ぼくは、画面をタップした。
お札が光る。
──星辰は今、正しき位置を指し示す。
びりびりと音を立てて、お札が砕け散る。
──旧き神の印は、盟約をもって破却された。
稲光みたいなエフェクトがちかちかと瞬いて、とつぜん画面が真っ黒になった。
──ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん
次の瞬間、虹色の光が瞬いて──
──いあ! いあ! くとぅる ふたぐん!
そして、光が去ったとき、それはそこにいた。
「──え?」
それは、とても名状しがたいものだった。
それは、たぶんぼくの知る知識では、少しも言い表せないなにかだった。
それはきっと、未知の──
それは、手の平におさまるぐらいの大きさの。
緑色をした、たこだった
小さな羽の生えたたこが、ぼくのスマホの上に乗っかって、胸を張っていたのだ。
……たこが胸を張るとか意味がわからない。
それ以前に、なにが起きたのかわからない。
ぼくは、そしゃげのガチャを引いたはずで。
「つまり」
僕ののどが、ごくりとなった。
気がついてはいけないことに気が付いてしまった気がしたのだ。
ああ、うそだろう……?
気が狂いそうな思いをしながら。
ぼくはその事実を、震える声で、口にする。
「きみが、ガチャの景品……なの?」
恐る恐る尋ねるぼくに、そいつは、
「くー!」
元気いっぱいという様子で、そう鳴き声を上げたのだった。
これが、ぼくとくーちゃんの出会い。
最初の一日。
くーちゃんがぼくにとって、大凶だったのか大吉だったのか。
それとももっと別のものだったのか……
ぼくはいまも、わからないでいる。
NEXT ROLL ── どっちを食べまSHOW!
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