2: 雪原のカカシ

 目の前には雪原が広がっていた。見渡す限り真っ白で、木の一本すら生えていない。何もない夜の雪原の中に、自分だけが立っている。星明かりで、雪原には茫然と立ち尽くす自分の蒼い影だけが落ちていた。

 思わず後ろを振り返った。けれどそこに自分が住んでいる家はない。

 混乱して、咄嗟に一歩足を踏み出す。雪がさくっと微かに音を立てた。足首まで雪に埋まる。しかし、触れる雪は冷たさを感じない。こんな一面の雪原の中にいるというのに、さほど寒さも感じなかった。

 夢なのだと理解するのに時間はかからない。突風に目を瞑った一瞬で、あの寒空の下、眠ってしまうのもどうなのだろう。

 さくっと、また雪を踏む。急に目の前に現れた、何もないこの場所で、行くあてがあるはずもない。夢であろうと、滅多に見れないこの雪原を楽しもうと心に決める。足跡一つついていなかった雪原を、意味もなく歩いて足跡をつけたり、柔らかな雪の上に倒れ込んだりした。

 それも少し飽きてきた頃、ふと顔を上げると、いつの間にか何もなかったはずの雪原に、何かが立っていることに気がついた。

 恐る恐る近づけば、それはすっかりくたびれたカカシだった。そのカカシには右腕しかない。伸ばされた片腕は、まるで行き先を指し示しているようだった。その指差す方向を見る。相変わらずその先は何もない雪原だ。真新しい雪をそっと踏んで歩き出す。

 暫く進んだ時、一度後ろを振り返った。カカシがいたはずの場所では、仄青い蛍のような光が飛び交っていた。

 その方向から風がそよぐ。雪原の上を滑るようだった風は次第に強くなり、無数の仄青い光を引きつれて吹きつけてきた。腕を翳して顔を庇う。視界が一瞬仄青い光の色に染まった。

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