3: 廃墟のカーテン

 風が止んだので腕を下ろす。残像に目を瞬かせていると、そこは今しがたまでいた雪原ではなかった。

 まるで人から忘れ去られたか、古代遺跡のものだったかのような、かなり年月を経ていそうな場所だった。自分が立つ石畳には、暖かな陽の光が降り注ぎ、青い新芽が、石畳の隙間のそこかしこから芽吹いている。

 辺りを見回すと、周辺には石を積み上げて造られた家屋がいくつも建っていた。どれもところどころ崩れて、つる草が絡みつき、崩れた石は苔むしている。

 そんな古い建物のうちの一軒、崩れていない窓の一つに、なぜか真新しいカーテンがなびいているのが目に入った。そよ風にふわりふわりと揺れている。

 紗幕のような、薄絹のようなカーテンは淡い桃色で、揺れるたびに、光の加減で青や紫に色を変えた。

 そのカーテンの先――暗い建物の中には何かがいるのか、まるで蛍のように明滅しながら、光がくるくると躍っている。そよ風になびくたび、光の加減で色を変えるカーテンと、蛍のような光に、虹が目の前で揺れているようだった。

 次第に、カーテンの向こうに何がいるのか気になってきた。めくろうとして、カーテンの端に手を伸ばす。その時、建物の中の方から風が吹き抜けた。

 大きくカーテンが揺れる。一際大きく翻ると、ばさりと音を立てて、その前に立っていた自分に絡みついた。まとわりついてくる布から逃れようと、じたばたともがく。

 風が収まると、まとわりついていたカーテンは、まるでその風がさらっていってしまったか、空気に溶けてしまったかのように、急に掻き消えた。

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