おまけ

おまけ

 だってさ、深夜だったから。

 ふつふつと湧き上がるものがあるじゃないですか。

 小腹が空いてね、行きつく先は……


「ナッツン! お腹空いたよ」

「え? かおるん? 眠いよ? 今何時だと思ってるの?」

「だって、お腹空いたんだもん。ところで”かおるん”って何?」

「”かおるん”は”かおるん”だよ。その方が可愛いよね。夢の中で食べてた……」

「えっ!? 私、食べられちゃうの? お腹空いてるのに?」

「そう、ガブッ! むしゃむしゃむしゃ。ぺっ!」

「あー! 吐き出した。酷い……」

「気付いたら人の布団に入ってくるのが悪いんだよ」

「だって、ナッツン温かいんだもん」

「”かおるん”そんなにくっついたら熱いってば……」

「だから吐き出しちゃうの?」

「根に持ってるね」


「ナッツンを食べるのは私だけだからね」

「はいはい」

「あー、もしかして先に食べた人が……(泣」

「いないいない、”かおるん”ずっと一緒にいるでしょ?」

「そうだね、でも深夜にこっそりと……」

「私のこと疑ってるの?」

「信じたい、信じたいけど……、ナッツンの味を確かめないと信じられないかも……」

「調子の良いこと言って、小腹が空いてるだけでしょ? ほら、そこにプリンあるから食べていいよ」


「ブーブー、プリンで誤魔化されたー」

「なーに? プリン嫌いだった? だったらそれ私食べるから」

「えー! くれるって言ったのに……いじいじ」

「もう、面倒くさいなぁ」

「ナッツンの皮に挟んで食べさせて」

「は?」

「どら焼きの皮に挟んでプリンどら焼き」

「焼いてないし」

「妬いてるよ!」

「あぁ、もう面倒くさいなぁ、ほらこれでいいの?」

「食べさせて」

「なんで?」

「たーべーさーせーてー」

「チッ、この子はもう……、ほら、口開けて」

「パクッ!」

「あ! 私まで食べないでよ」

「甘くて美味しいよ」

「もう……、カオルは自由なんだから」


「カオルに戻ったね」

「少し目が覚めたからね」

「ねぇ、ねぇ、どら焼きにさ、あんこをいっぱい詰めたらおいしくなりそうだよね」

「急に話が変わったね」

「目が覚めたって言うから」

「はいはい、そうだね」


「お饅頭でも人形焼でもたい焼きでも皮が薄くて中のあんこが透けて見えるくらい詰まってると美味しそうだよね」

「うんうん、それでカオルはなんで私のことじっとみてるの?」

「ナッツンのあんこが透けて見えないかなって」

「何言ってんの」


「あんこが透けるくらいパッツンパッツンに詰まってる方が美味しいんでしょ?」

「それはそうだけど、じっと見ても透けないからね」

「ケチ……」

「え? なんか言った?」

「どら焼きはさ、中に何を入れるかが重要なんだよ」

「誤魔化したね」

「中に何も入ってなかったらがっかりじゃん」

「それはどら焼きじゃないよね」

「だから何が入ってるかが重要だよね!」

「あんこでいいよね」

「それだけでいいの!?」

「いいよ」


「ナッツンはもっと皮に包まれた中身に神秘を感じても良いと思うんだ」

「いや、あんこだよね」

「それとさ、皮はさ、あんこの形を守るためにあるんだよ」

「いや、皮は皮で美味しいお菓子だよね」

「ナッツン、胸に手を当ててみて」

「こう?」

「両手で!」

「え? こう? ってなんでこんなことしてるの?」

「その手の形をそのままに、両手の手の平をを重ねて……」

「これに何の意味があるの?」

「ナッツンのあんこはこれくらいと……」

「ちょっと! 何やってるのよ!」

「いや、あんこの話だから!」

「ほんとに?」


「手の平でさ、包むと優しい感じしない?」

「もう誤魔化されないよ!」

「ナッツンには優しさが足りない……」

「カオルには脈絡が無い」

「無いならしょうがないよね?」

「何言ってんの」

「だからさ、どら焼きの包み込む優しさはさ、おにぎりみたいな優しさが入ってると思わない?」

「え?」

「この手の形、包み込む形」

「ん~、言われてみれば」

「だからさ、ナッツンのあんこにも優しさが詰まってるんだよ。手の平を出して、ほら、やってみて?」

「こ、こう?」

「そう! ほら、さっきと一緒。ふっくらと柔らかそうな……」

「ちょっと! カオル!」

「落ち着いて! どら焼きのあんこの話だから……」

「はぁ、はぁ……。そうね、あんこの話ね」


「ナッツンは甘い香りがして、舐めると甘いからあんこだよね」

「は?」

「ナッツンはあんこだよね。舐めると甘いから」

「舐めるってちょっと気持ち悪いんだけど」

「さっき食べたし」

「それはどら焼きの味でしょ?」

「ナッツンの味だよ」

「はいはい、もうカオルに付き合ってると眠れなくなっちゃう」


「今夜は寝かさないよ!?」

「そういうセリフ言ってもフラグは立たないからね」

「え~、立ってよ~。どら焼きの上に生クリームのツノが立ってよ~」

「寝る前に何言ってるの」

「だって、スポンジケーキっの上に生クリームのツノはいっぱい立ってるでしょ?」

「そうだけど、どこからその話になった?」

「だからどら焼きの上にも生クリームのツノを立てても良いと思うの」

「いいけど、自分でやってね。ってもうやってる!」

「ほら見て! 立ってるよ! ねぇ、立ってる! 立ってるんだってば!」

「あぁ! もう、また立ってるうるさいよ」


「フラグも立った?」

「立たない」

「なんで?」

「だって、もう遅いから。ほら寝るよ」

「これどうするの?」

「冷蔵庫にしまっておきなさいよ!」

「はーい」

「それじゃあ、もう寝るからね」

「うん。寝ちゃうんだ」

「だから、ほら早く入っておいでよ」

「……。うん!」

「寝る前のキスをして欲しいな……」

「しょうがないなぁ、ナッツンは……」

「明日一緒にどら焼き食べようね」


~お し ま い~

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