第6話
玄関で転がったまま、酒盛りをやっている姿は誰にも見せる事はとても出来やしない。
いつもしっかりしているというイメージを持たれているのに、それが全て台無しになってしまうからだ。
そうじゃなくても、恥ずかしすぎる。
一本目のビールを飲み終えて、次は何を飲もうかと袋を探っていると、呼び鈴が鳴った。
こんな時間に来客なんて普段は絶対に無いのに…………
しかも、こんな状態ではとてもドアを開けることなんて出来る訳がない。
辺りに散らばる酒、つまみ、弁当からお手拭きやら割箸、ゴミ…………
僕は少し考えて、居留守を使うことにした。
袋からそっと手を離して、出来るだけ動かないようにする。
さっき、袋の中を漁っていた時の音を聞かれて居なければ、誰も居ないと思ってくれるはずだ。
「ピンポーン」
再び鳴るその音に、僕は警戒する。
「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。居るの分かってるんですからね?さっさと出てくださいよ。」
その声、歯に衣着せぬ言い方ですぐ誰だか分かってしまった。
さっき会ったばかりの女だ。
しかし、何故、僕の家を知っているのだろうか…………
もしかして、ストーカーなのか?
いろいろ考えて、ドアを開けるのを忘れて考えていたら、激しくドアを連打された。
「はい、はい!開けますから、開けますから!」
もう、この際、このすごい状態を見られる心配をしてる場合じゃない。
僕は恐怖を感じて、急いでドアを開けた。
「やっと入れてもらえた~」
無邪気な満面の笑みでの一言に、僕は思わず笑いが込み上げてくる。
まるで、自分の家を閉め出された子供の一言と全く一緒だったからだ。
笑いながらも、後ろに控えている散らかり放題の物を出来るだけ隠そうと、身体を微妙にずらす。
しかし、僕の身長で後ろの物を隠すのは不可能だったようだ。
身長が僕の倍近くあるその人は、僕の真上から後方がバッチリ見えていたのである。
「こんなとこで飲んでたんですか!?しかもすんごい状況。」
すごく驚いた様子のその人は、しかし、とても嬉しそうにニコニコしている。
「リビングに持っていくのも、いろいろ準備するのも面倒でな。というか、君はいったい誰だ?」
僕の言い訳を、その人は悪意のある眼差しで見ることはなかった。
「私は、佐藤 楓と言います。えっと、増崎さん?これで、知らない者同士じゃなくなりましたね!こんな場所で飲むのとか良いですよね!普段と違うことやるのってわくわくしちゃいますよね!」
「って、何で僕の名前を知ってるんだ?って、聞いてないな…………何だったら、ええと…………君も一緒に飲むかい?」
それは単なる気まぐれで言った言葉だった。
しかし、それで、その人の表情が輝き始める。
「良いんですか!?すっごい嬉しいです!実は私も一人でやけ酒しようと思ってお酒を大量に買い込んでいたんです。」
そう、言うや否や、袋を乱暴にひっくり返して中身を全部ばらまいてしまった。
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