第4話

僕はやけ酒するために、コンビニでお酒類を大量に買い漁った。


いつものように店員に声をかけられる。


今日は、両親のおつかいなんて言わずに黙って免許証を差し出してやった。


とにかく、今は何も言いたくなかったし、言われたくなかったのだ。


免許は僕にとって印籠のようなもの。


普段は正体を隠して、大事な時にだけ出す。


…………いや、そもそも正体を隠してるわけじゃないんだけど、そう考えた方がかっこよく思える。


お酒とおつまみと菓子と珈琲と弁当を適当に買って、自分の家に帰る。


こんな時、やけ酒に付き合ってくれるような友人が居ればいいのだが、残念ながら友人はみんなすぐに飲みに行けるような場所にはいないのだ。


まだ、飲んでもいないのに大きな声で歌を歌いながらの帰り道。


僕は道端にうずくまった人を見付けた。


端っこにいるのにとても目立つ。


その人は、恐らく大柄な人なのに、身を縮めて隅っこに隠れて泣いているようだった。


その人は月明かりに輝くような艶やかな長い髪の毛と縮こませているはずなのに隠れきれていない長い手足がとても印象的だった。


僕がその様子に気を取られて、前を見ずに歩いていると歩道の段差に躓いた。


「おわっ!」


両手いっぱいの荷物のお陰で顔面から盛大に転ぶ。


辺りに散乱した酒類。


僕が慌てて拾い集めていると、さっきまでうずくまっていた人が近寄ってきた。


少しだけ明るい場所に出てきてくれたお陰で、その人が女性だということが判明する。


その女性は僕が散らかしたものを一緒になって拾ってくれた。


「ありがとうございます。助かりました。」


僕がお礼を言うと、その人は微笑んで頷いてくれた。


その瞳は涙で輝いていて、失礼ながらとても綺麗だと思ってしまった。


「…………おつかいですか?」


小さな声で、自分に声をかけられたと気付くまでしばらくかかってしまった。


「あ、いえ。これはこれから一人酒しようと思って買ってきたんです。こう見えても、僕はお酒を飲める歳なので。」


「そうでしたか。失礼しました。こんなたくさん飲まれるなんて、今日は疲れる事とか嫌なことがあったんですね。ゆっくりなさってくださいね。」


初対面の人間に、かけられた気遣いの言葉に僕はびっくりしてしまった。


酒を飲める歳だという話の時に疑いの眼差しを向けられなかった事も初めてだったし、仲良くもない人から気遣いされた事も初めてだった。


あまりにいい人っぽい感じについ、何かあるのではないかと警戒してしまう。


何なんだろうと奇妙な物を見るような目を向ける僕はとことん嫌なやつだと思う。

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