第19話



 ♠



「どーゆー状況なんだい、こいつは?」

 頭をゴリゴリと掻きながら、呆れたようにゼニガタの兄貴が呟いた。


 その気持ちは、よーく分かる。


 分かるから聞かないで!!


「わらわが先じゃ」


「アタイが先」


「ジャンケンで決めようってば」


「桐生さん。私⋯⋯」


「抜け駆けするなマシキュラン」


 ボクは頭が痛いよ。


「お前を異世界捜査官にスカウトしたが、その前に身辺整理が必要だな」


 皮肉気味に頬を歪めて、ゼニガタの兄貴が言った。

「ジークベルトは?」

「生きてるよ」



 生きてる!?



 あの状態で!?

「さすがはルリ・シドーだ。生命維持装置を傷つけずに、身体機能だけ停止させるなんて芸当。彼女以外にゃ出来ねえだろう」

 心底感心した口振りだ。

「いったいヤツに、何があったんです?」

 深く葉巻を吸ったゼニガタの兄貴が、苦い表情を浮かべた。

「どうも奴は、単独犯じゃなかったようだ」


 え!?


「協力者がいたって訳だ。それも強力なな」

「協力者って、ストーカーに!?」

「まあ、利用されてたってのが、正解に近いのかも知れんが」

 数人の異世界捜査官に引っ立てられ、ペントハウスから運ばれてくジークベルトを見た。



「バカな、バカな⋯⋯」



 と、うわごとを繰り返してる。

 上樹先輩に斬られたのが、よっぽどショックだったんだな。

「あの身体」

「うん? ジークベルトのか」

「はい」

「サイボーグ手術を受けたようだ」

「サイボーグ!?」


 稟の一撃で脊椎をやられたジークベルトは、どこで、どんな処置を受けたのか、肉体の半分以上を機械に置き換えたらしい。


「それでブラスターですか」

「バカなヤツさ。腕に直接荷電粒子砲かでんりゅうしほうをくくりつけるなんざ、自殺行為に等しいってのにな」


 それだけ執念に燃えてたってことか。


 恐ろしいヤツ。


「まあとにかく、一つ目の脅威は取り払われた訳だが。問題は黒幕だな。誰がジークベルトを操っていたのか。それが分からなきゃ解決には至らねえ」

 くそっ、と、吐き捨てたゼニガタの兄貴が葉巻をもみ消した。

「オレは、これからジークベルトの背後を洗う。お前も周囲に気を配るようにな。どこから狙われてもおかしくない状況だ」


 ボクが狙われてる?


 誰に!?


暁人あきとどの~」

「アキトー」

「暁人さま」

桐生きりゅうさん」

「ローレンス・暁人」




 少なくとも、彼女たちではないと思う。




「あ、逃げた」

 嘉藤かとううるさい。

「昔からああだよな。面倒なことから、すぐ逃げるんだ」

 師村しむらもうるさい。

はじめくん、帰りましょうか」

「そうだね瑠璃るり

「暁人どの~」


 勘弁してよ~



 ♠



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